第17話 - 病院

今日はサキュバス薬局に顔を出した


先日の魔闘祭での技術改善案やデータについて聞くためだ

アメリとアンバーはそれぞれ研究したり魔道具を開発したり自由にやっているが

街の人も増え、売り場や在庫管理などは何人か街の人を雇うようになっていた


薬局に入り、アメリとアンバーの行方について聞いた

職員からは研究室にいると聞いたが、職員の顔色が良くない


ちゃんと休んでいるのかと聞くと、ハイという

何かおかしい


俺は職員一人一人を見て回った

あわただしく常に動いており、ミスが目立つ

そのミスをカバーするためにまた動くのだ


これで一体いつ休むのか


しかしこれは倉庫の位置が悪かったり、街の規模に合わせて薬品の量が増え

管理や生成の手間が増えたことによる弊害だった


今までこの状態のままやってきたのか

一言言ってくれれば改善策を考え、実行できたのに


俺は倉庫の中に興味深い張り紙を見つけた

こう書いてある


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・心を捨てよ、折れる心が無ければ耐えられる

・上司の指示は神の指示

・苦労、苦痛は進化の条件

・疲れてきたらポーションでハッピー

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オイオイどこのブラック企業だ、まめいが見たら懐かしく思うのだろうか

ポーションでハッピーなんて絶対ダメな薬だろ


俺は開いた口がふさがらなかった


アメリとアンバーを呼び出し、小一時間ほど説教した

念のためアメリとアンバーの言い分も聞いてやろう


アメリとアンバーが必死で言い訳をする


「いや元が魔物なんでやっぱり...ホラ、さぼるんですよ」


働いてる人は亜人の方が多いだろ


「ちゃんとお給料は払ってるんですよ!」


何言ってるんだ当たり前だろコイツもハッピーなのか?


「疲れた社員にはポーションを与えて労ってるんです!」


そうだね疲れてる時は判断力鈍るからありがたく感じる、割と効く


...


ハッピーになるポーションは労いだった事に最も衝撃を受けた


元の世界で、徹夜が続く状況になると栄養剤が差し入れされた記憶が蘇る

どこに行っても皆考えることは同じなのだろうか...


とはいえ、作業しやすい環境など作るべき俺が視察を怠っていたのも原因のひとつだろう


「ぐぅぅ...お前たちの言い分はわかった、わかったけどダメだ」

「今後俺が就業の規則を決める、必ず守るように」


アメリとアンバーはちいさく「はぁい」と返事をしてうつむいた


これから街の人が増える事も考えるともう薬局では捌ききれないだろう

俺は病院を建設する事にした


薬品はそれなりの在庫があるのでその間は生産量を落とし

各種薬品の生産レシピの作成

ミスを少なくするための魔道具を作成し自動化を進めさせる


アメリとアンバーでなくても調合できるように


さらに在庫管理をするための魔道具と記録媒体の作成を指示した


コンビニでピッてするあの機械みたいなイメージだ


さらに、就業時間は3交代でそれぞれ最大8時間の労働

やりきれない仕事を管理し、長期的に解消するためのスケジュールを検討させる事にした


そして、人材こそが最も価値があることを説いた

ある程度レシピ化や自動化がすすめられるところは進めよう

だが、レシピを考案、自動化を進める事も、能率を考え改善することも

ぜんぶ、人がやらねばらないのだ、決まった作業を自動化することはできても

自動化する手順は場所によってさまざまだ、それらを考えられるのは人

また、経験が蓄積するのも人なのだ


その他、簡単な販売だけならゴーレムへ任せるよう指示

3交代もいずれ早朝と深夜はゴーレムに任せるようにしたい


ゴーレムの開発機関も設置しなければ


しかし、心配だ

この問題、あらゆる場所で起きていそうだ

また、ゴーレムの動力源や魔道具による自動化にも魔石を使う

魔石の採掘量の確保、または魔石を作り出す技術を視野に入れなけれならない


やることが一気に増えた、まずは病院からだ!


