翼が折れたタイガー

【翼︰空を飛ぶために必要な器官。】


雨の都市の名の通り、今日は朝から雨が降っている。俺はアガレス領付近の草原を歩いていた。ここはかつてオークの先兵がアガレス領を目指し進軍した場所であり、俺が重症を負った地でもある。

受付嬢が寒冷魔法で数m級の氷柱を作りだし、それを草原に突き刺した跡は未だに残っている。

「……やっぱ植物は強いな。」

窪みの部分の中の方が草花が青々しく生い茂っていた。少ない光合成で生きていくとは……

「この辺でいいか。」

俺は鞄から小さな箱を取り出す。その箱を開けると中には小さな魔物がいた。鼠型の魔物であるスモラだ。大きさは小指程度で、箱から出ようと必死にもがいている。スモラは危険性の少ない魔物ではあるがオーク並みの繁殖力を持っているため、駆除の依頼が出ることがある。

俺は時魔法を試すために、スモラを捕まえてきたのだ。

「まずは老化させてみるか。」

俺は時魔法を発動する。発動した瞬間、箱の中のスモラは動きを止めて動かなくなった。

「次に若化させる。」

するとスモラは勢いよく飛び跳ねて、箱の外から飛び出して行った。だが、地面に着地する頃には胎児まで弱化しており、見えなくなっていった。

「これは……」

スモラの寿命は五年程度だと言われているが、今の状態は時魔法によって老年期から幼年を行ったり来たりといったところだろうか。この魔法、使い方によっては擬似的な不老を再現できるかもしれない。

「さてと、もう少し奥まで行ってみるかな。」

俺は平原を抜けて森林地帯に向かった。

「これは……」

森に入って暫く歩くと、植林されたばかりの木の苗を見つけた。おそらくギルド職員の人が植えたのだろう。

「これ、老化させたらどうなるんだろう?」

俺は時魔法の発動を試みる。すると、先程まで苗だった木々が育ち、やがて周りと違和感がなくなるくらいには成長した。

「おいおい……いくら倍速を使用したとはいえ、ここまで育つのかよ……」

正直言って予想外だ。時魔法レベル4の時点では倍速の効果は一秒で一年分の時間効果を付与出来るのだが、この苗木は五分ほどでここまで成長してしまった。

「……流石に対魔物用だよな。」

あまり想像したくは無いが、もし人や建築物に使用した場合、とんでもないことになる気がする。強制的に老衰死や建物が塵になるなど本当に笑えない。

俺はその後、森の奥に進んでいった。

「よう。久しぶりだな。」

俺の目の前には白い翼を生やした巨大な虎が立っていた。

「グルアァ!!」

俺が発見した二つ名持ちのエルドタイガー、通称白翼はこちらに向かって突進してきた。

「おっと。」

咄嵯に避けると、先程まで俺が居たところを白翼が通過していった。そのまま通り過ぎると、身体を回転させて尻尾を振り回してくる。

「ガウッ!!」

「まずは老化だ!!」

これで長時間の戦闘は回避出来るはずだ。まずは状況整理だ。エルドタイガーの特徴は病原菌塗れの爪に巨体を無視した速さにある。それに加えて、翼が生えたことにより空中戦が可能になった。

「グゥルルル!!」

俺に攻撃が当たらないことに苛立ったのか、再び突撃を仕掛けてくる。

「風刃!!」

圧縮された粒子の集合体である風の刃は、俺に迫り来る白翼の足を切断した。

「ギャウンッ!?」

悲鳴を上げながら落下していく。そして、俺はすかさず追撃をかける。

「狂風!!風刃!!」

四方八方から放たれる風刃は、白翼の全身を切り刻んでいく。

「ガアッ……」

白翼は力無く落ちていき、俺の前に横たわった。

「ギャ……ギィィヤァ!!」

まあ、そんな簡単じゃないよな……

「うおぉっ!!」

俺は思いっきり横に飛ぶ。すると、先ほどまで俺がいた場所に何かが落ちていた。それは鋭利な爪であった。

「……普通、武器を捨てるか?」

俺は苦笑いしながら呟いた。

「ギュオォン!!」

鳴き声と共に、更に鋭利な爪が飛んでくる。俺はそれを槍で弾く。

「なるほど……これ、伸びてるな。」

エルドタイガーの爪は多少切ってもすぐに生え変わる。どんな速度だよ……いや俺が老化を使っているからか? 

「ガフッ……ガハハッ!」

白翼は口から血を吐き始めた。

「おっと……流石に急激な成長に身体が耐えられないか。」

もし仮に病気や癌になったまま老化したり、若化した場合、精神や霊魂が無事でも身体が耐えられなくなる。

「じゃあそろそろ終わりにするかな。」

俺はゆっくりと歩いて近づく。

「ガルル……ガッ……グッ……ガガァァァ!!」

「まずは一体……」

槍はエルドタイガーの首元を貫いて、その命を奪った。


《熟練度が一定に達しました。個体名"トモヤ・ハガヤ"がレベル14になりました。》

《身体の損傷を再生します。》

《スキルポイントを入手しました。》


「さてと……一旦帰るか。」

戦いを終えた俺はアガレス領に戻ることにした。森を出る頃には雨は止んでおり、雲間からは日差しが見え隠れしていた。


――――――――――――――――――――――――――

「おお!!これが人化っすか!!」

「ああ、そうだ。」

ここはリュウジとリュウタがいる平原。遂にリュウタも人化を獲得し二人は喜んでいた。

「それにしても……お前、裁縫とかできたんだな。」

「いや、これはスキル加工技術と機織技術の複合技っすよ。下着や無地のシャツくらいなら誰でも作れると思うっすけどね。」

そう言うと、リュウタは光沢のある糸の塊を作り出した。

「なんだそれ?」

「これはデモカイガとかいう魔物の糸を紡いだものっすよ。」

ちなみにリュウタはデモカイガの繭自体がとんでもなく高価な素材であることを知らない。

「それじゃあ他の奴らとの合流を目指して出発だな。」

こうして二人のはアガレス領に向かうのだった。


――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

人族ホモ・サピエンス︰レベル14

生命力:B

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:B

防御力:C

魔力攻:D

魔力防:D

走 力:B


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『仮説組立(レベル5)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。

『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。

『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『加工技術』加工の技術を高めるスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル6)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。

『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル4)』火を操る魔法。

『水魔法(レベル3)』水を操る魔法。

『風魔法(レベル3)』風を操る魔法。

『時魔法(レベル4)』時を操る魔法。

『結界魔法(レベル1)』障壁を作り出したり、対象を拘束する魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。

『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。

『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。


現在の持ち物

銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。

冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。

毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。

黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。

デモカイガの繭:デモカイガは卵から双子の幼虫が生まれ、その双子の繭は空間が捻じ曲げられたかの様に繋がっている。その性質を利用し音声を共有することが出来るが、一度しようすると繭の中から成虫が飛び出して使えなくなる。片方の繭をミズキ達が所持している。

グランベードの遺石︰グランベードが消滅時に遺した結晶。微かな意志を感じる。

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