ナナシ・バンディット

 (………どこだここ?身体は……動かねえ、マジで赤ん坊なのか俺)



 身体が動かない。

 頭がふわふわしており何か違和感はあるものの、どうやらあれは現実であいつは神であったらしい。

 当然おいそれと言葉通りにそれを信じてなどいないのだが。


 自分の姿はわからないがこの不自由っぷり。

 手を握るのと瞬きをするのが精一杯である。

 食事をする事もままならない状況ならまだいいものの、その食事がない。


 どうしたものかと悩むものの身動きが取れないのだからどうしようもない。


 拾われるのを願うばかりなのだがそれもいつになることか。



 ガサガサ


 ガサガサ


 茂みが揺れているような音がするが振り向く事ができるほど身体はできていない。


 人間であればよいのだが。

 狼かもしれない。熊かもしれない。



「あん?こんなとこにガキ?」


 声がする。

 よかった人間だ。

 神よりよほど神に見える。

 捨てる神あれば拾う神ありとはよく言ったものだ。


 だが自分を見ているそいつの姿。

 ボサボサの髪に無精髭。

 藁を編んだのであろう服。

 腰には刃物を剥き出しで装備している。


「あー…めんどくせえけどなんも持って帰らねえとボスがうるせえからなぁ…」


 どう見ても山賊である。

 まあどう見てもとはいうものの前の世界で山賊など見た事はないのだが。


「……まあ最悪狩りの餌にでもすればいいだろ。よっと」


 冗談じゃないような事を言っているが危機は脱したと考えていいだろう。

 しかしこれからどうしたものかと考える。

 その思考の中で違和感の正体がわかった。



 自分の名前を覚えていない。

 記憶を与えられたはずなのに自分の名前だけがわからない。

 まあ前の世界の話だから覚えておく必要もない気がするのだがどうにも気にかかる。


 そんな事を考えているうちに目的地に着いたようだ。


「ボス!森の中でガキを拾ったんですがどうしやすか!?」

「あぁ?ガキ?てめぇ晩飯を狩りに行ったんじゃねえのか?それともアレか?そのガキがメインディッシュにでもなんのか!?」

「そうっすよねぇ…捨ててきやすわ……」


 嘘だろおい!また神に捨てられるのか!?

 いや待てこいつは神じゃなかった!


 だがボスがハッと何かに気づいたようなそれを止める。


「いや、待て。わざわざこんな森の中にまで捨てに来るって事はただの捨て子じゃねえ気がする。もしかしたら貴族の捨て子の可能性もある。山賊として育てりゃ結構戦力になるかもしれねぇ」

「なるほど!流石ボス!もし本当に貴族の血筋なら魔力や属性にも期待できやすからね!」


 ボスと呼ばれた男は満足そうにしているが、貴族の血筋などではないし、あの神とやらが実は特別な力をくれたとも思えない。


 だが助けられた命の恩だ。

 恩は返してやらないと。

 恩など仇でしか返した事がないがな。


「ボス、このガキ名前どうしやしょう?流石にガキのままって訳にもいかないでしょうし」

「あぁ…そうだなぁ……オレたち【名を捨てた団】の名前からナナシ……山賊の意味のバンディットでこいつは今日から【ナナシ・バンディット】だ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る