第3話 強引な出逢いイベント

 この大学には来ていないと思われる攻略対象のうち、裕福な一般家庭の2年生とは、ヒロインはどういう出逢いイベントだったかしら?…確か…ある教室に忘れ物をして、それを先輩である彼がヒロインに直接届ける、とかだった気が致します。

教室に忘れたのは、ヒロインにとって大事な物で、ヒロインが好意を持ち彼が一目惚れする、切っ掛けとなる物だったような。


そしてもう1人来ていない対象者は、ごく一般的な家庭の特待生である1年生で、彼とは元々幼馴染なので、クラスも同じとなり一緒に行動したりしていて、最初から好感度が高かったのですわよね。抑々、出会ったのは小学生の時で、彼が親の転勤で転校して来たからでしたわ。その時から好きだったと告白時に白状しておりますから、もしかしたら、ヒロインがので、彼も受験しなかったのかもしれませんね?…それならば、彼については納得です。


隠しキャラは何も分かっていないので、後は…教授との出逢いですね。教授とは、授業の分からないところを聞きに行っているうちに、教授の悩みに気が付いたヒロインが力になる、という無理のある設定でしたね。担任の教師と生徒として知り合い、個人的に質問して仲良くなるまではアリですが、教授の悩みに力になるのは、彼より10歳も年下の学生では、現実では無理かと思われます。勿論、猪突猛進で天真爛漫なヒロインなら、或いは…可能なのかもしれませんが……。


そんな時、私は…またまたあのケバい女性を、見つけてしまったのでした。

彼女は…誰も居ない教室に忍び混むようにして、そっと入って行くと何かを態と置いて行ったのです。…ん?…何でしょう、あれは?…そこには、先程のケバい女性の写真と、メルアドとか記載された名刺のようなカードと、後は…手作り風のクッキーが、女性らしい可愛い巾着袋に入れて置いてありました。あまりにも怪しかったので、私が中を覗いた訳なのですが。…意味が分かりません。誰宛であるかさえ書かれてなく、どういう意味で置いて行ったのか、と理解に苦しみましてよ。

正直、態と置いて行ったのを拝見した私は、背筋が寒くなりましたわ。


大学の教室は一応は席が決まっていますが、同じ日に同じ教室に戻ることは、殆どありませんし、その教室は他の生徒達も使用する共有でもあり、高校までとは異なり、机の中に私物を置いたままでの移動は、出来ませんのよ。自分だけの席ではなく、他の生徒も使用する席なのですから、は、ただ単に…気味が悪いです。


そこでふと思い出しました。これって…乙女ゲームの出逢いイベントにも、合ったような…。あれっ?…そう言いましたら、裕福な一般家庭の2年生との出逢いイベントに、似てますかしら?…ヒロインが教室に大切な物を忘れて…。………ん?

もしかしまして…これが大切な物?……仮ヒロインの?……んなわけ…ありませんわよね…。クッキーも手作りのようですし、自分の写真とメルアドのカードには、「クッキー食べたら、連絡してね。てへぺろ。」とか書いてありそうでしたわ。(※実際は、裏にも何も書いてありません。)


写真とカードは、受け取った側が連絡して来るのを、期待されていますよね?

本気で、これが送り主に届くとでも思っているのかな?…多分、この後のこの時間は、お掃除の業者の人が来る筈なのですけれど。私は教室を出て暫く見張っておりますと、思っていた通り、お掃除業者の方達が入って来て、机の上の忘れ物を確認した後、掃除業者の人達が持って行ってしまった。……やっぱり、そうなると思いましたわ。大学での忘れ物として、大学の事務所に預けられることになるでしょう。中にはご本人の証明書がありましたから、大学から連絡が行くことでしょうね…。…お気の毒さま。


みさきさんの時といい、今回の時といい、一体…仮ヒロインは、何をされたいのでしょうね?…ただ単に間が悪いだけ…なのかしら?…それとも、私達と同じ転生者で、別の大学に通っておられる所為で、攻略対象の男子生徒の一部が、この大学に通っていないという事実を、知らないのでしょう。


名前も顔も今は思い出せないけれども、顔を合わせたり名前を聞いたりすれば、思い出すことが出来ると思うのです。私だけではなく麻衣沙まいさも見つからないと申されておりますから、まあ…間違いなく、ここの大学生ではございませんわねえ。






    ****************************






 「いつきさま!…この前は助けてくださって、ありがとうございました!…今日は、一緒にお昼を食べませんか?」

 「………。俺は…君を助けた覚えはない。…退いてもらえないだろうか?」


…え~と。これは…どういうことでしょうか?…私達の目の前には、あのケバい女性こと仮ヒロインが待ち構えておられたのです。正確に言えば、樹さんを…でしょうが。あまりにも怪しい仮ヒロインに、常に優しい樹さんが冷たい口調で言い切られます。この前とは、いつなのでしょうか?…このところ毎日のように、お昼はご一緒しておりますのに。あの不審者のような忘れ物事件の次の日、大学でも外部の生徒が紛れ込んでいるようなので、要注意というお触れが出されまして、その日から毎日樹さん達が、お昼のお誘いに来られますのよ。それまでは時々でしたのに。