病院の設置は患者の容体によっては移動距離が問題になる

そのため研究室と薬品倉庫、そして民家などから近くなるように配置したい


民家区域の一部を改造する計画も進めなければならないな

それに収容人数も問題だ


今は病院がないので治療は各々家で行っているはず

いわゆる家庭療法で何とかしている状態だ

医師も当然いない


この世界には魔法や即効性のポーションなどがあるため医師というものがそれほど必要ない

それでも重症患者はいるし、すべて一瞬で治るわけでもない


職業としての医師を設置し、医療技術のノウハウも蓄積していかなければ


俺は街を全体的に広げ、中央に近い場所へ病院を設置する計画を進めた



冬が来る頃、街はかなり様変わりした

長の家を中心に

北側は牧場

北東に新たに貯水池を設置

東側から南まで全てを住宅地へ改装

その中心くらいに大きな病院を設置、研究施設なども含まれる


南西には宿屋、酒場、武器防具屋、各種道具屋など商業区域に

西側は空港を設置、地下には新しい冷凍、冷蔵室も作った

北西には戦士ギルドと訓練場、簡単な医療施設も設置


たった半年ほどでこれほどの事業を完遂させられるとは、魔法の力は偉大だ


その他、南側にある地下の冷凍、冷蔵室は非戦闘員用のシェルターにした

街が襲われた場合の避難所だ


長の家も非常に大きくなり、石造りとなったうえ、石の壁も外壁とは別に設置された


そして農園は北の外壁外を開拓し、大きく広げられた

病院はすさまじく好評で住民たちの健康状態はすこぶる良好になった

街の外からも病院の噂を聞きつけやってくるほどに


だが医師がいない、俺は心当たりがないか、最も知識がありそうなティルに聞いた


「ティル、病院に医師を配置したいんだが、心当たりはないか?」


ティルは少し悩んだ


「そうですねぇ、そもそも魔物や魔族に治療と言う概念がないので、街の人には難しそうですね、うーん」

「街の外の人間でも構わない、十分な対価を用意するよ」


ティルは腕を組んで考える


「そうですねぇ...あ、そうだ!竜ですけれど、心当たりがあります」


竜か、なるほど確かに長命な竜なら十分な知識がありそうだ


「ぜひ会いたい、どこにいるんだ?」


ティルはまた悩み始めた


「それが、ちょっと遠いです、それと人間が会えるところでもないですね」

「どういうことだ?」

「海竜なんですよ、南のずーっと遠い海の深いところに住んでいます」

「なるほど...ティルなら会えるのか?」

「私も難しいですね、潜っていける深さでもないですし、住処もわからないんです」


うーむ、手がかりは掴めたけれどそれではどうしようもないな

だが面識があるという事はあったことはあるはずだ


「ティルは会ったことがあるのか?」

「はい、お父様とお話しているときにご挨拶しました」


それだ!フリートを頼ってみよう


「ティル、フリートと会いたい、フリートなら知っているかもしれない」

「たしかに!そうですね、お父様に聞いてみましょう」


俺とティルはすぐに準備し、ティルに乗せてもらい、フリートの住処へ向かった


…竜王の住処...


住処につくと、ルドルフが迎えてくれた


「玄人さま、お嬢さま、いらっしゃいませ」

「ルドルフも元気そうだね」


ルドルフは恥ずかしそうに返答した


「おかげさまで、ダイバーツリーの料理、お酒のおかげで少し太りました」

「気に入ってもらえたようで何よりだ、食べ過ぎには注意してくれよ」

「お気遣いありがとうございます」


ティルが話し始めた


「ルドルフ、今日はお父様に用があるの、お父様はいらっしゃる?」

「はい、広間にてお待ちしております」


俺とティルは広間へ案内してもらった

広間にはフリートとテオがお茶を楽しみながら会話をしている


フリートがこちらに気づき、話しをした


「玄人、久しぶりだな」

「フリートもお変わりなく、食べ過ぎには注意してください」


フリートはすこしたじろいだ


「う、なぜ知っている」

「ルドルフが太ったと言っていたので」

「む、気を付けよう...」


テオはフリートの様子を見て微笑みながら質問してきた


「今日はどうしたのかしら?竜に用事があるのでしょう」

「はい、街に病院というものを設けまして、医術に精通したものを探しております」


ティルが話し始めた


「お父様、クラピウスさまにお会いしたいの」

「おお、あやつか、しばらく会っておらんな」


フリートは奥の間へ向かいながら話した


「ちょっと待っておれ」



フリートが戻ってきた

手には小さな魔石を持っている

フリートはおもむろに広間の中央へ魔石を投げ、水の魔術で魔石を包み込んだ


「距離をとれ、あやつを呼ぶ」


しばらくすると水の体積が広間を覆いつくさんばかりに膨れ上がる

水の中に大きな魔法陣のようなものが現れ、ボコボコと空気の泡があふれ出す

すると、水の中にイルカのヒレのような翼をもつ竜が現れた


竜はフリートの姿に気が付くと、水の中でくるりと一周し、水が竜に吸収されていく

水が消える頃、光に包まれ、人の姿をした男が現れた

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