すのーどろっぷ新聞部「雪落高校の謎に迫る」!!

toropoteto

第一面(オモテ)「巫女JK」夜の校舎で除霊に臨む

6月4日金曜の午前、2-4教室内にて。


黒沙サユリ(くろさ さゆり)は10センチ四方の紙切れに何かを書き込み、どや顔で前の席の親友に手渡した。


「どう!!なかなかイケてるんじゃない?」

「うーん…漢字の間違いが多いし、文章がものすごーく下手だからかなり読みづらいけど、勢いがあるから私は好きだなぁこの記事!!うん、良いと思うよサユリちゃん!!」

屈託の無い笑顔と評価を返す少女、絹成深柑(きんせ みかん)。

お返しに、と深柑は縦長の紙をサユリに渡す。


「頼まれてた4コマまんが、描いてみたよ。はい!」

「どれどれ…わあ可愛いイラストね!流石深柑!ただこれ4コマ漫画としてのストーリーはあって無いような物ね、ただの4枚の絵の連続と言って良いわ!!」

「ありがとう…!えへへ、絵には自信あったんだよねぇ!」


バン!!!!!!!!!


二人の会話を遮る打撃音が、教室に響いた。

親友達は音のした窓側の方へ顔を向ける。

目線の先では、クラス委員長が鬼の形相でこちらを睨み付けていた。


「あんたら、うるっっっさい!!今授業中でしょ!?バカじゃないの!!!!!????」

委員長の数Ⅱaの教科書は、振り上げた手から滑り落ち、そのまま窓から広いグラウンドに放り出された。

「あーー!?」

「委員長、ひろって来なさい。」

数学の先生はハプニングに動揺せず、クラス委員長の丹治絵利花(たんじ えりか)へ声をかけた。

委員長は、うつむきながら凄い勢いで教室を飛び出していく。


「委員長さんにおこられちゃったねぇ…」

深柑はそう言いながらゆっくりとサユリに目線を会わせる。

「そうね。毎授業こうだと、丹治さんに申し訳ないような気がしてきたわ。続きは放課後にしましょ。」

「そうだねぇ、今日は同好会の日だしね!」



同好会、とはサユリが立ち上げた「新聞同好会」の事。

活動日は週3日。顧問が1人で会員は深柑のみ。

午後の授業が終わると、サユリは深柑と共に4階の多目的ルームへ向かう。

そこが新聞同好会の活動場所である。


4階に着くと、多目的ルームの扉に背を向けて1人の教員が立っているのが廊下から見えた。

顧問の藤(ふじ)先生だ。

「藤先生がいて、そして立ちっぱだねぇ。」

「本当ね、入らないのかしら。」


扉の前の教師は同好会の2人を見つけると、申し訳なさそうな顔で話し掛けてきた。

「あー、あんた達…今日はわたし、職員会議とか 面談とかがあって、同好会見てあげられないから今日はお休みね。」

そう言うと藤先生は部屋の鍵を閉めて、職員室へ歩いて行った。


「鍵、開いてたのかしら?」

不思議がるサユリをよそに、深柑は落ち込んだ様子を見せていた。

「残念だったねぇ。朝の続き、やりたかったな…」

「仕方無いわ。今日は諦めて家に…」

「そうだねぇ…。」


落ち込む深柑を見つめ、サユリは数秒考えてこう続けた。

「家に…いや、家でメモとか色々準備して学校に夜忍び込んで今日の分の活動をしましょう!!!!

時間は丑三つ時とか良いんじゃないかしら、何か面白いことがあれば記事に出来るかも!!!!」

「それ…それ良いねぇ!!!!」

深柑の表情は途端に明るくなった。

それから各自は一時帰宅し、用意を済ませると、夜中の2時10分に校門の前に集まった。



「うわぁ、ドキドキするねぇ!!」

「中々楽しみね、早く入りましょうか。」

「…真正面から入ると警備会社が出動(き)ちゃうよ。向こうの壁の隙間から侵入(はい)ればバレないから、そこから行こうねぇ。」

「なるほどね。」


数メートル先にある、女生徒ならギリギリ通れる縦長の隙間から2人は懐中電灯を片手に校内に侵入する。

「警備会社のセンサーが届かない位置の場所の特定と扉の解錠は、既に済ませておいたから、そこを通れば安全だよ。」

「…!頼りにしてるわ、深柑。」

サユリは信頼の目線を深柑に向ける。


鍵の空いている扉へ向かう途中で、サユリ達の目線の先を何かが横切り、そのカラダが一部物陰に隠れた。

「…な、何…今の…」

「え、怖いよ…ぉ」

物影の物体はゴソゴソと動き、一瞬の静止の後、こちらへ近づいてきた。

「や、やだ…やだ、」

「落ち着いて、深柑。だ、大丈夫。私がいるからら…」

震えて取り乱し始める深柑を必死に励ますが、サユリも恐怖で身体が動かず、その場に座り込んでしまった。

物体は至近距離まで近づいて、女性の冷たい声で言葉を放った。


「え。何やってんの?あんたら。」

「うあああああああああ!!!!」

「イヤァァァァァ!!!!」


叫び声が周囲に響く。

「ちょ、ちょっと静かに!私よ私!」

二人の手元の懐中電灯で照らされたのは、クラス委員長、丹治絵利花の顔だった。


「…あっ、委員長さんだぁ…あれ?」

「丹治…さん?その格好は?」

サユリ達は、懐中電灯で照らされた彼女の服装の違和感に気付く。

「あっ…えーっとこれは…その…」

絵利花は、自分の装いが見られるや否や、ばつが悪そうに口ごもる。


「その格好って…巫女さん?よね。」

「はぁ…そう、私近所の神社が実家で…巫女やってんの。今日、急遽お祓いする事になって…って。喋りすぎあたし!ごめん誰にも言わないで!学校では巫女ってこと秘密にしてるの!」

