Quanji-23:濃厚デスネー(あるいは、解釈は/星の数だけ/介錯も)

 ようやく四散爆裂してしまいそうだった意識の震動が収まりを見せ、それでも高鳴る気持ちにどうとも折り合いは付けられないままだったけれど、とにかく「ボク」は中空に謎の浮力で浮遊したまま、確かにその場に「在った」。


「何……だと?」


 麦畑の二メートルくらいの上空にて、橙色紳士オネアフィスと向かい合う。先ほどからその壮年に、整えられた髭を震わせながら驚愕の面持ちで凝視されているわけだけど。


「……」


 身体に吸着するように装着されているのは、まぎれも無い「鼎」の破片パーツボクもここまでの潜在能力を発揮できるなんて、思ってもいなかった……やはりマイマスター……途轍もないモノを持っている……


 と、


 ちょ、ちょっと待って、カナエちゃんだよね? 僕の内部から僕の声的な感じで脳内に響かせているのは? これどうなってるの? すごい、自分の「意識」みたいなのがね、凄いわぞわぞするんだけれど……


<ではこんな感じでいかがでしょうマイマスター。ボクたちは今、身体カラダ精神ココロも正にの一心同体。なにかこう……凄い多幸感ありますよね……でもあんまり同調シンクロし過ぎちゃうとそのまま元に戻れなくなる恐れもありそうですから、『自分は自分』みたいな、気だけは確かに持ってくださいね!!>


 とか言われても。もうなんか一人で脳内二人羽織(?)をやっているかのような、そんなままならない意識のもつれ方なんだけど、確かに何かが漲っている、そんな感覚は全身で受け取っている。これはいったい……?


「……『鎧』や『服』を現出させたり、それを纏ったりして自らの体を護るということはまあよくやられる事ではあるが……どうやらそれらとは根本的に違うようだぁ……そもそも先ほどまでの『妖精くん』の存在からしてイレギュラーと感じていたが……キミは”一”体、何者なのかねぇ……」


 どこか呆れているかのような、それでいて立ち直ったのか、紳士はそのような探るような言葉を静かに、自分でも確かめるかのように繰り出してくる。瞬間、僕の身体と精神に、表現出来ない感じの「感覚」が走るわけで。あれ? 何だこれ……とか思っていたら。


「……『フグ』って魚、あるよな……?」


 ノー思考状態の僕の声帯を震わせたのは、そのような言の葉であったのだけれど。カナエちゃんが喋らせているのかな? そうに違いないんだけど、それにしては口調がやけに重々しいな……


「……丸ごと食った奴がまず死んだ。皮を剥いで食った奴も死んだ。内臓を取り除いて食った奴もやはり死んだ……」


 僕(の中のカナエちゃん)は、何だろう、ひどくニヒリックな感じで、どこに着地するか分からない例え話のようなものを凪いだ感じで続けるのだけれど。何これ。いや、何となくは分かるか。こう何て言うか自分に酔いどれるという感覚というか。うぅぅん……気持ちよさそぉぉぉう……


「『試行錯誤』。持たざる者が多大な犠牲の果てに生み出した『力』……それがこの『根源アーク化』……『聖★漢字セカンヅ』を常に具現化せし究極の存在……『アーク聖★漢闘士セカント』……」


 自分で喋っとる言葉を、いちばん分かってないのが自分……という摩訶不思議な状況下に落とし込まれながらも、不思議と僕は凪いでいた。おそらく何らかの外的要因で落ち着かされているのだろうと思うとそれはそれでまたどうなの?感はあるものの。


 流れ込んできていた。おそらく過去に散っていった「鼎」のマスターたちの思念が。この僕に託そうとしている、何か、何らかの強い意志たちが。


<ボクも……そうボクも!! マスターあなたの思念から生まれたんですよ……だから同調するのも当然っちゃあ当然なんです……もう一度言いますね、ありがとう……ボクを、選んでくれて……>


 カナエちゃんの哀切も、もちろん受け止めてはいた。まだまだよく分からないこの異世界、意味不明な能力、そして漢字にまつわるエトセトラ……全部が全部、理解できたわけじゃあない。それでも、決して作られたとは思えない、この妖精ちゃんの果敢ない想いだけは。


「……」


 無視するわけにはいかなかった。


「ふん、『想像力』だけは”いっぱしだな……いや、『創造力』か? まあいい。どのみち『七曜』に逆らう者は排除するが我らの使命。来るがいい。”一”気呵成に屠ってやろう……!!」


 壮年は揺らがない……が、僕ももうそんな事に構ってはいないんだ……不遇。そうだよ僕らは持たざる者同士。「同調」するのは出来るのは……


「ッたり前のことなんだよぉぉぉおぁぁぁぁあぁああああああッ!!」


 腹底からの雄叫びは、多分に意味不明なタイミングではあったと思うけど。精神の底の底の方で、「ふたり」は確かにつながったわけで。


「……<”一”網打尽>」


 そんな僕らの目の前では、既にオネアフィスが、自らの体の周りに橙色に輝く「鱗」状のものを数えきれないほど密集させつつ、それらを一斉に解き放とうとしているけれど。


<マスターッ!! もぁうこの状態までなってしまったのなら!! どんなコトをかまそうが我々の勝ちは揺るぎませんッ!! さあ心の『島宇宙トスモ』が命ずるままに放つのです!! 『高速のパンチ連打』以外の技をぉぉぉぉッ!!>


 カナエちゃんが僕の内部でそう煽るけれど。え?


カナ<ど、どうしましたマスター!? 動きが止まってしまってますよッ!!>


ニュ<あ、いや正に『それ』をぶちかまそうとしてたんだけど……何でダメなの?>


カナ<何故かは分からないのですが、この『世界』が揺らいでぶった切り消滅してしまうかのような……そんなうまく説明できないけれど厳然たる予感がするので……>


ニュ<ええでももう『それ』しか思い浮かばなくなっちゃってるよ!! どどどどどうしようッ!! うわわわもうあの『鱗』来てるしッ!!>


カナ<ままままマスターもうじゃあ行けぇ行っちゃえッ!! 全責任は委ねますからァッ!!>


ニュ<ええええッ!! なななな何でそこは突き放すのッ!? 『ありがとう』言うてたんは何ッ!?>


 頭の中ががちゃがちゃになりながらも、僕は全・集中力をもってして、差しさわりがなるべく無さそうな方向へ方向へと脳内ベクトルを向けていくのだけれど。えーとえーと。


 刹那、だった……


「おおおおおおおおッ爆ぜろッ『カナエ=ス・隆盛りゅうせいけん」んんんあああああッ!!」


 繰り出す右拳が、高速青銅色の連打を茜空に打ち描いていく……しかしてこれは、この今の状態……「鼎」の「隆盛」がどこに至るのかを、慢心することなく「懸念」せし無我の心の境地から生まれ出でし力の発露なのであり……決して他意は無いのであった……


「!!」


 他意無き、そして節操も容赦も持ちえない問答無用のパワーが、迫る「鱗」を巻き込み、その奥で驚愕の髭面を露呈したオネアフィスに撃ち込まれていく……ッ!!


 決着、なったかッ!? (と、あくまで白々しく)

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