第1話 イベント① 入学式

 今日は、大学の入学式です。私と麻衣沙まいさは、ヒロインを見つけようと、早めに大学に登校して待ち伏せておりました。しかし、入学式が始まる時間が近づいて来ておりますのに、一向にヒロインの姿を見かけません。私1人でしたら、もしかして見過ごしたかな?…と思いましたけれど、麻衣沙が一緒におりますのに、2人共見過ごすということは…まあ、有り得なくはないですが、私は兎も角も…麻衣沙は、そういうミスはないと思いますのよ。


仕方がないので諦めて体育館に移動しようとしていますと、私の婚約者であるいつきさんが、こちらに向かって歩いて来られるのが分かります。どうされたのかしら?

私は不思議に思って、首を傾げていたのですが、ふと頭に前世の記憶が蘇り…。

…ああ。何だ、そうか。…と気が付きましたのよ。きっと、ヒロインは遅れてやって来るのですね?…なるほど、なるほど。ですから、ヒーローさながらに…彼がお迎えに来られた、という訳ですのね?


道理で、ヒロインの登場が遅い筈ですね。ヒロイン属性は…確か、鈍臭いけど心優しい少女でしたよね。道に迷ったりしていましたら、入学式から遅刻してしまいました、というところですかね。ここは仕方ありませんね。元々私達は、ヒロインの性格を見極めようとしただけですし、もし…仮にも彼女が転生者ならば、お友達になっちゃおう!…といった感じでしたので。この際、ヒロインは樹さんに任せて、私達2人は後ほど…ヒロインを観察致しましょう。


そう1人で納得して、樹さんにお任せしますと声を掛けようとしまして。

ところが、声をお掛けする前に樹さんが私の手を掴み、否応無いなおうなく私を何処かへ引っ張って行こうとされるのです。…えっ?!…何?…何が起こっていますの?!

…樹さん、のでは、なかったのですか?

…私とヒロインをお間違えでは、ないですよね?!


 「あ…あの、樹さん…?…一体、どうされたのですの?…どこへ行かれるおつもりなのですの?」

 「………はあ?…ルルこそ、何を言っているんだい?…今日は君達の入学式なんだから、体育館に行くんだよ。君がちっとも現れないから、迷っているのかと探していたんだよ。それより、何で2人で大学の門の前に立っていたの?…このままだと2人とも、入学式に遅刻していたよ?」


いつも冷静な樹さんですけれど、私の質問には目を丸くされております。

…ですよね。流石、樹さんですわね。私達の心配をして、ヒロインではなく、私達をお迎えに来てくださったのね。このままでは入学式に遅刻してしまうと、私達に気を使ってくださってますが、私達も今から向かうところでしたのに。私だけなら兎も角として、麻衣沙が一緒なのですから、絶対に遅刻はしませんでしたよ?…彼女は、そういう時間にルーズなのが嫌いですからね。大丈夫なのですよ。しかし、彼の言葉に答えたのは、私ではなく。


 「樹さんは心配性ですわ。その為に、わたくしがおりますのに。入学式に遅刻するなど、有り得ませんわ。」

 「…ああ、そうだったね。君も…居たんだったね。みさきは呑気だね?…君が中々現れないことにも、信用していると言っていたけど。とか…思わないのかな?」

 「まあ。それこそ岬さんは、わたくしを心底信頼してくださっておられるのですわ。どなたかとは、大違いですわね?…樹さんも、瑠々華るるかのことをもう少し信頼されたら、いかがですの?」

 「そうしたいけれど、ルルはイマイチ、自分の立場が分かっていないからね…。それに…ルルは、目を離すと何をするか分からないから、心配なんだよ。」

 「まあ、そうですわね…。…お気の毒ですこと。」


麻衣沙の返答は、まるで樹さんに喧嘩を売っているような口調でした。昔から何故か、麻衣沙は樹さんに対しては、攻撃的な口調をされるのよね。それに対して樹さんも、何となくトゲトゲしい口調に感じられるのは、気の所為なのかしら?

その後に…最終的には私のことで、お2人が一致団結めいた会話で仲良くなって終了、みたいになっておりますが、どういうことなのか…意味が分かりませんわ!


私に攻撃先を方向転換されたままで、会話を終了するのは辞めていただきたいですわ!…切実に。お話の内容は私のことなのに、私が理解出来ない内容を、お2人だけで納得されないでくださいな!


私と麻衣沙が幼馴染であり、樹さんと岬さんも同様に幼馴染で、また麻衣沙と岬さんも幼い時から顔見知りで、このお2人も婚約する前から幼馴染みたいなものでしたのよ。ですから、自動的に私と樹さんもお知り合いとなりまして、何故だか婚約することになったのですわ。残り2人も婚約させちゃえ、とかが理由なのでは…と密かに思っておりますのよ。…せぬ。






    ****************************






 結果的に言いましたら、入学式は恙無つつがなく終了致しましたのよ。確か乙女ゲームでは、ヒロインが入学式の最中に倒れてしまって、彼女の最も近くにいた攻略対象者が、彼女を大学の保健室に運んで行くのでしたよね。ところが、入学式の最中に倒れる人も現れず、また入学式に遅刻した人物もおらずで、一体…どうなっているのでしょう?…やはりヒロインらしき女性が、見つけられないのです。彼女は本当に、この大学に入学しておられますの?


