創造せよ、ビビデバビデブー!

十返 香

プロローグ

#1 クリエイタの行動原理

 ヒトの『欲求』は行動に現れる。


 お腹がすいたから食事をするし、眠くなったら睡眠をとる。ごくごく当たり前のことだと思われるかもしれないが、事例なんて誰もが経験することを示した方が直感的にイメージしやすいし、納得感も深まるんじゃないだろうか。



 そして、冒頭の説。これを逆から読むと、ヒトの行動を追求すれば、その根っこにある欲求を推測できるとも言える。


 ・食事をする(行動)→お腹がすいた(欲求)

 ・睡眠をとる(行動)→眠たい(欲求)


 以上を見る限りでも、行動とはつまり結果であって、欲求はその原動力となるニーズに他ならない。



 この考え方はシンプルだが汎用性が高く、様々なシーンで応用がきく。事実、我々のようなゲームクリエイタ――とりわけのスタッフたちは、様々なトレンドから顧客のニーズを探り、売れそうなタイトル案の検討・選別する手段として、この逆説の手引きを日常的に用いているのだから。



 さてさて。


 のっけから長々と説明くさい講釈を垂れ流したが、つまるところ僕が何を言いたかったのかと言うと、



「――創平くん。遊部創平あそべそうへいくんって言ったっけ? キミさえよかったら、ウチで働いてみる気はないかい?」



 長期にわたるゲーム開発で身も心もボロボロに痩せ細り、朦朧とする自意識のまま、とにかく目の前にあるタスクを消化することだけに腐心していた昨年度末。


 とある騒動がキッカケで上司や同僚たちから三行半みくだりはんを叩きつけられた僕は、まったく想定外のタイミングで会社内での居場所を失ってしまい――いまになって振り返ると笑える話だけれど、茫然自失になっていたんだろうな、と思う。



 そんなとき『彼女』は僕の前に現れて、そう告げた。

 初対面だというのに屈託なく笑いながら、手を差し伸べて。



 そこからトントン拍子に話は進み、僕は『彼女』のいる環境へ異動することを選択した。以前の職場と同じように、いや、場合によってはさらに過酷になるかもしれないけれど、ゲーム制作現場へ復職することを自らの意志で望んだのだ。


 この行動を振り返るまでもなく、自らの欲求は隠しようがない。かつての仲間から裏切られ、罵られ、嫌われてもなお、僕はこの業界を今でも愛しており、ゲーム制作の現場が性に合っているんだろうな、と思う。



 ――それか、たんに社畜かドMのどっちかじゃないの? とは『彼女』の弁。



 まぁ、結論(?)はどうであれ、それにいちいち反論はすまい。言い訳がましく自意識の落としどころを探ってみたところで、そんなことはエネルギの無駄でしかなく、モノ創りにとってなんら有益でないことは自明なのだから。



 僕たちゲームクリエイタは、理想の未来に向けてではなく、常に今やれる最善だけを衝動にして生きている。

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