異界冒険記

橘幽旡

日常からの隔絶

異界からの招待状

【招待:ある者に声をかけ、その者を。】


俺、芳谷倫矢はがやともやは中学の近くの私立高校に入学した普通の高校生である。家族構成は父親、母親、妹が一人いる一般家庭だ。最初は家から近いという理由だけで選んだ高校も三年間も通えば愛着が湧くものだと思う。

残りの学校生活も少なくなった初秋の火曜日。授業が終わり、俺は部活に行く準備を始めた。俺は吹奏楽部に所属しており、教室のロッカーから楽器の入ったバッグを取り出す。今月は最後の大会や文化祭などを控えていることもあり、最近は一層練習に熱が入っていた。今思えば、運動部ではなく吹奏楽を選んだのも正解だったと思う。

それにしても今日は特に教室が騒がしい。俺は周りを見渡した。


「昨日のテレビ観た?」

「なんか面白いのやってたの?」

まず最初に目に入ったのは小さめの身長の女子とクールな雰囲気の女子のコンビだった。春頃は喧嘩ばかりしていたが、今では仲が良いのがよく分かる。


「ボス倒せた?」

「無理。あいつガード早いし硬すぎるわ。」

「お前が勝てないとかマジか。」


次に目に入ったのは、ゲームが好きな三人組。この三人はいつも一緒にいる印象がある。話の内容は、先月発売されたゲームのボスについてだろう。


「やべぇ!!英語の課題今日じゃん!!」

「見せてあげようか?」

「頼むわ。」

「500円な。」

「金取るのかよー。」


頭は良いが芸人気質な男子と、運動神経は良いが頭が残念な男子がいつも通り漫才を繰り広げる。それを横目に見ながら、自分の席に戻ると……


「兄貴は英語やりました?」

「んなもんとっくに終わってる。」


不良っぽい男子とその舎弟っぽい男子。俗に言うファッションヤンキーだ。この二人は先週、ひったくり犯の確保に貢献し、警察からお礼状を貰ったらしい。そんな二人の会話が耳に入る。どうやら先程の漫才コンビが話していた英語の課題も既に終わらせているようだった。


「この人かっこよくない?」

「確かに。イケメンで背高いし、勉強もできるらしいよ。」

「やばいじゃん!」

「それね!あ、リゼ!部活終わり喫茶いかない?」

「いいね。行こっか。」


リゼと呼ばれた女子は転校生だ。三年になって、このクラスに転校してきた。初めは距離があったが、今ではクラスにすっかり馴染んでいる。巷でウェイ系と呼ばれる女子のグループと特に仲が良い。


一旦、周りを見渡すのを止める。部活前の教室はいつも騒がしい、とは思うが今日は何故か違和感を感じた。日常と言うに相応しいクラスの風景だったが、何か違う気がするのだ。


「……まぁいいか」

「トモヤ、どうしたん?」

「いや、なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ。」

「ふーん。それにしても先生、いつもより教室からいなくなるの早くね?」


同じ部活に所属してる渋川翔平が話しかけてきた。猫好きの担任はホームルームが終わるとすぐに教室から退出するため、珍しいことではない。


「会議でもあるんじゃねえの?さっさと部活行こうぜ。」

「そうだな。」


そう言って席を立ち、教室から出ようとしたその時……


バリバリバリバリバリバリバリバリ


紙が勢いよく破れたような音が響いた。瞬間、教室が閃光に包まれる。それと同時に身体中に激痛が走る。全身から感覚が無くなっていく。俺は最期に思考したのは、手に持っていたバッグの中に入った楽器だった。


