三角△

 夏の終わり。


 レイの職場では、大きな変化があった。


 ハナとマリサが、同じオーナーが経営する、高級店へ移籍することになったのだ。ハナ達はアヤメにレイのことを頼んでくれていたらしく、ハナ達の移籍後はアヤメに、妹分として可愛がってもらえるようになった。


 ハナ達の顧客の一部が、レイに流れてきて、今はナンバーでも中堅クラスに順位が上がっていた。太客も増え、安定して6位前後をキープできるまでになっていた。



 休日、レイはアヤメに誘われ、新しいドレスの購入に出かけていた。


「アヤメさんもいずれは高級店に移籍するのですか?」


「アタシは当分、いまのままかな。

 客層違うからアタシ向きじゃないのよ。

 お酒もあまり強くないしね。

 リナもお酒強くなかったよね?

 ここで一緒に頑張ろうね?」


「はい、これからもよろしくお願いします」


「可愛い妹分ができて嬉しいな。

 リナを連れ回してる、ハナ達が羨ましかったんだよね。

 またカラオケで遊ぼうね?」


「ありがとうございます。楽しみです。

 是非よろしくお願いします」


「今日は、リナを独り占めするからね?

 うちに泊まっていきなよ」


「ご自宅ですか?

 よろしいのですか?」


「うん、でもちゃんと私を接待してね?

 そのまえに彼氏に話をつけさせて?」


 アヤメはレイにロックを解除したスマホを渡す。

 よくわからずに、リョウに電話を入れる。


<もしもし?>


「あ。リョウくん?」


<レイちゃんか。この電話番号は?>


「先輩のスマホ、アヤメさん」


<あー……なるほどね……>


「リョウくんとお話ししたいって」


<いいよ、かわって>


 レイはアヤメにスマホを返す。

 アヤメは受け取ると、レイから離れてリョウと話を始めた。


 一頻ひとしきり、会話を終えて、アヤメが戻ってきて、レイにスマホを渡す。


「もしもし、リョウくん?」


<レイちゃん? アヤメさんから話は聞いたよ。

 俺は問題ない。気にしないで大丈夫。

 レイちゃんは俺の彼女だし、これから先も変わらないから。

 準備ができたらお嫁にもらうし、アヤメさんなら心配しないでいいよ>


「え? どういうこと。私、全くわからないのだけど?」


<なにも説明なしか。俺から話せってことか……。

 俺、アヤメさんに世話になってたんだよね。

 公私共に。

 入れ替わりのこともアヤメさんは知ってるよ>


「え? そうなの? なんで言ってくれなかったの?」


<入れ替わった時点で、縁が切れたようなものだったからね。

 アヤメさんにもそうしてもらったの。

 でも、今の俺と、今のレイちゃんを比較して、

 アヤメさんはレイちゃんを気に入ったみたいでさ、試してみたいらしい>


「試すって何を?」


<女性同士の恋愛>


「……はい!?」


<男性がお客さんにしか見えないらしいよ、アヤメさんは。

 いつの間にか、恋愛対象にみられなくなっちゃったんだってさ>


「アヤメさんて、リョウくんの元恋人?」


<ちがうよ。友人。恋愛関係は全くなかった。

 なんていうか、お互い色々な意味で同性的な感じだったからね。

 いろいろと相談に乗ってもらってたし、相談相手にもなってた。

 今のお店に移ったのはアヤメさんのおかげだよ。

 そんな関係。

 でも、今のレイちゃんには、かなり興味があるらしい、性的な意味で。

 お願いだから、一度試してみて?

 女同士なら、俺は気にしないから。

 けど、無理だったら、断ればそれで何も問題ないからね?

 気に入ったら付き合ってくれて大丈夫。

 それでもレイちゃんが俺の彼女であることに変わりはないから。

 恋人のシェアをしてるみたいで悪いことしてる気もするけど、

 アヤメさんなら信頼できるから、身を任せてみてよ>


「……わかった。リョウくんが、そこまで言うなら」


<ありがと、愛してる>


「私もだよ」


<それじゃまたね? 感想聞かせてくれる?>


「……うん、またね」


 レイは腑に落ちないまま、アヤメにスマホを返す。


「で、どうなったの? リナ」


「その……不束者ですがよろしくお願いします」


「やった。

 まず、一晩ためしてみよ?

 無理そうだったら気にせず言ってね?

 嫌われてまでそう言う関係持ちたくないし」


「ありがとうございます」


「じゃ、私に甘えてみて。

 ドレスをおねだりしてみてね。

 同伴の練習にもなるでしょ?」


「なるほど……」


 レイは、アヤメに教えてもらいながら、アヤメに甘えた。

 思いのほか好評だったらしく、5着ほど買ってもらうことができた。


 そのあとは、アヤメの車でエステに寄ってさっぱりしてから、

 アヤメの自宅へ行った。


 アヤメの家の中を隅々まで案内され、キッチンに連れて行かれると、食材の場所や茶葉の場所や食器の場所など、細かく説明された。


「自分の家だと思って自由に使ってみて」


「わかりました」


 レイは、とりあえずハーブティーを入れてアヤメに出す。

 そして、食材を確認し、アヤメとおしゃべりを楽しみながら夕食を作った。


 食卓に席を並べて配膳する。


 ワインをグラスにつぎ、乾杯をして、ディナーを楽しむ。

 

 食後、夕食を片付けたあと、一緒にカクテルを作り、おしゃべりを楽しんだ。


 アヤメは、本格的にレイを口説き始める。

 そんなアヤメの熱量に当てられレイは気持ちが高揚する。

 こんな気持ちはリョウと話している時以来だった。


 アヤメは、レイに、甘い口付けをする。


 レイは、アヤメを受け入れ、長く甘いキスを何度も楽しむ。


 お互いに発情したところで、ベッドルームに案内され、ワンピースを脱がされ、ベッドに押し倒された。


 アヤメは時間をかけて優しくしっとりと、レイを愛した。 



……

 


「アヤメさんのこと、恋愛対象にしかみられなくなっちゃいました。

 素敵すぎます。流石ナンバーワンですね……」


「嬉しい。私のナンバーワンはリナだけだよ」


「嬉しすぎるのですけど、私にはリョウくんが……」


「慣れなよ。女性と男性は別腹、そう思いこみな」


「はい……」


「あの子……リョウはさ、いろいろ悩み抱え込みすぎちゃって、まだ心の準備ができてないから、もうしばらく待ってあげてね?」


「そうだったんですか……。

 リョウくん、そう言うこと相談してくれないんですよね」


「大切に思われてるんだよ」


「私にはもったいない彼氏です」


「アタシからしてみれば、リナこそ、リョウにはもったいない彼女だね」


「そんなことないですよ、私、ダメダメだし……」


「何言ってんの。アタシが保証する。

 リナは最高に素敵な彼女だからね。

 もうアタシの彼女なのだから、他の女には抱かれちゃダメだよ?」


「当たり前じゃないですか」


「結構、この業界には多いから気をつけなよ?

 リナは可愛いからね」


「ありがとうございます。

 アヤメさん素敵すぎます、大好きです」


「私も愛してる」



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