番外① ヒロインの野望と現実

 私が、のは、まだ小学生の頃だった。隣の家に誰かが引っ越して来たことで、ハッキリと思い出したのである。やったあ!…ここは、私が生まれ変わる前から嵌っていた、乙女ゲームの世界だわ!…今日から、私の日常は薔薇色に染まるのね?…その時は、そう思ってうっとりとしていた。


なのに…お隣に引っ越して来た家族は、私と同じくらいの子供がいたけど、娘ばかりで息子がいなかったのだ。…おかしい。私の前世の記憶に依ると、私と同じ年の男の子が居る筈なのに。確か…私の攻略対象になる人物、の1人だった筈だもの。

だから、良~く覚えているのよね。勿論、私は…通称『王子』にしか興味はないんだけど、攻略ぐらいはしても…いいわよね?…折角、私がヒロインに生まれ変わったんだもん!


そう、私は転生者である。然もこの世界は、私が前世で嵌っていた乙女ゲームであり、私は何と…そのゲームのヒロインなんだよね!…もう嬉し過ぎて、笑いが止まらなかったわ。早く、お隣の男子と仲良くなりたい!…ぼんやりでもそう思って、楽しみにしていたのに…。肝心の攻略対象が居ない…。何で居ないのよおっ!


私の名前は『和田 鮎莉わだ あゆり』という名前で、あのゲームでの初期設定の名前である。だから、間違いはない筈だ。この世界ではゲームのように、スチル画面とか選択画面とか出て来ないし、況してやスイッチで保存や終了が出来る訳でもない。それでも、私はここが乙女ゲームの世界だと、信じ切っていた。

だから、これは…きっとバグなのよ。何かのバグが生じているのよ。でも私はヒロインなのだから、最後には幸せになれる筈よ。私が望めば…筈なのよ。あのゲームではそれが可能だったのだから、ヒロインの私ならば…可能な筈なのよ!


何故か…前世の記憶は中途半端で、攻略対象者の顔や名前は、今は思い出せなかったのだ。後は、乙女ゲームのタイトルも。隠しキャラも居る筈なんだけど、よく覚えていない。確か、私は執念で、隠しキャラの攻略に成功していたんだよね?

だけど覚えているのは、隠しキャラを辛うじて攻略出来たことと、私は隠しキャラよりも『王子』キャラが好みであったことだけ。…まあ、いいわ。本命は『王子』1人だけなのだから、隠しキャラになんて会えなくても、ちっとも私は悲しくないわよ!


攻略対象者達は、隠しキャラも入れて全部で6人だったわね。隠しキャラは1人だけ。まず私の本命『王子』は、攻略の舞台となる大学の食堂で知り合うのよね。

あまりにも食事が豪華すぎて、ヒロインが気後れしていて困っているところを、彼が助けてくれるんだったわ。とても優しくて容姿も甘いマスクで、この舞台が西洋風だったら、本当に王子様だったと思うわ。


次にお気に入りだったのが、『眼鏡くん』だったわ。彼とは、大学の庭でぶつかってしまうのよねえ。ヒロインが大学内で迷ってしまって、次の講義に遅れそうになるのよね。うふふふ。ヒロインよりも慌てていた彼は、可愛かったなあ~。

彼も甘いマスクの容姿で、画面越しにうっとりしたものよねえ。真面目な彼がヒロインにだけは心を開いて、偶に冗談を言ったりするのが、キュンとなったのよ。


次にお気に入りは『公務員子息』だったなあ。彼とは、ヒロインが忘れて行った大切な物を届けることで、知り合うのよねえ。その大切な物って、何だったかなあ?

思い出せそうで思い出せない。まあ、大学に入学したら分かるわよね?

彼も真面目キャラだけど、『眼鏡くん』よりも生真面目で融通が利かない感じだったよね?…中々恋に堕ちないけれど、本当は一目惚れしていたっていう設定だった筈だから、実は…現実でも楽しみなんだよねえ。


そして『幼馴染』のキャラだけど、彼は本来ならば隣に引っ越して来た筈である。

確か、父親の転勤で…だったよね?…ということは、父親の転勤が無くなったか、若しくは親が離婚しちゃったとか…かなあ?…バグだから、よく分かんないけど。

ちょっとは気に入っていたから、攻略出来ないのは残念だけど…。


最後に『教授』は勿論、例の大学の教授である。だから、入学しないことには攻略出来ない。でも大丈夫。私はヒロインだから、問題なく受かる筈なのよ。

ただ…私は正直興味ないのよねえ。だって、ヒロインより10歳も上のオジサンなんだよ?…いくら美形でも加齢臭とか、出ていそうじゃない?


…逆に年下キャラは好物なんだけどなあ。この乙女ゲームには、攻略可能な年下キャラは居ないんだよねえ。わあ。乙女ゲームの作成者達!

もうちょっと女性の好み、しっかり調査しなさいよ。






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 隠しキャラのことは、何も思い出せない。まるで、この乙女ゲームの作成者達が意図して、記憶を消したような気分だよ。まあ、どうでもいいけど。確か私の記憶に依ると、隠しキャラの性格が好きじゃなかったんだよねえ。…う~ん。

よくは覚えていないけど、何となく遊び人風じゃなかっただろうか?…それとも、好きになったヒロインを揶揄う感じとか…。私、そういう人、嫌いなんだよね?