慌てて黙秘を懇願する絵利花をよそにサユリ、深柑はお互いに見合せ、目を輝かせていた。


「サユリちゃん…これは!!」

「ええ、そうね深柑…!!」

「二人とも…新聞同好会だよね?悪いけど今の事を記事にしたりとかは、やめて欲しいんだけど…」

「…どうする?サユリちゃん。」

「そうね、私もこの千載一遇のチャンスを逃したくは無いわ。ねぇ丹治さん、あなたの名前は出さないし一部フィクションも交えないわ、約束するから!!

…今日のお祓いを取材させて貰えないかしら!?」


絵利花は少し考え、色々諦めた表情で返答する。

「はぁ…わかった、いいよ。ただその記事の編集には、あたしも関わるから!そして約束は守って!変なこと書かないでよ!」

「勿論!!じゃ交渉成立ね!!早速だけど、今日のお祓い?について教えて貰おうかしら。深柑、メモとっててね。」


深柑は鞄からメモとペンを取りだし、興味津々で絵梨花を見つめる。

「…歩きながら話すから、ついてきて。」

絵梨花は二人と歩いて、少しづつ説明をはじめた。


「今日の1時限目に、あたしが教科書を窓から落として拾いに行ったでしょ?その時、一階で異変を感じたのよ。」

「異変を感じた…って言うのはどういう事かしら?」

「あぁ。そうね、あたし霊感があるの。信じて貰えるか解んないけど。」

絵利花は冗談交じりの口調で、どこか寂しそうにそう答えた。


「それは本当!?もし本当なら凄い事だわ!!」

「…うん、どこでどういう霊が何をしてるのかって事がなんとなく解るの。今回あたしが神社(うち)からお祓いを任された理由もそれ。」

「そうなの…丹治さんも色々大変そうね。」

「大丈夫、慣れてるから。それより、場所は1階の会議室よ。」

「会議室ね…そこには何かいるの?」


「詳しくはそこに行くまでよく解らないんだけど…人の怨念とか悪意とかが蠢(うごめ)いている感じがする。」

「放って置いても構わなそうだけど、敏感な子がそういうのに気付かず触れて、体調崩したりすることもあるから。」


「…丹治さんって案外優しいのね。」

「そんなことないよ、あたしの勝手な義務感だし、そもそも仕事だしね…」

「深柑?巫女さんは優しいって書いておいて!」

「うん。巫女さんはやさしい…」

「ちょっと!それ余計な情報でしょ!」

そうこうしているうちに三人は会議室の扉の前に辿り着いた。


「この中だよ。鍵は…開いてるね。」

「なるほどね、それで…これからどうするの?」

「入ってお祓いを行うんだけど…まず道具を準備しないと。」

そう言って絵利花は大きめの手提げ袋から紙の付いた棒と小袋、その他色々を取り出した。


「これが御幣(ごへい)、神社とかで神主さんとか巫女が降ってるのよく見るでしょ?あと鈴ね、これは清め塩。」

「へぇ…写真を撮って良いかしら。」

「それは駄目、神社の物だから。」

「わかったわ…じゃあお祓いを初めて貰いましょうか…」

サユリは残念そうに取り出した携帯をしまう。


「じゃあ中に入るけど…一応私が合図するまで二人はそこにいてね。」

そう言うと、絵利花は会議室の入り口の扉に手を掛けた。その瞬間、彼女の背筋に強烈な悪寒が走った。

「…はぁっ、はぁ、何これ…!?さっきまではこんなに…うっ。」

絵梨花は冷や汗をかき、呼吸が乱れ、その場に倒れこんだ。


「えっ?委員長さん!?」

「丹治さん…?丹治さんどうしたの!?」

「さっき、感じてた悪意とかが…今何倍にもなってる…この、中で…」

「ど、どうしてそんなことが…?」

「どうして、だろうね…わからないけど、危険だから、私はいいから、ここから早く逃げて…」

「あなたを置いてなんて行けないわ!近くに移動しましょう?深柑、一緒に丹治さんを安全な所に運ぶわよ!」

「うん!委員長さん、わたしたちにつかまって!」


絵利花が二人の腕に掴まった瞬間、信じられないくらいの圧力がかかった。

「お、重くなったよ…!?」

「全く動かせないわ!!」

「これ…多分、ただの悪霊とかじゃない…私の手にも追えないかも…二人とも早くにげて…」

「大丈夫よ、私達が助け…!?」

その瞬間。大きな音ともに、目の前のドアが勢いよく開かれた。


「何、あれ…」


会議室の中にサユリは目をやると、雪落高校の男子生徒が1人、暗闇の中で何かを必死に呟きながらうずくまっている姿がみえた。


(続く)





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