晴雲秋月

【晴雲秋月:心に汚れが無く、澄み透っている。また、この場においては長い夏の雨が終わり、秋という新たな物語が始まろうとしていることを暗示している。】


閃光が収まり、視界が開ける。そこに立っていたのは唯一人……教皇であった。デイゴアモスの姿は一切その場から消えていた。それに対して教皇は無傷であった。


「いい演奏だったぜ。俺チャンも冗談抜きで逝っちまった。」


デイゴアモスが言っていた復活系スキル。そのスキルが発動したのだろうか。


「……終わったのか?」


俺は思わず呟く。はっとして教皇を見ると、教皇は俺の方を見ており、口角を上げた。


「ああ、俺チャンも演奏家達も全員無事だ。」


《熟練度が一定に達しました。個体名"トモヤ・ハガヤ"がレベル16になりました。》

《身体の損傷を再生します。》

《スキルポイントを入手しました。》

《熟練度が一定に達しました。個体名"トモヤ・ハガヤ"がレベル17になりました。》

《身体の損傷を再生します。》

《スキルポイントを入手しました。》


レベルアップの音声が脳内に流れ、実感する。本当に終わったのか……そう思うと全身から力が抜け、その場に座り込んでしまった。


《熟練度が一定に達しました。スキル『魔強酸粘液の加護』を獲得しました。》


「は?何だこれ……」


俺が直接手を下した訳でもないのに、こんなスキルが手に入るとは……


──……チャオ。


突然のことで思考が追い付かなくなり、呆然としていると、一つの馬車が近づいてきた。

そして、見覚えのある顔の人が降りてきた。その人は俺の姿と教皇を確認すると、とんでもない表情で駆け寄ってきた。


「ディアンティス教皇……アンタ、”何が囮役になるから後は任せた”だ!!」


ルシエドさんだった。どうやら教皇が今回の囮役になったのは、教皇自身の独断で決めたことだったらしい。


「まあまあ落ち着けよ。チョビ髭チャンよぉ。何とかなっただろ?」


怒り心頭のルシエドさんに対して、全く悪びれる様子の無い教皇。


「アンタが死んだらプロイツ王国の禿共が騒がしくなるのは目に見えているでしょうに!!」


まくし立てる様に叫ぶルシエドさん。そして次に俺の方を見ると……


「坊主!!今回は言うことは無い、報酬を楽しみにしておけ!!」

「は、はい……」


確かに今回は珍しく無傷だ。勿論、今回戦闘が殆ど無かったという理由もあるが、一番は教皇のお陰だろう。

そう考えていると、いつの間にか近くに居たはずの教皇とルシエドさんが居なくなっていた。


――――――――――――――――――――――――――

「で、楽園帰りは確かに発動したんですね?」


ルシエドはディアンティスに問う。


「おう。魔強酸粘液の野郎に俺チャンの身体は貫かれ、魔法も流されて完全に即死だったが、無事に生き返ったぜ。」


そう言いながら、ディアンティスは右手を閉じて開いて見せる。


「それで文献通りの場所だったんですか?“楽園”という場所は?」

「あぁ、まあ大体文献の通りだったな。宇宙樹ヤシュチェの影の中にあったぞ。」


ルシエドはチョビ髭に触りながら考える。


「最初から説明するぞ。まず楽園に辿り着いた俺チャンは思考能力が極端に低下してな。まあ身体と精神が無いんだから当たり前っちゃ当然なんだがな。」


身体が無ければ脳が働かないどころか、思考が発生しない。精神が無ければ、本能や欲望も存在しない。霊魂だけの世界とは、つまりそういう場所なのだ。


「周りには白いモヤみたいなのが沢山漂ってやがった。恐らく、それが俺以外の霊魂だったんだろうな。」


ディアンティスは、その光景を思い出しながら恐怖の感情に囚われていた。


「(触れちまえば、きっと粘土みたく簡単に形が変わるんだろうな……それくらい不安定なモンだった。)」


そんなことをディアンティスは考えながらも、話を続ける。


「次にメシが馬鹿みたいに用意された。正直、俺の楽園帰りは死亡時から五秒経てば発動出来るから、態々食う必要は無かったんだけどよ……」


そこでディアンティスの表情が曇る。簡単に言えば、好奇心に負けたのだ。

目の前に並べられた御馳走を貪る様に食らった。正確には身体ではなく霊魂の状態である為、食べたという表現は正しくない。

永遠にすら感じる時間の中で、ディアンティスは何とか我に返り、楽園帰りを発動した。


「数年間は食い物に囲まれてたんじゃねえか、と思ったぜ。慌てて復活したら、数年どころか数秒しか経ってなかったけどな。」


そう言って、笑い飛ばすディアンティスだが……


「笑い事では済まないですよ……本当に楽園での体感時間と現実の時間が一致してたら、最悪この再会すら出来なくなるところでしたよ。」


ルシエドは本気で怒っていた。そもそも、この作戦自体が博打に近いものだった。それに加えて神官達を纏め上げる立場にある教皇が勝手に動いたことも許せなかった。

だが、ディアンティスは気にする様子は無く、あっけらかんとした態度で答える。


「悪い悪い。でもな、俺チャンは時期に寿命で死ぬんだ。後釜も候補は腐るほどいるし、大丈夫だろ。」


ルシエドは頭を抱えながら、大きく溜息を吐く。


「まあ最悪、寿命で死んだ後も楽園帰り使って禿共や神官たちの指導くらいならやってやる。」


そう言うとディアンティスは口角を上げながら、ルシエドの肩を叩く。ルシエドはその手を払い除けると、もう一度大きな溜息を吐いた。


「一先ずは大陸の危機は去った訳だ。さっさと片付けて、すたこら退散だ。」


ディアンティスがそう言うと、二人はその場を離れた。

木々の隙間から快晴の空が見える。曇天であった演奏前とは違い、雲一つ無い青空が広がっていた。そして天空に浮かぶデイゴアモスの塔。

主が消えたが、天空の塔は再び海底に沈むことはなかった。寧ろその存在感をより一層増しているのだった。


――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

人族ホモ・サピエンス︰レベル17

生命力:B

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:B

防御力:C

魔力攻:D

魔力防:D

走 力:B


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『仮説組立(レベル5)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。

『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。

『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『加工技術』加工の技術を高めるスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル6)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル4)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『酸耐性(レベル5)』触れた酸を中和させて、活動しやすくする。またこのスキルを発動すると、触れた酸と同質量の水が生成される。

『塩基耐性(レベル3)』触れた塩基を中和させて、活動しやすくする。またこのスキルを発動すると、触れた酸と同質量の水が生成される。

『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。

『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。

『恐怖体制(レベル1)』迸る恐怖を和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル4)』火を操る魔法。

『水魔法(レベル3)』水を操る魔法。

『風魔法(レベル3)』風を操る魔法。

『時魔法(レベル4)』時を操る魔法。

『結界魔法(レベル1)』障壁を作り出したり、対象を拘束する魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。

『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。

『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。

『魔強酸粘液の加護』魔強酸粘液から異種族に与えられる加護。←new


現在の持ち物

銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。

冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。

毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。

黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。

デモカイガの繭:デモカイガは卵から双子の幼虫が生まれ、その双子の繭は空間が捻じ曲げられたかの様に繋がっている。その性質を利用し音声を共有することが出来るが、一度しようすると繭の中から成虫が飛び出して使えなくなる。片方の繭をミズキ達が所持している。

グランベードの遺石︰グランベードが消滅時に遺した結晶。微かな意志を感じる。

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