第13話 - 防備

オーク達の襲撃から数日たった


鬼人族 15人

ダイアウルフ 8匹

リザードマン 6体

アラクネの子供 20匹

猫の獣人 1人

その他役畜 10匹


かなり大きな被害だった

村人が半数近く減り、畑も大部分が燃えた


損傷した場所は残った村人たちが現在も修復中だ

俺は途方に暮れ、自分で焼き尽くした森をみながら呆けていた


まめいが見かねて近寄ってくる


「玄人、悲しいな」


俺は返事する気力さえわかない


「...」

「元気出してくれ玄人、玄人がそんなんじゃみんな不安になる、あたしも不安だよ...」

「...」

「なぁ、どっかいったりしないよな?みんな玄人が頼りなんだ」

「...俺は...守れてないだろ...」

「守ったよぉ!生き残った人達だっているだろぉ!」

「...みんな...死んだ...」

「まだ生きてるって言ってんだろ!」


まめいが声を荒げたのは初めてかもしれない

俺はうつむいた


「なぁ、これからどうしたらいい?みんな復旧しようとしてるけど

復旧しても前と同じだ、また襲われたら今度こそ全滅しちゃう」


ミミやアメリも近寄ってきた

言葉をかけようにもかけられず、沈黙が続く


「なぁ!なんか言ってよぉ!!!」


まめいが俺をゆさぶり、泣きながら叫びだした

まめいが泣くなんて事あっただろうか


「このままどっか行っちゃいそうでやだよ...おいてかないで...」


彼女の不安や悲しみが伝わってくる

俺はいつの間にか涙を流していた


「すまん...」


まめいは半狂乱になりながらわめきはじめた


「そういうのやめろぉ!!お願いだからここにいて!!!おいてかないで!!!

みんなまだ生きてるだろ...おいてかれたら...あたし...うあぁぁぁぁぁ」


ミミとアメリが静かに側に座る

何も口にすることはないが、うつむいている


まめいの泣き声を聞いたアヌビスとダイアウルフたちが寄ってきて、俺を囲む

アヌビスが側に来て、話し始めた


「玄人、まめいを泣かせるな、あれからずっと寝てないんだ」


まめいの顔を見ると、ひどいクマがある

急に申し訳ない気持ちでいっぱいになり

自分だけが悲しい思いをしているかのような振舞いが恥ずかしくなった


どうしたらいいかわからないが、手を、頭にのせ、なでてあげた


「ごめん、どこにもいかない」


俺がそうつぶやくと、まめいは泣くのをこらえ、くしゃくしゃになりながら顔を伏せた


俺は前を向いて現状を整理し始めた


結果的に守りたかった人たちの半数を失ったが、まだ村はある

俺が言い出したにも関わらず、情けない姿を見せてしまった

そのせいで不安を煽り、よけい悲しませてしまっている


立ち直らなければ、俺が交易をすると決めたから物資が貯まった

そのせいで物資を狙った襲撃が起きたんだ

このまま放り出すわけには行かない


「ごめんよ、もう大丈夫だ、やり直そう」


誰も返事はしなかったが、みんな顔を上げ、俺を見ているのがわかる

もっと強くならなければ



春が来た、村の修復は終わり、みんな元気を取り戻しつつある

家族を失った人たちもお互いを支えながら暮らしている


ダンジョンへの狩りや畑の種まきなども再開され、また新しい一年が始まった


俺は村の北側を開拓し、訓練場を設けそこでみんなから得た力を制御すべく

日々訓練に励んでいた


アメリが常に俺を指導してくれるおかげで魔術に関する知識と能力は各段に向上した


魔力は体外から少しずつ吸収し、体内へ貯める

魔術を発現する時は体内、体外の魔力を利用し発現する


使用する魔術の規模に合わせて、体外から集められない分を体内の魔力から補填する

そして発現するときは魔術の起動のトリガーとして体内の魔力を使いイメージしたものを発現させるらしい


体から魔力を押し出す分には狙ったところへ魔力を押し出すイメージで飛ばせばいいが


一度放出したものをコントロールするには莫大な魔力を消費する

なので軌道を最初からイメージして放つ、などコツがいろいろあるようだ


魔力の容量は鍛える方法があるにはあるが俺は継承以外で成長することができないのでそのあたりは割愛した


....


