23話 友人の誘導にまんまと引っかかる
「龍幻、さっきからボーッとしてどうした?このアニメ、面白くなかったか?」
「え?いや、一話目からかなり惹かれる内容だぞ。これは原作で続きが気になるところだな」
アニメ鑑賞をしつつ、俺は別のことを考えていた。今見ているアニメの原作者である神崎紅先生のことだ。
冷静かつ表情は一定で誰にでも敬語であること。その特徴は、さっき会ったばかりの如月先輩とあまりにも同じで、神崎紅先生と如月先輩を違う人物として見ることが出来ずにいた。どことなくペンネームと本名が似ている。
「導が色々話したいって言ってたのは神崎紅先生のことだったのか?」
「そうだ!自分の好きな作家が同じ大学で、しかも在学してるとかビックニュースだろ!?あ、でも、話はそれだけじゃなくて……」
「導の中では相当驚く出来事だっただろうな。他にも何かあるのか?」
「龍幻、お前はリアルでは妹いないはずだよな?」
「……え?な、なんで、いきなりそんなことを聞くんだ。俺に妹なんているわけないだろ」
俺の返答に納得してない様子の導は俺のことをジーッと見つめる。痛いほどの視線を送られ、正直胸の奥が苦しい。上手く隠し事をすることはどうやら俺の性に合わないようだ。
こんな質問が来たと言うことは間違いなくルリエのことだろう。それ以外に思い当たる節はないし……。
「じゃあ、龍幻の隣にいた少女は誰なんだ!?ハッキリとは見てない。でも、遠目だったが俺は見たんだ。お前が小学生を連れて買い物しているところを!!!」
「あー……あれはイトコ。親戚の子だ」
「龍幻は嘘をつくとき、目を逸らしながら人差し指で机を叩く」
「なっ……」
自分でも気付いていなかった癖。導に言われて手元を見ると、たしかに人差し指で机を軽くコンコンと叩いていた。
「大体、今まで親戚の子と大学になって遊んだことないんじゃないのか?龍幻みたいな奴が女の子と気軽に話せるわけがない!」
「おまっ……!導、今のは何気に失礼だぞ。俺だって、ルリエとは普通に話せ……あ……」
まんまと導の誘導に乗せられ、口を滑らせてしまう俺。バッ!と両手で口を押さえても、今のアクションは肯定したと取られても仕方のない行動だ。
「ルリエって名前で、まさか男ってことはないよな?龍幻〜、親友の俺に隠し事とか酷くね!?普通にショックなんだけど」
「今まで悪かった。別に隠してたわけじゃないんだ。だけど、俺が高校生と一つ屋根の下一緒に暮らしてるなんて知られたら色々とウワサが広がって、ルリエに迷惑がかかってしまうんじゃないかと思ってな。だから、なかなか言い出すことが出来なかったんだ」
「あの子、高校生だったのか!?って、一緒に!?それって同居ってやつか!?」
「まぁ、正直に話すとそうなるな」
それから俺はルリエがどういう子であるかということを話した。
もちろん、サキュバスであることは秘密だ。流石にいきなり人間ではない少女と暮らしてます。なんなら俺が召喚しました。と言えるわけがない。
そもそも魔力のない俺が召喚に成功?したとか、童貞を卒業するために呼んだとか友人に知れてみろ。俺は間違いなく死ぬ。今考えても動機が不純すぎる……。
「雨の日に拾った家出少女。実は親と喧嘩していて、家に帰ることが出来ない、と。それがルリエちゃんだっていうのか?どこかのラノベで見るような話だけど、なんというか……可哀想だな、ルリエちゃんって」
「あぁ、ルリエは他にも訳アリな少女でな。でも、このことが世間にバレると連れ戻される可能性も出てくる。だから言えずにいたんだ」
「そうだったのか……俺は龍幻の親友だ。勿論、このことは誰にも言わない!安心してくれ!」
「ありがとな、導。俺はいい友達を持ったよ」
実際、家に帰ることは出来ないし、嘘じゃない。9割は嘘。でも、その1割でも真実を混ぜれば、相手に疑われにくいと聞いたことがあった。今回はそれが見事に成功したってことだな。即興で作ったわりに導も信じてくれてるみたいだし。