――――――――――――――――――――――――――

バッグの中に入った楽器に、この世界のものでは無い異言語の文字が刻まれていく。


~27人の少年少女達へ

退屈な日々から逃れたいと思ったことがある者は多いでしょう。

それは私達も同じです。退

とあるトカゲのせいで惨めに死亡した貴方達にはチャンスがあります。

私の世界に招待します。

どうか私の退屈を壊す生き様を……

               ■■■■より~


――――――――――――――――――――――――――

・・・システム接続を確認


 システムへようこそ■■■■様


    個体名"トモヤ・ハガヤ"の異界転移を開始します


  身体:人族ホモ・サピエンス

   98.4パーセント構築完了


      霊魂:前世界の霊魂と同様

       96.3パーセント複製完了


 精神:全世界に酷似した精神を作成

  94.1パーセント作製完了


   異能力カリスマ:キーワードは"音"

     ≪スキル『旋律』を付与しました。≫

  ≪基礎戦闘力上昇しました。≫


個体名"トモヤ・ハガヤ"の異界転移が完了しました


システム接続を終了します・・・


――――――――――――――――――――――――――

目が覚めるとそこは吹雪が吹き荒れて数キロ先も見えない雪と氷の楽園いつ死ぬか分からない地獄だった。閃光に包まれ気が付けば、この猛吹雪である。

正確に言うなら、俺は洞窟の中で目を覚ましたのだ。ワンルームくらいの狭い空間で、一応洞窟には奥が更にあるようだったが、入り口は狭くてとてもじゃないけど人が通れる大きさではない。

というかそんなことはどうでもいい。暖を取る手段が無いのだ、俺の身体は小刻みに震えていた。他にも問題はあった。ここが何処なのかさっぱり見当もつかない。

この状況は俗に言うというものなのだろうか?それとも東北や北海道や外国など極寒の地へ拉致されたのか?いや、今日は秋にしては少し暑い程度の気温だった。それに仮に外国だとしてもこの吹雪は異常だ。

洞窟の外を睨みつけながら思考を巡らせていても、ガチガチッと歯が鳴るだけでまともな考えは浮かんでこない。


「あーくそっ!」


……


《要請を確認しました。スキルポイントを消費してスキル『鑑定』を獲得しますか?》


まず最初に思ったことは、脳内に女性の音声が聞こえて不快だという感想だった。漫画や小説などのキャラクターはこんな気味の悪いものを常に聞いているのかと想像すると少し可哀想になったくらいだ。いや、俺も常に聞くことにはなるのだが……現状、何一つとして情報が無い以上、この『鑑定』というスキルの取得をするべきだろう。


「はい、お願いします。」


《スキル『鑑定』を獲得しました。残りスキルポイントは2170ポイントです。》


鑑定発動、ここはどこだ?すると視界に半透明のテキストウィンドウが現れた。


《ガリア平原:常に雪が降る土地である。現在ガリア平原付近に人族ホモ・サピエンスの国家は存在していない。主に獣型の魔物が多い。》


やはり、ここは異世界なのか……ヨーロッパ風の地名だが、"人族"、"魔物"という文字を見る限り、ここが地球では無いことが嫌でも分かる。あの時、教室は確かに閃光に包まれていたし、恐らく俺以外のクラスメイト全員がこちらの世界にいると考えるべきだろう。いや、今は全て仮定の状態だ。あまり考えない方がいいかもしれない。

それにしても、一体誰が何のために俺をこの地に呼んだのだろうか?はっきり言って興味は無いが、日常を突然奪われて苛立っている自分がいるのも事実だ。俺は震えながら拳を握りしめると……


「絶対に……生き延びてやる!!」


氷原に叫びが響いたのだった。


――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

生命力:C≪身体の限界値を示す≫

魔 力:D≪魔法の才能の示す≫

体 力:C≪戦闘の持続可能時間を示す≫


攻撃力:D≪武器の才能を含めた戦闘能力を示す≫

防御力:D≪敵の攻撃に耐えられる能力を示す≫

魔力攻:E≪魔法による戦闘能力を示す≫

魔力防:E≪魔法に耐えれる能力を示す≫

走 力:C≪身体能力からなる速さを示す≫


現在使用可能なスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

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