Quanji-26:絢爛デスネー(あるいは、かかずり合うには/詮無い構造体)

「シカッカッカッカッ……底辺部首の底力、どうやら示せたようでシカ……というか、アナタ……自分の能力もそれほど使いこなせてはいなさそう……これは僥倖でシカ……」


 青い目の緩やかなウェーブの金髪を揺らせた、異世界なので多分合法というか無法属性ロリ少女、<鹿>の使い手がそんな無理のある笑い声と語尾とで何か分からないけど劣等感を逆手に取ったが如きのめんどくせいメンタリティにてどうでもいいようなマウントを取ろうとしてきやがるが。


「……」


 が、が。この対峙においては、はっきりうまいこと立ち回られている……秒でのめし畳んでやろうとした私の思惑を超えて、さっきから「鹿の角」という一本でこちらが精魂込めて放った<病>系「聖★漢字セカンヅ」をさくさくと打ち払ってきてるよそんな事出来たらもう打つ手無えじゃねいかよ……


 日差しが直で照らしまくってきてて、それも気障りだ。日焼けしちまうよまったく……とか、自分の中でむわり立ち昇ってきた焦燥感をそんな思考で霧散させてやろうとしているけれどうまくはいってない。


 そして周りは何か、巨大な庭園ガーデン的な趣きのところだ。イギリス? フランス? イメージ的にそこらへんの。一点の瑕疵も無く整然と手入れが為された短い深緑の芝が、ちょっとした森林公園並みに視界の端から端を凌駕するほどに広がっておる……遥か先には紅の薔薇生垣なんかも望めたりして雰囲気優雅、でもそんな中で意味不明の「戦い」を繰り広げていることにこれでもかの「異世界感」をカマされている気がして気分は冴えない。


「<鹿角カヅノ>の術……これにて我が『角』はどんな『能力』をも弾き返す力を得た、とそう私が決めたのでシカ……馬鹿馬鹿しいと思うでシカ? 御都合と唾棄するでシカ? シカして、その想像イマジネーションの力こそがすべて……現にアナタは手も足も出ていない……」


 被った帽子から生えている鹿の角めいたものをふるふると震わせながら、フランス人形のような鹿少女はそんな余裕かましののたまいをしてくるけど。ううううん殴りてえ……


 でもムカつくことに私の『聖★漢字セカンヅ』は発現させた側から、その「鹿角」の摩訶不思議な力によって、「弾き返す」というよりは「発動を無効化キャンセル」みたいな感じで消滅させられてしまっている……今まで(と言ってもあの羽虫とメガネに対してしか使ってないパーティアタックだけだなこりゃ。いやいや)百発百中で相手に炸裂させてたもんだから逆にこういう事態に対しては初見で少し焦る。どうすりゃ。


「……」


 こうなりゃあ、あの妙に漢字全般に食い気味で反応していたあのちんまいに助力を求めるほかは無いか……何か頼ってます的な感じでアレだけど、私からの尊い「通信」なんかもらったのなら嬉し過ぎて即応で鼻息荒く返答くんでしょ……


<悪いけど鹿を倒せるの教えてくれる?(十七文字)>


 うん、極めて普通自然に「打て」た。「鹿を倒せる」普遍的な何かがあるのかは別として。とにかく使える「字」ってやつを姫は御所望よぉぉん、との聖なる意志を持ちて頭の中で組み立てたるその字句たちを反芻するかのように側頭葉あたりに浮かばせるように私は念を込めていく……


<べ、別に鹿一撃の病教えなさいよねっ(十七文字)>


 うん……まあどこでどうやって変換されちゃったかは分からんけど、まあ大意変わらずってことでもう送っちゃお。と、


「心ここに在らずッ!! それは最悪の悪手でシカねッ!!」


 !! ……向こうから仕掛けてきやがった。今まで相手は防戦一方だったから、とか、はっきり油断してた。そして鹿のように素早く(よくは知らんけど)、軽やかに間合いを詰めてきたよくそぅ……両手に構えた「鹿の角」が何とも間抜けに見えなくもないけど、そういった先入観を的確に撃ち薙ぎ払ってくるかのようなのが、この異世界流儀だ。アレをまともに喰らったらヤバいのは、もう直感に頼らずとも分かっている。彼我距離は残り三メートルくらい? 見積もってる場合か、こっちも能力!!


 <痙攣けいれん>の二字を空中に指で書いて現出させようとした私だけれど、ううぅん画数多ーい。とかまだどこか抜けていた私の緩きに緩すぎる対応の、


「かづのーーーーんッ!! 戒心のいちげきィッ!!」


 それより全然早く、間抜けた掛け声とは裏腹に、右手側から体勢を極限まで低くして鋭く踏み込んで来た鹿少女の右手の角が、私の中途半端に身体手前にふらと出していた左手をぎゅら、と打擲し、一方の左手の角がコンマ秒の差異をもってして、私の首元をじゅお、と掠めていたのだけれど。


「……!!」


 避けた、と思ったけどそれはとんだ勘違いで。首元で急速に伸びたかに見えた「鹿角」は実際に本当に伸長していたみたいで、私の視界に見慣れない赤い、紅い? 飛沫が。


「ぐ……」


 頸動脈……? こんなに……? 痛みよりまず来た呆然感みたいな思考に埋め尽くされて立ちすくむばかりの私だったけど、鉄っぽい味が喉奥から突き上げてきての次の瞬間には、堰き止めることなんて全く出来ないくらい突沸感をもって、口からええーってくらいの赤い液体が迸っていた。


 え……? 今までどこか現実感の無かったこの世界で突きつけられた現実リアルは、相当にいきなりのっぴきならないものであったわけで。


 生き死に。まさか。でも、目の前で返り血に染めた凄絶な笑みを浮かべている鹿少女はさも当然とばかりの様子であって。私の認識が抜けてた間違ってたおかしかった? こうまでの「現実」に相対しながらも、頭の片隅でいつもこれはきっとタチの悪い夢みたいなもん、って決めつけていた? そう思おうとしていた? そしてそれは、


 全部間違いだった?


 視界の左半分がいきなり暗くなったかと思った時には痺れに似たどうともならないほどに体の全部に力が入らなくなっていて。真っ先に折れた右膝から右斜め前方に突っ込むようにして。


 迫ってくる芝生の一本一本のうねりが一瞬だけ鮮明に見えたかと思った次の瞬間には、私の意識は黒く染

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