異世界勇者・カグヤ 後編


 ジャン!

 ジャカジャン!

 ジャカジャンジャンジャンジャンジャン!


 ジャン!

 ジャカジャン!

 ジャカジャンジャンジャンジャンジャン!



「…………なげえなやっぱ。二時間」

「さすがにお客様も飽きて来てるんじゃねえのか?」



 そんなことないよー

 王子くん見てるだけで幸せ―

 あたしもー



「じゃあ、魔王戦は王子くんに任せた」

「あっは! 投げやり王子だね!」

「はっ!? まさか……っ!」

「……良かったな、タツヤー王子。姫様の悔しそうな顔見れて」

「冗談じゃねえ、最後のタスキは受け取らねえからな。……なんだその泣きそうな顔?」

「何でもない……、よ?」



「はっはっはっは~! とうとう俺自ら姫をもらい受けに来ることになるとは~」



「…………いや、そうか」

「クラスで一番小さい奴に合わせて作ったからな、玉座」

「あっは! 子供用の椅子に座ってるみたいだよ? パラガス!」

「そ、それより……。パラガス君、あの……、ガチ泣き」

「え? ……ほんとだ」

「どうしたお前」

「だって~。クラスの女子が水着同然のかっこで俺にかしずいてるんだぞ~? 俺、このまま劇が終わらないといいな~って真剣に思ってる~」

「ばかだな。そんなこと言ったら全員こっちに寝返る」

「それがそうでもないんだよ~」

「なんでだよ」

「……千載一遇のチャンス……」

「そう、この展開のためにシナリオ改変に同意したんだ……」

「不穏っ!?」

「あっは……。じょ、女子の視線がなんか怖い……」

「俺は男子からにらまれてるんだが」

「おいこら魔王。堪能してるとこ悪いが、クラス全員率いてるお前が泣きながら惚けてても埒が明かん。どうする気だ?」

「こうするのさ~! ものども、かかれ~!」



「「「「「きゃーーーーー! おーじくーーーーん!!!!」」」」」

「「「「「てめえ、甲斐ーーーーーーーーーーーー!!!!」」」」」



「うわっ! 参ったな! 動けないよ!」

「いてえ! 誰だ関節極めてやがるのは!」


「王子くんに抱き着くチャンス!」

「いやー! 王子くんの髪、さらさらー!」


「こいつ! 彼女がいるのにモテ過ぎなんだよ!」

「三大イケメンとか呼ばれやがって!」



「……なあ、魔王。俺は封じなくていいのか?」

「に、人気、無い……、ね?」

「想定外~」

「お前な。俺だって泣く時は泣くぞ? なんだこの扱い」

「いや~? そうでもないんだな、これが~」

「どういう意味だよ」

「へへっ! 監督! 後は任せたぜ!」

「見せ場よ! しっかりやりなさい!」

「これでカグヤ姫のハートは独り占めだぜ!」

「お前の劇だ! しっかり締めろよ!」




「…………まじか」




「これがみんなの意見~。昨日の立哉見てさ~、花を持たせたくなったんだって~。……でも~。俺は魔王エンドを狙ってるんだ~」

「ぐすっ……。そうはいくか、魔王! みんなの期待を背負った俺は無敵! いざ、最後の勝負だ!」

「負けねえぞ~!」



 うわ、凄い殺陣たて

 わざとらしさゼロだな!

 あぶなっ!

 ……が、頑張れ王子!

 タツヤー王子、頑張れ!



「このっ! ……お前、うめえな殺陣たて!」

「え~? 本気で叩こうと思ってるんだけど~?」

「じゃあど下手じゃねえか!」



 か、かっこよくない? タツヤー王子

 うん! かっこいい!

 確か、三大イケメンよね、あの人

 バク転した!


 キャーーーー!!!



「くそ~! これじゃ立哉の引き立て役~!」

「そんなこと言ってる余裕あんのか? どおりゃああああ!」



 ガキーン!!!


 ざくっ!