「なに水臭いこと言ってんだよ!俺はむしろ犯罪に手を染めてるんじゃないかって心配してたんだからな。未成年に手を出すのはマズイぞー」
「流石に手は出してねえよ」
一緒にベッドで寝たことも何度かあったが、特に驚くようなことはなかった。まぁ、暁月には夜這い?のような、夢の中に侵入されたときもあったな。
「でも、同居し始めてそんなに時間は経ってないのに、ルリエちゃんのこと本当に大切に思ってるんだな」
「どうして、そう思ったんだ?」
「だって、俺と遊ぶ頻度がいきなり減っただろ?それにさっきだって、家に来るのを躊躇してたじゃん。それって、ルリエちゃんがお前の家で一人待ってるからなんだろ?」
「導……。今の話でそこまで察してくれたのか。じゃあ、そろそろ帰ってもいいか?アニメは俺も今後見るようにするから。その時は一緒に神崎紅先生の作品について語ろう」
「俺に話した途端にその行動を取るってことは、相当ルリエちゃんって子はお前のお気に入りなんだろうなぁ。あ、余ったチャーハンがあるから持っていけよ。ルリエちゃんはお前の帰りを待ってて、飯とかまだなんじゃないか?今、タッパーに入れるからちょっとだけ待っててくれ」
導は立ち上がり、台所へ向かった。俺はというと帰る準備をするため、鞄に本とスマホなどを入れていた。そろそろルリエにスマホ持たせないと不便になってきたな。俺自身も心配になってきたし。
本といえば、この魔術本の正体を如月先輩に聞かないとな……。あの人、なにか知ってる様子だったし。同じ大学なら会う機会もあるだろうし。が、しかし、冬休みに入った今、そう簡単に会えるってことはまずない。
「龍幻。これ、ルリエちゃん分。味はお前も美味いって言ってくれたし、きっと気にいると思う。機会があれば、俺にも会わせてくれ!リアルであそこまでのロリっ子はなかなかいないし。高校生というのがさらに良いよなぁ~。というか、女子高生と同居して手を出してないってのは流石にドン引きだ。龍幻はどっちかといえば貧乳ロリ派だと思ってたんだけどな~」
「未成年に手を出すなと言ったのは導、お前だろ。しかも、お前の予想は外れてる。俺は以前まで年上の巨乳好きだったんだ」
「そのわりに龍幻の部屋にあったアニメ画集は胸の小さい子ばっかりだったぞ。そんなに隠さなくても、ロリコンは別に悪いことじゃないぞ!むしろ、誇っていいくらいだ!!」
「なっ。お前、勝手に俺の本棚見たのか?見る分には小さい子も良いなってだけだ。それにアニメキャラなら胸の大小なんて気にしたことねえよ。大体、自分はロリコンです発言が許されるのはお前みたいなイケメンだけだ」
「イケメン?龍幻、自覚がないのか?龍幻だって十分イケメンだぞ!って、あれ?前にもこんな発言を誰かと一緒にしたような……誰だったっけ?」
「……」
導、やっぱり覚えてないんだな。曖昧な記憶の中にあるのは暁月っていうお前が可愛がってた後輩だぞ。記憶操作をされてたとはいえ、暁月は確かに存在していた。俺のこともカッコいいって言ってくれた。
「導。今日はありがとな。久しぶりにお前と話せて少し元気になったよ」
「お礼を言うのはこっちのほうだぞ、龍幻。元気に……?なにか落ち込んでたりしたのか?」
「あー。それは、いずれ話すことにする。じゃあ、また冬休みが終わってからな。それとチャーハンありがとな、ルリエに食わせたら感想をメールで送る」
「可愛いルリエちゃんとリア充しろよー!じゃあ、またな!」
導は変わらずテンションが高い。でも、そんな導に俺は元気を貰ってる。本人には言わないけどな。俺は久しぶりに会った友人と楽しい時間を過ごし、ルリエの待つ家に足を進めた。
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