新生活

 翌日、入学式とオリエンテーションから戻ったリョウは、レイの部屋に入った。


「レイちゃん、そろそろおきなよ」


「……あ、リョウくん」


「メイクするの見ててあげるから、早くシャワー浴びてきな」


「はい……」


 レイは、シャワーを浴びると、ワンピースに着替え、鏡台の前に座り、メイクを始めた。


「問題なさげだね。忘れ物はない?」


 持ち物を再確認し、問題ないことを確認する。


「大丈夫です」


「じゃ、新生活頑張りな。美人さんだね、自信持ってね。〝リナちゃん〟」


「いってきます」 


 レイは出かけて行った。

 


 リョウは自分の部屋に戻り、オリエンテーションでもらった資料を嬉しそうに眺めながら、受講する科目を選び始めた。

 


 レイは美容院へ行きヘアメイクしてもらってから、お店の更衣室でドレスに着替え、待機し、挨拶を済ませ、〝リナ〟としてお店に出た。


 先輩のヘルプについて、いろいろと学びながら接客した。

 リョウから一通り叩き込まれているので、意外にすんなりやり過ごすことができた。

 


 帰りは送迎してもらい、午前2時過ぎには帰宅した。


 ヘトヘトだったが、リョウに指示されていたので、化粧を落として、髪を丁寧に洗って、ゆっくり湯船に浸かった。お風呂から出てた後は丁寧に髪を乾かし、ヘアケアやお肌のケアをしてから就寝した。


 お昼に目を覚ますと、簡単に昼食をとり、買い物と運動を兼ね、散歩にでた。


 商店街には、レイが行くはずだった大学の学生と思われる人影も少なからずあった。

 大学のキャンパスに向かってみる。

 楽しそうに会話する学生の姿がそこかしこにあった。

 レイには彼らがとても遠い存在に見えた。



 レイは、気持ちを切り替え、買い物を済ませて、帰宅する。

 軽く筋トレやストレッチをすませ、洗濯をしながらタブレットで時事ネタを広く浅く情報収集する。

 軽くシャワーを浴びてから、お化粧を始め、出勤の準備をし、

 美容室によってヘアメイクをしてもらい、お店に入る。


 半月ほどすると、そんな生活が当たり前になった。

 先輩に自分の生活習慣を話したら、真面目すぎると驚かれた。

 レイもそれを聞いて驚いた。

 ネットを調べてもそんな感じの生活習慣しか書かれていなかったからだ。

 とはいっても、悪い習慣ではないようなので、そのまま継続することにした。



 休みの日にはエステやネイルサロン、美容院などに通った。



 レイは、自分がきれいになるための努力が楽しくなっていた。


 やり場がなくなっていた勉学に向けてきたモチベーションは、いつの間にか、自分がきれいになるための努力へと切り替わっていたのだ。



 お店の更衣室で先輩のハナが言う。

「リナ、最近、明るくなったよね?

 この仕事が楽しくなってきた感じがよく分かるよ。

 その調子で頑張れば、指名をもらえるかもね」


「ありがとうございます、ハナさん。

 最近とても楽しくなってきました。

 早くハナさんみたいに指名をもらえる様になりたいです」


「頑張りなよ。リナは美人さんだから、自信持ちなよ」


 その日、レイは初めて場内指名を2つもらえた。


 営業終了後、送迎の車の中で早速お礼のメールを送信し、タブレットのメモ帳に、お客さんの詳細情報を記録した。


 うきうきしながら帰宅し、入浴後のヘアケアとスキンケアにも自然と力が入る。


 時計のアラームを朝と昼にセットしたのを確認すると、就寝する。



……



時計のアラームが鳴る。


 睡魔に抗い、目を覚ます、レイ。


 指名してくれた客に朝の挨拶を送信する。

 すぐに返信が来たお客さんがいるので、さらに返信する。

 洗濯物を洗濯機に放り込み起動させてから、再度、就寝した。



 昼に起床し、乾いた洗濯物を片付けながら、お客さんにお昼の挨拶を送信する。

 掃除をしてから、昼食を軽くとって、日課をスタートさせた。



 商店街に買い物に行った帰り道で、リョウに声をかけられた。


「レイちゃん、久しぶり。

 髪型も髪色も変わってるから、最初気づかなかったよ。

 すごく雰囲気かわったね?

 可愛くなってる」


「あ、リョウくん。

 ほんとに久しぶりだね。

 休みなの?

 学校はどお?

 慣れた?」


「うん。午後は休講になった。

 本格的に講義が始まった感じ。

 毎日が楽しいよ。

 レイちゃんも充実してる感じだね?

 もう指名はもらえたの?」


「うん、昨夜、二人だけね」


「よかったじゃん、同伴は?」


「まだだよ。

 でも近いうちにできるかも?

 どんな勉強してるの?