「い、いってえええ! 手ぇしびれた~」

「剣を失ってはどうすることもできんだろう! では魔王! 覚悟!」

「かくなる上は~」

「……なんだそのリモコン?」



 ザザッ……



『俺もまた、人生って舞台を演じる一人の役者ってことか……、な』

『うわ。お客様、痛い』

『だれよ今の聞いてたの!? お願いですから記憶から消してくださいっ!』



「ぐはあああああ!!!!!」

「俺を倒せば~。これを校内中にばらまくぞ~?」

「き、貴様どうして……っ!」

「お前、居眠りしてたから~。面白いもん録れるかな~って」

「ま、まいりましたから音源を消去してください……っ!」

「え~? どうしよっかな~?」

「パラガス君ー。やっぱ隠しどりとかする感じー?」

「え……。ち、違う違う~! 夢ーみん、なに言ってんの~?」

「きもーい」

「ぐはあああああ!!!!!」



 ……ざわざわ


 なんだこのかっこ悪い結末!

 ふ、二人とも膝突いちゃったけど

 かっこ悪……



「……おいお前ら」

「ちょっと監督! へこんでんじゃないわよ!」

「そうだ! お前が痛いのは今に始まったこっちゃねえだろ!」

「パラガスがきもいのもいつもの事だろ!?」

「もうゆるして~! まいった~! 降参~!」

「いや、こっちが降参だ……! もう勘弁してくれ……!」

「いやだ~、俺に降参させてください~!」

「そうはいくか! 俺こそ降参だ……」


「「「何やってんだお前ら!!!」」」



 ……ざわざわ

 ……ざわざわ



「ご、ごほんっ! や、やったー! 魔王を討伐したぞー!」

「……甲斐、見直した」

「ああ。でもお前の力じゃどうにもできんぞこれ」

「どうやって締める?」

「これって、魔王を月に封印しなくていいのか? ……ん? どうしたしまっちゅ?」

「隠し録り犯罪者は……、ジャッジ!」

「ジャッジおばあさん! 有罪!」

「ジャッジ帝! 有罪!」

「ジャッジ竹! 有罪!」

「よって魔王を月に封印することにするわ!」


「「「さんせー!」」」


「っというわけよ。姫様、頼むわ?」

「え? ……むり、よ?」

「何で!?」

「だってワイヤーアクション、パラガス君とくっ付くの、いや……」

「そ、そうよね!」

「そうだった。魔王役を夏木にしたの、そのせいだったっけ!」

「じゃあどうしたら……」

「えっと……」



「こら。なぜ俺を見る」



「監督! 後は任せたぜ!」

「見せ場よ! しっかりやりなさい!」

「これでカグヤ姫のハートは独り占めだぜ!」

「セリフは同じでこうも意味が違うだと!?」

「頼むぜ監督!」

「俺たちの監督!」

「ちきしょうお前ら覚えてろよ!? お前、ハーネス付けてるんだろ!」

「うん~。舞浜ちゃんさらって逃げる予定だったから~」

「じゃあ俺のベルトにナスカンかけろ!」

「え~? なんで男と~?」

「うるせえキリキリやれ! じゃあ皆さんお世話になりました! たまに月を見たら、ああ、そういや昔、立哉っておもしれえやつがいたなって思い出してください!」

「いやいや、芝居しろ!」

「やりようがあるだろもっと!」

「かっこよくできんのかお前は」

「できるかこの扱いで! ……ん? どしたよ、姫」


「つ……、月に……? お別れ……?」


「おいおい、ほんとどうしたんだお前。……なに泣いてるの!?」

「だ、だって……」

「じゃあ、お前が行く?」

「そ、それじゃ同じ……」

「わけわからん」

「ほいじゃ、行くよ~」

「お前は空気読めうおっ!」



 ワイヤーアクション!?

 おおっ! 会場の上飛ぶのか!

 向こうのキャットウォークまで行くのか?

 ……でも、なんで飛んだ?



