食物連鎖 屍は何処へ消える

【結界魔法:学園で作られた魔法の一つ。強い思い込みから透明な障壁を作り出す魔物、ガウバリアンを解体する過程で生まれたと言われている。魔力を込めれば込めた分だけ強固な障壁になる。】


「フフフフフフフフフフフフフ……さようならさようなら……私の前から消え失せなさい。」

妖精族の怨霊が魔法陣をいくつも同時に展開すると、そこから無数の氷の刃が放たれていく。

舐めていたつもりは一切無いが、俺達の身体はどんどんボロボロになっていく。氷の刃自体の威力も恐ろしいが、更に厄介なのは地面に突き刺さった氷の刃の方だ。氷が残れば残る程、そこから冷気が広がっていくのだ。まだガリア平原と同じ気温とは言わないが、それでもかなり気温が下がっている。このままだといずれ凍死してしまうかもしれない。

「リゼ、大丈夫か!?」

俺は思わず叫んでしまった。リゼは先ほど蹴られた腹を押さえながら、必死に痛みに耐えている。

「まだ大丈夫だね……大丈夫……だけど、これ以上はちょっと厳しいかも……」

「くっ!」

怨霊の攻撃が激しさを増す。

「……いい報告があるよ!!他の怨霊は討伐できたみたい!!」

ミヅキが俺の後ろから、そんな事を言ってきた。どうやら、念話の様なもので連絡を取り合っていたらしい。それを戦いながらやるなんて……これが上級冒険者か……

俺はそう思いながらも、ミヅキの報告を聞いた。


――――――――――――――――――――――――――

時間は少し戻り、アキオとアイリはガリアン・ターストラの怨霊と相対していた。

「不快不愉快!!おのれぇ!!巨体だけが取り柄の鯨に、数が多いだけの毒鰐なんぞに我が一族が滅ぼされるなど、あってたまるかぁ!!」

「……あの時は喋ってなかったのに、今は随分お喋りなんだな。」

「黙れ小僧!!かつての我と今の我を比べるでないわぁ!!我を渦巻く悪意と憎悪マイナスエネルギーはもはやあの時の比ではないわ!!」

「……まあそんなことはどうでもいいんだけどな。」

「何ぃ!?」

「ところで後ろを見てみろよ。」

「な!?」

ガリアン・ターストラの怨霊は後ろを確認した瞬間……首が飛んでいた。

「なんだぁ!!それはぁ!!」

首を切り落としたのはアイリの持つ聖剣だった。そしてそのままアイリは続けて胴を切断した。そもそも怨霊である以上、聖剣のダメージはどう足掻いても無視できない。

それに加えてアイリのスキルである『暗殺神技あんさつしんぎ』は『奇襲攻撃』と呼ばれるスキルの最終進化形であり、気配を消すどころかその場にいるという情報を鑑定や探知系スキルで得ることすら困難になる。つまり不意打ちに完全に特化したスキルなのだ。

アイリはアキオにVサインを出した後、すぐに怨霊にトドメをさすべく動いた。

「……す、吸われる……我の存在が……まだ消えたくない……死にたく……ない……」

怨霊お前達はもう一回死んでるだろが……」

怨霊の様子に呆れるアキオだが、上級冒険者としての経験からか、何か嫌な予感を感じていた。

「……怨霊系の魔物は消滅時にマイナスエネルギーの結晶を遺すはず……これは……」

瞬く間に怨霊がその場に居たという証拠が消えてしまった。

「一体何が起こっているんだ?」


――――――――――――――――――――――――――

「アークパラがまず逝ったか……しかし想定内だな。」

ガリアン・ターストラの怨霊が敗れたことに驚くことなく、エルドシザリーの怨霊、個体名ブレイアはそう呟いた。

「(この怨霊達は多少の仲間意識が存在する?)」

ミネルは疑問に思う。仲間意識というよりは怨霊の同胞意識といった方が近いだろう。

「死というのは消滅でしかない。怨霊だろうと人族であろうと変わらない。なのにお前達はどう足掻いても勝てぬ相手に立ち向かい散ることを美徳だの誇りなどとほざく。負けは所詮負けであるに……」

「……貴方のことは知っていますよ。エルドシザリーのブレイア。災害種である魔仙麒麟に勝負を挑んで、そして殺された哀れな魔物。」

「………………」

ミネルの言葉にブレイアは何も答えなかった。ただ無言で佇むだけだったが、その雰囲気には明確な怒りが現れていた。

「人族の間では知らない者はいない、勇気ある魔物を称える伝承としてガリア帝国建国記と並ぶ人気の物語になっていますよ。」

「巫山戯るな!!死というのは消滅……私の行動を勇気ある行動だと……?私はそんなくだらん称賛を得る為にあの化け物に挑んだのでは無い!!ただ己の限界に挑みたかっただけだ!!」

