友を討つ覚悟

【覚悟:これから起こる事柄に対して、自分がどんな行動をとるべきか待ち受けて心を決めておくこと。また迷いを絶ち道理を悟ること。】


今日は雷雨だ。雨の主成分は有毒物質、それに加えて当たれば即死の雷撃が降り注ぐ。まさに最悪の天災と言っても過言ではない天候である。

そんな環境の中で、俺はひたすら演奏を続けていた。最早、残された時間は少ない。デイゴアモスを討つ、という覚悟を胸に秘めながら、俺は練習を続ける。

数日前、全体練習を行った。今までの演奏とは全く違う、魂を込めた演奏。全員の呼吸がピッタリと合った、正真正銘の芸術と呼べるものだった。

これを聴いた三匹のハウンドは身体が光の粒子と変わり、一筋の縦線へと姿を変えた。やがて幾つもの円環に包まれると、天高く舞い上がり、その姿を消す。

俺が知っている中で、最も美しく最も幻想的な散り様だった。今回に関してはリザンテを連れてこないで正解だったかもしれない。演奏者の一部も粒子化しかけていた。この演奏は……場合によっては大量殺戮兵器になりかねない程の威力を持っていた。

これをデイゴアモスに……


「……やれるのか。」


思わず呟く。覚悟が足りないのだろうか。自然環境、大陸を守る為とはいえ、ほぼ毎日対話した相手を殺せるのだろうか。

オークロード、バンシィ……俺が戦った言語を話す魔物達を思い浮かべる。

敵対心剥き出しの相手だったのは間違いない。

オークロードは同族が生き残る為に全身全霊で闘争に挑んできた。バンシィは文字通り精神が壊れるまで復讐心に囚われていた。どちらも出会って直ぐに戦闘になった。


「つぅ……」


右肩と左手首が痛む。実際に今怪我をしたということではなく、幻痛の様なものだろう。オークロードの肥大化した腕に吹き飛ばされた時、洞窟の壁に激突した時の右肩の痛み。バンシィの寒冷魔法で左手首に霜が降りて凍傷寸前まで追い込まれた際の痺れ。


「迷ってる……んだよな……」


こんな事は今まで一度も無かった。トラウマとは違う。


「……」


答えは出ない。迷いながら、悩みながら、俺は楽器を弾き続けた。

そして……


「……行くか。」


雷雨など最早気にはならなかった。俺はここで会わなければ、俺は迷い続けるだけの存在になる。そう確信していた。


「トモヤぁちゃん……こんな雨なのに来たのぉ?」


目の前にはいつも通りの触手の塊があった。だが、今日に限っては普段よりも大きく見える。


「そうよそうよ!!雨を降らせてる原因が分かったのぉ!!」

「……え?」


耳に入る音が全て消える。そして思考が停止する。そして、ほんの少しだけ希望が見えた気がした。


「トモヤちゃん、ハーケンリテックスって知ってる?」


俺は放心状態から何とか立ち直り、声を絞り出す。


「鑑定発動……」


《ハーケンリテックス:海月型の魔物。普段は海底に生息している。麻痺性の毒や即効性の猛毒などの様々な毒液を持っている。魔強酸粘液が出現すると知性が強化される魔物の一体であり、生活の場を海底から天空に広げる。そして魔強酸粘液の成分が溶けだした雨雲を餌にする、その為に雨を降らせている。》