毎日ですよ、ま・い・に・ち!…いい加減、他の女子生徒の視線が痛いです…。


麻衣沙が一緒ですから、誰も直接文句は言って来られませんが、私だけでしたら…「どうして貴方のような平凡で、家柄も大したことのない人が、婚約者なの?」とか、問い詰められそうですわね…。…ああ。考えるだけで怖いですわ…。


 「…樹さまったら、照れていらっしゃるのですね?…うふふっ。私、お礼としてお弁当を作って持って来たのです。だからぜひ………。」

 「…悪いが、何のお礼なのか…分からない。俺には、お礼をされる理由がない。よく知らない人間のお弁当など、食べる気もない。だから、さっさと立ち去ってくれないかな?…俺は食事をするので、邪魔しないでもらいたい。それと…俺の下の名前で、馴れ馴れしく呼ばないでくれ。」

 「………樹さまの……婚約者……。」


仮ヒロインは、この前知り合ったというアピールと、助けてもらったお礼を強調されて、グイグイと来られますが、樹さんはとても迷惑そうなお顔をされておられます。まあ、本物のヒロインなら兎も角としまして、この仮ヒロインは…樹さんの好みではないでしょうね…。仮ヒロインが「私のお弁当を食べて。」と、言おうとした途中で、会話を重ねるようにして、樹さんが否定の言葉を放たれて…ええっ!

婚約者と食事…って、私を巻き込まないでくださいませ~!


 「……この人が…樹さまの婚約者?……酷い!…貴方が…婚約者の立場を利用して、樹さまを縛り付けているのね?…無理矢理、親に頼み込んで婚約した癖に!…樹さまが逆らえないようにしているのね!」

 「…?!………。」

 「…なっ!………君は…何を言っているのかな?…事実無根の作り話をしないでくれないかな?…いい加減にしないと………。」

 「……何を騒いでいるんだ、樹?…庭園の方まで騒ぎが聞こえて来たぞ?」


案の定、仮ヒロインにギッと睨まれた挙句、一方的に私が悪いと捲し上げられましたわ。…あれっ?…無理矢理親に頼んで婚約って、それは…ですよね?…この仮ヒロイン、まさかの……転生者?…だとしましたら、ひえええ~!

樹さんが肯定されたら……私、悪役令嬢の破滅コースまっしぐらですわよ!?


しかし、樹さんは否定されましたのよ。事実無根の作り話だと…。……ほっ。

ですが、反対に安心出来ませんわ。何故ならば、あの常に穏やかで誰にでも優しい樹さんが、物凄く怒っておられるのを、肌で感じてしまったのですもの。

樹さんの表情は、僅かに眉を顰めてはおられますものの、表向きは怒りモードには全く見えないのです。しかし…私には感じられますのよ。樹さんとは(※表向きの婚約者としての)ですもの。本気で怒っておられるお姿も、稀に拝見したことがあるのです。それはもう今みたいに、鋭利な冷気が漂われていて。

ですから、私も未だに、婚約破棄を申し出られなかったのですわ。


愈々、本気で怒った樹さんが、物騒な言葉を放たれそうになった丁度その時、第三者の声が割り込んで参りまして。振り返りますと、そこには…岬さんと麻衣沙がご一緒に来られておりました。……ほっ。私には、お2人が救世主に見えますわ。

…と、この2人の登場に喜んだのは、私だけではなかったようでして。何故だか…仮ヒロインが、嬉しそうに顔を緩ませておられます。彼女にしては満面の笑顔なのでしょうが、ケバいお化粧をした仮ヒロインの笑顔は、その場(食堂)を凍り付かせた模様です。だって……あれだけお怒りモードだった樹さんも、この場の皆様方も、ほぼ全員が…顔を引き攣らせておられましたから……。


 「まあ!…岬さま!…丁度良いところに来てくれましたわ。樹さんの婚約者が、彼を無理矢理縛り付けて、言いなりにしているみたいなんです。樹さんの友人の岬さんならば、助けてあげられますよね?」

 「………はあっ?!……君は……自分が何を言っているのか、理解出来ているのか?…根の葉もない噂話をすると、自分がぞ…。」

 「…そんなっ!…私、根の葉もない噂話なんかじゃ………。」


…ああ。この仮ヒロイン……お馬鹿だわ。この場の雰囲気を理解せず、岬さんにも乙女ゲームでの設定を振ってしまったわ。少なくとも岬さんは、私がこの婚約を望んでいないのは、ご承知なのですよね…。仮ヒロイン……詰んだわね………。





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 今回も、主人公視点となります。

出逢いイベントの続きで、他の別の人物との、ですね。


 主人公に、仮ヒロインと名づけられたケバい女性が、各攻略対象者達との出逢い系イベントを、起こしている模様です。ですが…上手く行ってないようです。

瑠々華は、仮ヒロインだから上手く行っていない、と思っているようで。

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