「ですが負けた。」

「ああ負けたとも!!それについては文句は無い!!私自身が弱かっただけなのだから!!だが……貴様ら人族の価値観で私を語ってなど欲しくは無い!!」

「成程、それが貴方の考えですか……分かりました。ですが、それ程までに死に拘りが有るなら何故、怨霊などに身を落としたのです?」

「…………」

「……言いたくなければ結構ですよ。では、そろそろ終わりにしましょうか。」

ミネルは両手に魔力を込める。すると、彼女の周囲に膨大な量の魔法陣が展開される。

「(この人族の老婆……なんという練られた魔力……)」

「エルドシザリーの死体を解剖し作られた魔法です。エルドシザリーは蟹型の魔物でありながら人族に酷似した器官が発見されました。」

「まさか私達一族の秘術を……」

「その器官は大脳、つまり人族の思考を司る部分と同じ働きをしていたんです。貴方達エルドシザリーは洗脳などの思考誘導を得意とされていましたね。この魔法を名付けるなら……思考魔法でしょうか。」

「私達一族の技をそんな風に……」

「言ったでしょ?終わりです。」

ミネルは魔法を発動する。

「ぎぃやぁぁあ!!」

ブレイアの悲鳴が響き渡る。

『思考魔法』はその名の通り、相手の脳に直接作用して相手を操る。だが脳に直接作用するということは、脳に与える負荷は尋常ではない。更に不幸なことにエルドシザリーの脳構造は人族より遥かに頑強だったため、ダメージが蓄積する。ブレイアにとっては地獄の苦しみだろう。

「……うぐぅ!!こっ、こんな所でぇ……」

「誰が何と言おうと貴方は勇気ある魔物ですよ。そして貴方は怨霊程度になるべき存在ではなかった。」

ブレイアはその言葉を聞きながら静かに消えていった。二度目の最期に何を思ったのか……それはブレイアにしか分からないことだ。

「……結晶が現れない?」

ミネルもまた怨霊の消滅に違和感を憶えた。


――――――――――――――――――――――――――

ギチギチと複雑な音を立てながら、巨大な身体を震わせるのは巨人族の怨霊、個体名をノースリアという。

「……ア、アークパラも……ブレイアも逝っちまったのか?」

その巨体から発せられる声は怯えて震えているように聞こえる。

「ええ、そうみたいですね。」

副学長は眼鏡をクイッと持ち上げる。

「そ、そんな……俺はまだ消えれない!!俺達の島を取り戻すために俺は……」

「『……』ですか?」

「な!?」

ノースリアが発言しようとしていた一言一句をピタリと言い当てた副学長に驚く。

「全て解りますよ。怨霊になった理由は巨人族の聖地である島が海に沈んだから。」

「……そうだ!!だから俺はあの島を再び浮かせる為に……」

「あの島は内輪揉めで沈んだのに?」

「……は?どういう意味だ?」

「そのままの意味ですよ。あの島は自然現象で沈んだのではなく、巨人族同士のちょっとした諍いが原因で沈みましたよ。」

「……は?そんな訳が……」

「全て事実ですよ。鑑定で得た情報は一切の嘘偽りはありません。」

「じゃ、じゃあ……俺は何のために怨霊になんてなったんだよ……」

ノースリアは膝をついて項垂れる。だが暫くして彼は顔を上げる。

「名も知らぬ人族の男よ……介錯を頼む。」

ノースリアは持っていた斧を学長に手渡した。

「……」

副学長は無言で受け取る。ノースリアも先程とは違い、覚悟を決めた声で話し出す。

「全く……俺が逝けば残るのはバンシィだけか……いや俺程度が気にする必要はないか……さあ、やってくれ。」

「……本当にいいんですね?」

「ああ、早くッ!?」

ノースリアの腹部を植物のツルが貫いた。

「そうだった……この世界がそんなに優しいはずが無かったな……」

副学長は突然のことで動揺することなく、鑑定を発動する。

「グランベードだと!?」

そうこの怨霊達はグランベードという捕食者の餌に過ぎないのだ。

「この状況は……まずいな……急いで母や彼等に知らせなければ!!」

副学長は急ぎ足でその場を去った。

「……貪り喰うといい……それが……怨霊を統べる者の役割というものだろう……」

その場に残されたノースリアは最期に呟いて跡形も無く消滅した。


――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

生命力:B

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:B

防御力:C

魔力攻:D

魔力防:D

走 力:B


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『仮説組立(レベル3)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。

『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。

『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『加工技術』加工の技術を高めるスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル4)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。

『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル3)』火を操る魔法。

『水魔法(レベル1)』水を操る魔法。

『風魔法(レベル1)』風を操る魔法。

『時魔法(レベル1)』時を操る魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。

『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。

『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。


現在の持ち物

銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。

冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。

毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。

黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。

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