 俺は頭の中に流れてきた情報を整理していくと同時に、手を強く握りしめた。


「(……あぁ、分かってはいたさ。)」


ハーケンリテックスが天空にいる以上、俺自身が戦うことは不可能に近い。


「悔しいけど……ワタシの触手が届かない高度にいるのよぉねぇ。」


俺は拳を再度強く握る。俺は……あの演奏を……デイゴアモスに……

何かが割れるような音が聞こえた。


「……トモヤちゃん、どうしたのぉ?不機嫌な顔はイケサピに似合わないわよぉ。」


触手がこちらに向かって伸びてくる。だが、俺にはそれが酷く遅く感じられた。

奇妙な友情とも言える感情を抱いていたデイゴアモスを殺す為の……演奏。


「……三日後の塔に向かって、演奏を行う。」


俺の声を聞いた瞬間、デイゴアモスの触手の動きは止まった。演奏が数少ない自らを殺し得る方法の一つだと理解したからだろう。


「ふぅん……人族のお子ちゃま達がコソコソと何かやってるのは知っていたけど……なるほどねぇ……」


触手は動きを止めたままだ。だが、それは俺の言葉に対する返答ではない。


「で、トモヤちゃんは何でそのことをワタシに言ったのかしらぁ?」


触手がゆっくりと近づいてくる。


「……フェアじゃ無いからな。」


俺がそう言うと、触手は急停止して俺の周りをグルグルと回り始めた。


「……ハハハハハハ!!何よそれ!!トモヤちゃん、最高にイカれてるじゃない!!」


デイゴアモスは笑っていた。


「……そうね。久しぶりにできた友達だもの。全力でシアウ殺しあうのが礼儀よねぇ。」


デイゴアモスの笑いが止まる。触手の動きも完全に静止する。

そして、デイゴアモスの触手が発光し始めた。


「ワタシにも意地があるの。数千年ぶりに復活したってのに、このまま引き下がれないわよ。全力で妨害させてもらうわねぇ!!」


触手の発光が強まると同時に雷光も激しく輝き始める。あまりの眩しさに目を開けていられない程だ。光が収まった時、俺の目の前からデイゴアモスの触手は消えていた。

雨に濡れながら、俺はただ呆然と立ち尽くしていた。それでも、一つの迷いは流されて決意だけが残った。


《熟練度が一定に達しました。スキル『酸耐性(レベル3)』が『酸耐性(レベル4)』に上昇しました。》

《熟練度が一定に達しました。スキル『酸耐性(レベル4)』が『酸耐性(レベル5)』に上昇しました。》

《熟練度が一定に達しました。スキル『塩基耐性(レベル2)』が『塩基耐性(レベル3)』に上昇しました。》

《熟練度が一定に達しました。スキル『毒耐性(レベル3)』が『毒耐性(レベル4)』に上昇しました。》

《熟練度が一定に達しました。スキル『恐怖耐性(レベル1)』を獲得しました。》


――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

人族ホモ・サピエンス︰レベル15

生命力:B

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:B

防御力:C

魔力攻:D

魔力防:D

走 力:B


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『仮説組立(レベル5)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。

『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。

『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『加工技術』加工の技術を高めるスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル6)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル4)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『酸耐性(レベル5)』触れた酸を中和させて、活動しやすくする。またこのスキルを発動すると、触れた酸と同質量の水が生成される。

『塩基耐性(レベル3)』触れた塩基を中和させて、活動しやすくする。またこのスキルを発動すると、触れた酸と同質量の水が生成される。

『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。

『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。

『恐怖体制(レベル1)』迸る恐怖を和らげて、活動しやすくする。←new


●魔法

『火魔法(レベル4)』火を操る魔法。

『水魔法(レベル3)』水を操る魔法。

『風魔法(レベル3)』風を操る魔法。

『時魔法(レベル4)』時を操る魔法。

『結界魔法(レベル1)』障壁を作り出したり、対象を拘束する魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。

『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。

『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。


現在の持ち物

銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。

冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。

毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。

黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。

デモカイガの繭:デモカイガは卵から双子の幼虫が生まれ、その双子の繭は空間が捻じ曲げられたかの様に繋がっている。その性質を利用し音声を共有することが出来るが、一度しようすると繭の中から成虫が飛び出して使えなくなる。片方の繭をミズキ達が所持している。

グランベードの遺石︰グランベードが消滅時に遺した結晶。微かな意志を感じる。

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