1-3 わたる

 「・・・ていうことがあったんですよ」


 「こう聞いちゃあなんだが、聞いていいのかそれ?・・・いや、話したいから言ったのか」


 「・・・はい、話したいからいいました。聞きたくなかった、ですか?」


 「いや、別に構わんけどさ。ザキが自分のこと話すのは珍しいしな。むしろ、聞きてえよ」


 「・・・よかった。一人で抱えてたら、なんかこもりそうだったんで、助かります」


 「ふうん、それで、どうなるんだ?復縁とかか?」


 「・・・そう・・・ですね。どうなるんだろうな。昔のことをとりあえず清算しただけなんで、この先があるのか、先があったとして、それがちゃんと続くのかはわからないです」


 「まあ、人間相手だからな。そういうもんじゃねえの?俺もよくわからんが」


 「おっつー・・・・あれ、どしたの?ザキとモリ、そんな神妙な顔して」


 「お、ちょうどいいとこに、歴戦錬磨の女傑が来たぞ」


 「なんか、そこはかとなく馬鹿にされてる気がするんだけど」


 「・・・ははは」


 「なんかザキがよ、この間、話してた昔の彼女と和解したんだってさ」


 「へえ、よかったじゃん。わだかまりがとけたの?」


 「・・・はい、一応、昔別れた時のことはお互い謝れました」


 「それで、どう話が続くの?」


 「あー、これから復縁すんの?みたいな話」


 「ふーん、より戻したいの?」


 「・・・どうなんでしょ、実はよくわかってないんですよね。上手く、想像できなくて」


 「ふうん、じゃあいいんじゃない?もうちょっと保留で」


 「そーいうもんか?もっとはっきり答えを出せっていうかと思ったよ」


 「より戻したいんなら、そうすればいいけど。多分、今までのマイナスが0に戻っただけの段階でしょ。それが0のままか、これから+に傾いていくのか、傾いていったとしてくっつくほどの+になるかはまだこれからの話でしょ。あせって結論だすような話じゃないよ。無理に焦って結論出してもお互いのためになんないし」


 「なーる、さすが歴戦錬磨」


 「今、心に響くからやめてくんない・・・?」


 「また、喧嘩したんかお前・・・」


 「うっせ・・・」


 「・・・」


 「そういや、前聞き損ねたけど、なんで別れたの?」


 「・・・なんででしょ。限界が来たんだと思います。お互い。彼女は自分の感情がコントロールできなくなって、俺もそこから受けるものに耐えられなくなった。こういうのが続くんなら、お互いもう無理だなって」


 「あー、爆発してあたられたか・・・」


 「さやがよくやってるやつじゃん?」


 「今、ほんっっっと響くからやめて・・・」


 「おう、こりゃ、重症だな・・・」


 「いや、ほんと落ち着いた頃になにしてんだってなるけど、止められんのよ。もうその時は言わなきゃ仕様がないって感じになってんの。しかも気づいても怒り自体は解決してないから、なかなか仲直りできないし。まあ、その元彼女さんが同じかはわかんないけど」


 「・・・そうなんでしょうね、どうしたらいいんですかね?」


 「・・・私も知りたい、いやまあ、落ち着いた頃にできるだけ前向きに話すしかないんだけどね」


 「・・・・・なあ」


 「・・・・・なに?」


 「よくわかんねえけど、その彼氏さんはお前が爆発?してる時にどうしてんだ?」


 「・・・・黙って聞いてるけど?私が怒ると大体ね」


 「ザキは?」


 「・・・俺も似たような感じですかね。刺激しないほうがいいと思ってたので」


 「でも、ザキはそれ言われてつらかったんだろ?」


 「・・・・はい」


 「さやの彼氏さんは?」


 「まあ、言ったら言った分だけ機嫌悪くなるわね、直接は言ってこないけど」


 「で、またそれに腹が立つと」


 「よくわかってんじゃない・・・」


 「まあ、丸2年以上みてっからな」


 「で、それがどうしたのよ?」


 「いやあさ、それザキもその彼氏さんも言った方がいいんじゃね?じぶんが辛いってさ」


 「・・・なんで?」


 「だってよ、自分がつらいって思ってるのに黙ってんのは余計つらいぜ?しかもそれが見知らぬ奴だとかだったら適当に忘れられるけど、恋人だろ?そういう相手って、自分を一番、理解してほしいとか思うんじゃねえの?それなのに、理解されないのを放置して黙ってんのは、その場はよくても結果的につらいぜ、多分」


 「・・・突っ込むわけじゃないけどさ、余計に喧嘩になったらどうすんの、それ?」


 「それは男の伝え方と女側の心の広さの問題だろ。たとえ喧嘩になっても・・・まあ、それでも黙ってるよりはいいだろ、伝えることは伝えられたわけだしさ」


 「「・・・・・」」


 「・・・なんだよ、なんか言えよ」


 「・・・ちょっと待って。今、童貞がまともなこと言ってるのにショック受けてるから」


 「ひどくねえか!?素人童貞ですらなくなってるしよ!?」


 「そのみみっちい称号の差にこだわってっから彼女出来ないのよ」


 「うるせえ!」


 「・・・・まあ、っていうのが童貞からのアドバイスらしいけど、役に立った?」


 「ははは」


 「おい、ザキどういう笑いだそれ」


 「いや、なんていうか肩の力抜けました。そうですね、思ったことは言わないと、ですね」


 「お、いい顔」


 「俺らより、みはちゃんに聞いた方がいいかもな、こういうのは。現行で幸せそうだし」


 「・・・いえ、ここで話せてよかったですよ。みはさんにも、また暇そうだったら聞いてもらおうかな」


 「うん、それがいいね。色々話してみたらいいよ、きっといろんな考え方あるしねー。無理にモリ理論にのっからなくてもいいし」


 「・・・はい、ところでモリさんはそれだけ、しっかり考えててなんで彼女できないんですか?」


 「こいつの場合は自分のこと言いすぎるからじゃない?デリカシーないから」


 「うっせ・・・・」


 「・・・・・あ、そろそろ行ってきます」


 「おっけー、その子とまた会うの?」


 「・・・はい。飲みに誘われたので、その約束が」


 「ふうん、なんだか思ったより順風満帆じゃない、まあ気負いすぎないようにね」


 「がんばれよー」


 「頑張るかどうかをまだ決めかねてるって言ってたじゃん」


 「そっか、じゃあ、まあ無理すんなよー」


 「・・・はい、行ってきます」


 「「いってらー」」


 部室を出てしばらくして、スマホが鳴った。ゆうからだ。


 『早く着きすぎたから、先、お店入ってるよ』


 わかった、とメッセージを送り返す。久しく届いていなかったメッセージ欄がまた動き出す。


 この気持ちはどうなるのだろう。またゆうのことを好きになるのか、それとも友達として付き合っていくのか。


 わからない、先のことは。答えを出すことはまだ心が迷っている。


 でも、不思議と不安はない。別にそれでもいいのだと、例えつまづくことがあってもちゃんと言えばいいのだと。さっきまでのモリさんとさやさんとの会話がまだ頭に残っている。


 「まったく、うちのサークルは正直な人が多すぎるなあ」


 そう一人で呟いた。頬が少しほころんだ。


 大丈夫、大丈夫。


 前を向いた。ゆうが待つ店まで歩き出す。


 先のことはわからない、でもそれが今は少し楽しみだった。

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