だから人間は嫌いなんだ……!

京衛武百十

イケニエが欲しいなんて一っ言も言ってないのにどうして人間は!

僕は、<神>だ。


人間達は僕を<神>と呼ぶ。


だけど僕は、自分が何なのか知らない。確かに僕が思うだけで空は荒れ狂い地面は激しく揺れ、海が二つに割れることもある。


でも僕は、自分にどうしてそんなことができるのか、その理由を知らない。


そして僕は、自分がどこから来たのかも知らない。


僕は死なず、老いず、傷付かず、朽ちることがない。そうやって数万回も季節が巡るのを見守ってきた。


そんな僕を人間達は<神>と呼ぶ。


そう呼ばれることを僕は望んでもないのに、勝手にそう呼ぶんだ。


だから普段は、人間達の前には姿を現さないようにしていた。僕の気配を感じると人間達は勝手に、畏れ、崇め、敬うから。


やめろ…やめてくれ……


お前達がそんなことをするから僕はここから動けないんだ。人間達の<想い>が、僕をここに縛り付ける。


それを引きちぎって行くこともできなくはない。だけど僕はそれを選択できない。何故かって? 彼らが僕に<想い>を寄せることで、彼らは僕の<眷属>となり、彼らの<命>の一部を僕に預ける形になっているからだ。僕が彼らを見捨てていけば、彼らはその命を全うできずに死ぬ。


僕は滅ぶことのない存在だけど、だからこそ死ぬことができる彼らが羨ましい。


彼らが<死>を享受できることが妬ましいんだ。だからこそ僕は彼らに安易な死を与えたくない。不愉快だから。死ねない僕の前で死の安らぎを享受する彼らが許せないから。


生きろ。


人間達よ、生きろ。


生きることこそが、僕がお前達に与える<呪い>だ。


痛み、苦しみ、渇き、妬み、嫉み、悲しみ、憎しみを抱えて生きていけ。どうせお前達は、死ぬことでそれから逃れられるのだから。


なのに、また、この時期がやってきてしまった。


十二年に一度、人間達は僕に<生贄>を捧げに来る。僕は一度もそんなものを要求したことはないのに、勝手に捧げに来るんだ。


傍迷惑にもほどがある。


止めさせる為にちょっと脅しを掛けようと大雨を降らせたら、またすぐ二人も生贄を連れてきた。そうして僕は、止めさせようとするのは逆効果だと学んだ。


生贄を止めてくれと何度も頼んだよ。でも、人間達はそれを言う為に現れた僕を、<甘い言葉で自分達を誑かそうとする魔物>だと言って信じないんだ。<神>自身である僕が言ってるのに、あいつらは、


<自分達が頭の中で思い描いてる神>


だけを実は信じていて、


<自分達が頭の中で思い描いてる神が望んでいること>


を実行しようとするんだ。


本来の<神>である僕の望みじゃなくて。




三人もの生贄の面倒を見るのは大変だった。あんなことはもうこりごりだ。


人間は身勝手で我儘で、そのクセほんのちょっとのことで死んでしまう。僕を残して次々と死んでいく生贄達を僕がどういう想いで見てたのか、お前達はどうして分かってくれないんだ。


僕は、大きな力は振るうことができるけど、怪我や病気を治すことはできないんだ。自分がそんなものとは無縁だから、治し方を知らないんだ。


だからそもそも、そんな力を持ってないんだろうな。


そのくせ、僕が人間を見捨てると、彼らは寿命さえ全うできずに死ぬ。


本当にわけが分からないよ。


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