「こらタツヤー王子! セリフセリフ!」

「お客様キョトーンだって!」

「こいつのせいだっての! え、ええと! 俺が魔王を月に封印してきます! 俺、実は月の姫だから!」

「姫じゃねえだろ!」

「間違えたっ!」



 どっ!



「ばかっ!」

「クライマックスで何やってんだお前!」

「だ、だってもともと姫のセリフだったんだからしょうがねえだろ!」



 姫くんかわいい!

 ねえ、なんでカグヤは泣いてるの?

 王子と別れるのが嫌だって芝居だろ?

 元気出してー、姫様ー

 頑張れー



 頑張れー



「け、けっこうスリルあった~」

「そうだな。……さて……。みんな、聞いてくれ!」

「なんだ?」

「どうしたタツヤー王子!」

「…………俺には、まったくオチが思いつかん!」

「まあ、なあ」

「あっは! でも、僕にはハッピーエンドが見えるよ、タツヤー王子!」

「おお! さすがはニシーノ王子!」

「安心したまえ! すぐに僕たちの聖剣で……、あれ?」

「あのバカ! 聖剣持って行っちまった!」

「うわあああ! そうか、そっちに三本あればなんとかなったのか!」

「バカだな~、立哉~」

「うるせえ黙れ諸悪の根源!」

「くそっ! タツヤー! なんとしても君を僕の手に取り戻してみせるよ!」

「ん? ……姫様、どうされましたか?」

「な、なんでも、ない……、よ?」

「ああ、僕の姫様! ご安心ください、必ずタツヤー王子を取り戻してみせますので!」

「あ、あのね……。ニシーノ王子……、くん」

「はい、姫様! ……くん?」

「……ほ、保坂君、が……」

「え?」

「ほ、ほんとの王子様だったら……、どうする?」

「ど、どういうことだい?」



「おい、パラガス! なんかいいオチ思い付け!」

「え~? こうして魔王と王子は幸せに暮らしましたとさ~?」

「めでたくねえ!」



「……あ。姫様の剣も聖剣でしたよね」

「あっは! そうだよさすがカイン王子! さあ姫様、三人で声を合わせて!」

「せーの……」

「「タツヤー!」」

「…………む、むり…………」

「ど、どうされたのです、姫……」

「泣い……!? ねえ、舞浜ちゃん、どうしたの? ……いや、首振ってても分からないよ」

「だ、だって……。保坂君、こっちに呼び戻しても……。私、また一人に……」

「え? 何を言ってるんだい?」

「そ、それに……。よ、呼べないの……」

「なんで?」

「た、大切なの……。名前……」



 ……

 …………

 ………………



 さて。

 体育館のキャットウォーク。

 舞台の反対側に立ったわけだが。


 本来なら姫を王子三人が聖剣で呼び戻してハッピーエンドとなるところを……。


「……やっちまったぜ」


 きけ子との立ち回りでやらかした失態、再び。

 これ、どう収拾付けたらいいんだ?


 ……考えろ。

 俺の頭脳は何のためにある。


 結末と。

 そこに向かうマイルストーン。


 姫にとっての幸せとは。

 みんなにとっての幸せな結末とは。



 ……なんか。

 ここんとこずっと。

 同じことを考えてたな。



 じゃあ、考え方を変えてみるか。



 ……俺は。



 どんな結末を望むのか。



「…………そうだ! あいつ、ハーネス付けてた!」

「え~? どうした立哉~?」

「もともとのシナリオじゃ、あいつが夏木抱えて飛ぶ予定だったんだ! ドレスの下にハーネス付けてる!」

「そりゃそうだけど~」

「おまえら! 聖剣寄こせ!」


「え?」

「聖剣を?」


「投げるってことにして、ワイヤーに繋げろ!」

「どうする気だ~?」

「お前はワイヤーもう一回セットしとけ」

「うん~」


 甲斐と王子くんが聖剣をくくったワイヤーを。

 大道具担当の姫くんが。

 慎重に操作して俺の手元へ運ぶ。


 落っことしたら台無しだ。

 慎重に外して……、よし!


 三本の聖剣を抱えて。

 レーザー照射だ!