 「ねえ、麻衣沙。貴方はどう思います?…ヒロインはどうされたのかしら?」

 「そうですわね。もしかしましたら、を選択された、ということも考えられますわ。わたくし達と同じく転生者であれば、ヒロイン役を徹底的に避けられるか、それとも…ヒロイン役を喜んでされるかですわね。ですが…転生者なのでしたら、後者を選ばれる確率が高いですわ。あらゆる事態を考えますと、受験に失敗したという可能性も、無くはありませんが…。」

 「乙女ゲームでは、ヒロインはどういう人物でしたか、はっきり覚えておられますの?…私は何だか、自信が失くなりましたわ。」

 「わたくしは、はっきりと覚えておりますし、同じ学年の生徒を1人1人確認致しましたけれども、ヒロインらしき人物は見つけられませんでしたわ。ですから、この大学には居ないとも思われます。但し、入学式のイベントに参加されなかったとしましても、残りのイベントには参加されるかもしれません。まだ…油断は出来ませんわ。」

 「…あ、そうですわね。入学式は…大体同じ頃ですものね。他の大学に行かれているのなら、絶対に無理ですものね?…でも、別の大学に行かれているならば、別のイベントも無理なのではないかしら?」

 「ええ。一般的な考えではそうでしょうけれど、ヒロインが常識ある人物でなければ、無理をしてでも来られる可能性はありますわ。」


あれから、入学式は平穏無事に終わりまして、その後も何も変わらず過ごしております。勿論、何もない訳ではありませんが、樹さんや岬さんには相変わらず、女性達が群がっておられますし、ヒロインの代わりの役を務める女性は、沢山おられますのよ。しかしながら、他の誰かがヒロインの役を演じようとも、私達が死亡するとか没落するとかは、ヒロインの時のように危険ではありません。


乙女ゲームの強制力も働かないようですし、要は私達次第ということでもありますかしら。私や麻衣沙を巻き込まないというならば、樹さんなり岬さんなりが、ヒロインとラブラブになられたとしても、ちっとも構いませんわ。ええ、本当に。

麻衣沙も同じことを仰っておられましたし。今の私達には、自分の人生と家族を守れれば…それで良いのです。命失くしてしまっては、何も…出来なくなっちゃいますもの。


対策会議を開いておりますが、今のところ会員は私達2名だけです。人員は多い方が良いのですが、まさか…貴方は転生者ですか?…って、聞いて回る訳にもいきませんからね。ヒロインが最悪の性格である場合も、考えて置かなければなりませんもの。麻衣沙の仰る通り、ヒロインが転生者である場合、こちらの味方になってくださればいいですけれど、自己中なお花畑のヒロインでしたら、厄介ですわね…。確かこのゲームには、攻略者全員を堕とすエンドもありました。しかし、現実的には…無理なお話ですけれども。ヒロインが最初からならば、そう考えるだけで恐ろしいですわね…。


 「ああ、ルル。こんな所に居たんだね。こんなところで、2人して何をしているんだい?…もう授業は終わったのかな?…お昼を一緒に食べようか?」

 「麻衣沙も一緒だったんだな。俺達も時間が取れたから、今日は4人で一緒に、お昼を過ごせそうだな。」


出た、出た…。噂の樹さんと岬さんご本人達が現れました。今はまだヒロインと出会っておられないので、私と麻衣沙に頻繁に会いに来られるのです。…う~ん。

ハッキリ言いまして…迷惑なのですが。いくら婚約者と言いましても、高等部までの皆さんはご承知ですが、この大学ではまだ完全に周知されておりません。

それに…政略結婚なんだから奪ってしまえ、っという勇ましい一般家庭のお嬢さんも多くて、こちらの方が恐縮致しますぐらいなのです。


まだ見ぬヒロインさん。ノロノロしておられますと、モブ以下の女性達に攻略対象者達が、盗られてしまいますわよ?…まあ、私と麻衣沙はその方が、嬉しい限りなのですが。それでも何処かで、ヒロインに同情してしまっておりますのかしら?

麻衣沙は、「ヒロインとのお話し合いは無駄でしょう。」と仰っておられますが、私はお話してみてから判断したいのです。


結局…その後に、私はなるのですが…。

今はまだ…その事実を、知る由もありませんでしたのよ。





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 乙女ゲームと言ったら、入学式ですよね。

ですが、ヒロインが現れないパターンとしてみました。

お陰で…初期イベントが起こりませんでした…。

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