やっぱりよねえ。顔が嫌いとは思っていないみたいだから、きっと容姿には問題ないんだろうなあ。折角の美形なのに…勿体ない…。


結局、幼馴染キャラには今までずっと会えなかった。おかしいなあ。やっぱりバグなのかなあ。お隣の人達もあのまま居ついちゃったから、幼馴染キャラが引っ越して来れなくなったのかもね。そう思って、自分の学校の生徒を隈なく探して見たんだけど、幼馴染キャラだと思える人物は、全く見当たらなかった。


ヒロインキャラに生まれ変わったのだから、モブにもモテると思っていたけれど、確かにモテるよ、私…超可愛いし。でも、途中で男子から振られるんだよね。

「思っていた子と違った。」と言って。「何でよ!」と聞いたら、「性格は悪いし我が儘過ぎるし」って言うんだけど、わよ!…何言ってんの!…まあ、他のモブの男子達がお子ちゃま過ぎたのね?…結局、私に似合うのは『王子』か『眼鏡くん』なのよ。まあ、『公務員子息』ぐらいなら…付き合ってあげても良いけど~。


ヒロインには、小学校から仲の良いお友達が居る。だから私も、その子と仲良くなろうと頑張ったんだけど、最初は仲良く出来たのよね。でも、私がモテるのを根に持ったみたいで、「人の好きな男子取って置いて、仲良く出来ると思う?」と言われたんだよねえ。「何、言ってんの?…私は取ってないし、勝手に男子にモテたからって僻まないでよ。」と言ったら、「よく言うよ!男子に粉をかけていた癖に!然も…私があの子のこと、好きなの知っていたのに!」と、真っ赤になって怒って来たんだよ。…怖っ!…それって、逆恨みじゃん。私、笑顔を振り撒いただけじゃない。そりゃあ、掃除をサボるのに利用しようと、媚を売ったかもしれないけど。


それからの私は、女子達には徹底的に無視されたり、悪口言われたりしたよ。

でも、仕返しもしてやったわ。好きな男子から思いっきり悪態をつかれて、ショックを受けていたみたい。…ふふふ、いい気味。私の方が可愛くてモテるからって、意地悪したりするからよ。もう、いいわ。別に女子の友達なんて、要らないわ。

男子のお友達が居れば、私は十分薔薇色の毎日が送れるもの。付き合わなければ、問題はないのよ。


ホント、女子同士の付き合いは面倒臭いわ。それに比べたら男子の方が、褒めれば嬉しそうに笑ってくれるし、頼みごとをすれば何でもひきうけてくれるし、媚びを売れば「俺が買って遣るから。」とか言って、私の欲しい物をプレゼントしてくれたりするんだよねえ。もう…至れり尽くせりって感じで。痒い所に手が届くみたいに、大切に扱ってもらえる。何時しか私は、それらの行為が幼馴染キャラが遣ってくれる、その代わりの代用品みたいに、彼らのことを思っていた。だからもう、幼馴染キャラが居なくても、平気である。恋愛は出来ないけど都合の良い彼らは、私にとって大事なモブ達であったのだ。私をとして。


私にとっては待ち遠しいその時が、近づいて来た。高校までは特別な勉強しなくても、前世の記憶もあるお陰もあるからか、簡単に合格出来たのだ。この分なら大学受験も大丈夫だろうと、私は高を括っていた。どこの大学を受験するかは、私の心は既に決まっている。あの乙女ゲームの大学しかない。しかし、何処の大学なのか全く覚えていないので、大学見学という形で彼方此方見学するのだが、乙女ゲームの舞台と思われる大学が見つからない。それでも片っ端から当たって、やっとその大学を見つけたのだ。外観が乙女ゲームと同じだったから、間違いない筈だ。


大学の門には『堀倉学園付属大学ほりくらがくえんふぞくだいがく』という学校名が刻んである。…間違いない!

これだわあ~!…感極まって、大声で叫んでしまいそうである。漸く、見つけた。

私は、この大学を受験するのよ!…高校の担任教師に、受験する大学を告げると、担任教師と進学指導の教師が、渋い反応を返して来た。私の今の成績では到底無理だというのだ。どうしても受験するならば、滑り止めを受けるようにと勧められたのだが。私は受かると信じていた。それなのに、行く気もない大学なんて、受けたくないじゃない。


結局、私は先生達の反対を押し切り、『堀倉学園付属大学』を受験したのである。結果は……不合格であった。……何で~~っ!…私はヒロインなのよ!

どうして…不合格になるのよ!…もしかして、これもバグなの?…そんなの…ないよお~!…私の薔薇色の人生を返してよ……。





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 副題通り、転生者であるヒロイン視点です。


ヒロインは性格が悪い設定なので、物凄く気合を入れて嫌な子にしてみました。

書いていて…こちらが落ち込みます。


※ヒロインの考え方に、気分が悪くなります。ご注意くださいませ。

※問題ありな発言が多々ありますが、飽く迄ヒロインの女性の主観です。

 実話ではないので、お間違いなく。

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