「聖剣、限定解除! マジックハンド発動!」



 まばゆい三色のレーザービームが体育館の暗闇を縦横に切り裂く。


 その光はやがて。

 白いドレスの泣き虫に収束された。



 あとは。


 召喚したい人の。



 名前を呼ぶだけだ。




「あーーーーきーーーーのーーーー!」




 …………収束された光の束が。

 真っ白に輝かせた舞台の中央。


 王子くんと秋乃が同時に振り向いたその瞬間。



「じゃねえ! 間違えた! カーグーヤー!!!」

「だせえ~!」

「うるせえぞ魔王! ……さあ、姫! こっちにこいっ!」

「は……、はいっ!」

「あはははは~! 最後の最後に間違え~、うわあ!」


 姫くん、ナイス。


 この物語の邪魔者と。

 入れ替わるように宙を舞う月の姫。


 いつもの、俺の隣に到着すると。

 脱力したまま手すりにすがりつく。



 月をイメージしたスポットライトの中。

 会場中のお客が後ろに移ったメインステージを見つめてる。


 恥ずかしいけど。

 急展開だけど。



 ……いよいよ。

 エンディングだ。



「おまえ、ガチ泣き」

「だって……。また、一人ぼっちになるって思ったら……」

「こら、芝居中なんだからちゃんと大きな声で演じろ、姫」

「うん……」

「ただ、な。ここで重大なお知らせがあります」

「…………ぴんぽんぱんぽーん?」

「どうやって締めたらいいんだ?」

「じゃ、じゃあ。ラブロマンス風……」

「いや、断言してやろう。俺は恋とかそういうのまったく分からん」

「右に同じ」

「そんじゃなんで提案した!? 分かるもん提案しろ!」

「め、夫婦漫才する?」

「あれか!? 早口言葉のやつか!? 却下だ!」

「じゃ、じゃあ、ラブコメ?」

「ラブコメ? どんなだよ」

「わ、私のハ-ト、うけとって?」

「なに差し出して……、翁のハツ!」



 どっ!



 こら、ちゃんと締めろー!

 見せ場だ見せ場ー!



「そ、そんなこと言っても、だな……」

「じゃ、じゃあ……。最後のタスキ、あげる……、ね?」

「だから受け取らねえって言っ……、て……?」


 ……なんだよお前。

 この展開、読んでたの?


 まったく。

 まるでお前がほんとの監督みてえじゃねえか。



 俺は、秋乃にタスキをかけられて。

 会場を見下ろすと。



 歓声と、盛大な拍手で体育館が満たされた。



 そして月のスポットライトが小さくなって。

 俺たちの姿を闇夜に隠すと。


 エンディングの音楽。

 舞台側でのカーテンコール。



 まるで月の裏っかわ。

 地球からは見えないところで。


 ひそひそと話す。

 お互いに。

 たった一人の友達同士。


「……バカだな。芝居と現実ごっちゃになってるっての」

「そ、そだよね……。今更、はずかしくなった……」

「このタスキ、深い意味とかねえよな?」

「な、無い無い」

「ほんとか?」


 そして頃合いを計ったように。

 再び月が夜空に浮かぶ。


 それに合わせて。

 俺たちが立ち上がると。



 会場の人たちが一斉に立ち上がって振り返って。

 盛大な拍手で。


 俺たちの顔を。

 くしゃくしゃにさせた。



 よかった。

 なんとか、成功したみたいだ。


 どっと疲れて崩れそうになる俺の手を。

 秋乃が、そっと掴む。


 そしてぽつりと。



「今は……、まだ、ね? まだ、むり」

「え? なんて言った?」



 拍手の音に紛れて、何かを呟いた。



 そんな秋乃の顔を見つめると。

 入学以来、ずっと望んでいた無様な笑顔で会場に手を振ってたから。


 俺は嬉しくなって。


 

 『私の王子様』



 そう書かれた、最後のタスキを振って。

 秋乃に負けない程の。



 無様な笑顔を。

 みんなに披露した。


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