 難しい?」


「より高度になってるけど、面白いよ。

 とても充実してる。

 予習・復習だけでなく、気になる分野の勉強も先に始めてる」


「どんな分野?」


「2年から始まる専門科目。

 ちゃっかり忍び込んで授業受けてる」


「すっごいね」


「うん、研究者になるのが夢だったからさ

 修士はもちろん博士過程も視野に入れて勉強してるんだ。

 学校に残れる様に頑張るつもり」


「大学教授めざしてるの?」


「うん、そのつもり。先は長いけどね。

 早速コネ作りのために、教授の部屋に理由つけて通う様にしてる」


「入学したばっかりなのに?」


「まぁ、その方が覚えてもらいやすいからね。インパクトあるし。

 ちゃんと勉強しないとできない質問も用意してる」


「へー、将来有望だね」


「レイちゃんも有望そうだね。

 そのうち指名が増えてゆくんじゃない?」


「そうかな?

 だといいな」


「目標はできた?」


「うん。先輩みたいにキラキラしたいの。

 素敵なお店選んでくれてありがとね。

 大変なことも結構あるけど、とっても楽しいよ?」


「お互い様だから気にしないで。

 貯金はしっかりしなよ?」


「わかってる。

 自己投資以外はしてないから、着実に増えてる」


「エステとか? 服とか?」


「うん。そんな感じ」


「程々にしなよ?

 将来のこと考えて勉強した方がいいからね?」


「うん。

 この前、英語が役にたったかな……。

 ちょっと話せる程度だけど」


「そうなんだ。じゃ、英語関係の検定とか受けてみたら?」


「そうだね、話のネタにもなりそうだし、そうしてみる」


「ネイリストとかは?」


「それも楽しそうだけど、してもらう方がいいかな。

 あーでも、目指してる子結構いるんだよね……。

 一応とっておこうかな。

 それも話のネタになりそうだよね?

 いろいろ心配してくれてるんだね。

 ありがとね。

 今度、相談に乗ってくれる?」


「もちろん、いつでもいってね。

 ほんと、短期間にすっかり女子に慣れたみたいでよかった」


「だよね。自分でも驚いてる。

 最初はかなり絶望してたけど、

 今は、女子を満喫しちゃってるかも?」


「そっか、安心したよ」


「あのさ、ほんとうに私をお嫁さんにしてくれるの?」


「うん、いい子でいたらしてあげる。

 ただ、俺、この先の学生生活が長いから、

 レイちゃんを養えるまでには時間がかかるよ?」


「わかってる。頑張るね」


「うん」



……



 レイは、自分の部屋に戻ると、メールの確認をした。

 同伴のアポだ。

 早速、返信して、先輩のハナに教えてもらったお店に連れて行ってもらえることになった。


 シャワーを浴びて、お化粧を始める。

 時間まで、タブレットで時事ネタを確認したり、検定試験について調べたりして暇をつぶしながら、客の終業時刻に合わせてメールを送る。

 以前、リョウに指示された同伴用のワンピースの一つに着替えて、家を出る。


 美容院によってヘアメイクしてもらい、待ち合わせ場所で客をまった。


 客が来たので、お礼を言い、腕を組んで、お店に入る。

 小一時間ほど、一緒に食事と会話を楽しんだ。


 トイレでメイクをなおして、客と腕を組んで店を出る。

 その後は、そのまま出勤して、いったん客と離れ、更衣室でドレスに着替えた。

 

 先輩のハナが言う。

「リナ、同伴おめでと。やったじゃん」


「ありがとございます。

 ハナさんのサポートのおかげです」


「何言ってるの。

 リナの実力だって。

 自信持ちな?

 本指名なんだからさ」


「はい、頑張ります」


 初めての本指名、先輩達のヘルプもついて、客と盛り上った。


 その日はさらに別の客から、2つの場内指名をもらえた。

 うち一人からアフターに誘われた。

 1時間だけと言う条件でOKした。

 ハナの妹分で家の方向が一緒のマリサが、同行してくれることになった。

 近所のバーでおしゃべりを楽しみ、送迎で帰宅する。


 レナとマリサは、送迎の車の中にいた。


「マリサさん、今日はありがとうございました」


「気にしないで、ハナさんからサポートする様に頼まれてたからね。

 アタシのアフターの時はよろしくね?

 長くても2時間程度で済ませる様にするから」


「私で良ければ大歓迎です」


「そうだ、今度一緒にカラオケ行かない?

 シフト調整して、休みの前日なら仕事の後、少しは時間取れるでしょ?

 始発まで歌おうよ」


「私、歌える曲がほとんどないですけど……」


「いいよ、教えてあげる。

 一緒に歌お?

 アフターでも役に立つから」


「わかりました。

 できる範囲で頑張って憶えて行きますね」


「あはは、ほんとにまじめなのね?

 リナのそうところ好きよ」


「ありがとうございます」

 

 マリサが男ウケする曲を教えてくれた。

 レイは、早速スマホにダウンロードした。


 レイは今日の客にお礼のメールを送信した。

 レイのタブレットの顧客情報メモが充実し始めた。



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