村はというと、森で取れる豊富な木材を利用して外壁を作り

掘りを作って砦になっていた


ただ、外敵に襲われてからでは被害を受けることは避けられない

村の外をよく観察し、脅威になりそうな場所をあらかじめ知っておくことで

交渉などの対策をとる、という方針に切り替えている


以前村を襲ったオーク達はというと、一時的に数は減ったものの着実に増えているらしい


俺は戦う力のなかった頃とはもう違う

拠点が近い他種族の魔物で会話が成り立たないものたちを殲滅する方針を示した


これに反対する意見はなく、魔物らしく士気が高まったが、今回はアヌビスと俺と二人で行くことにした


オーク達は一度数を減らしたこともあって俺とアヌビスなら十分に殲滅できる数であろうと踏んだのだ


鬼人族なんかはものすごく残念そうにしていたが、子供たちもまだ小さい

衝突すれば無傷というわけにはいかないので今は大事をとってもらった


拠点が近く、集落をもつ敵対勢力はこの森だとオークだけなのでこれを殲滅すれば当面はこの森で村を襲うような連中はいないだろう


オークの拠点はどこにあるかわかっている、サキュバスたちに空から偵察してもらい

見える範囲で30ほどの成体が確認できた

拠点の周りは木の杭で壁が作られており、堀などはない

原始的な生活をしており、飛び道具は投石くらいだ

ただし、オークのシャーマンなどは魔術が使える、これらは見つけ次第排除しなければ仲間の強化や治療などをする可能性がある


夜を待って夜襲をしかけようかとも思ったが、周辺の魔物への威嚇も兼ね

昼間堂々と正面から殲滅することになった



俺たちは堂々と正面の入り口へ向かった


オークの門番が警戒している


「ニンゲンがわざわざ来るとは珍しい、こっちへ来い、肉にしてやる」


そういうとオークは無防備に歩きながら間を詰めてくる

俺は反論した


「この集落を滅ぼしに来た、全員呼んで来い」


オークは話しが通じる事に驚いたが、笑いながら歩いてくる


「珍しいニンゲンだなぁ、俺たちの言葉がわかるのかぁ?」


アヌビスが鼻で笑い、尻尾を一振りすると、風の刃がオークの首を落とした

オーク達が集まるよう、俺は木杭の外壁に火をつけ、燃え広がるまで観察した


しばらくすると、中から騒ぎ声が聞こえ始め、オーク達がわらわらと集まりだした

5匹ほど集まっただろうか


俺は左手をかざし、重力魔術でオーク達を動けなくなるよう、圧力をかけた


「アヌビス」


そう声をかけるとアヌビスは尻尾を振り始めた

アヌビスが尻尾を振るたび、一匹、また一匹とオークが二つに分かれていく


5匹全員が二つになったのを見届けてから、門の中へ歩いて入る

すると既にオークの呪術師が詠唱を始めており、広く囲むように展開しているオーク達が一斉に飛び掛かってきた


「おっと、オークも頭を使うんだな」

「そうだね、集団で行動する魔物だし、それくらいの知能はあるんじゃないかな」


かるくあしらいながら一人一人片付けていると、オークの呪術師の詠唱が終わり

オーク達が強化されたのか、狂暴さを増したように見えた


勢いを増したオークが力任せに手に持ったこん棒で殴りかかってくる

俺とアヌビスは注意深く観察しながらその場を飛びのき、攻撃をかわした

オークの攻撃は大地を叩き、大きな音を鳴らす


「何の防御もせずくらったら痛そうだ」

「骨折しちゃうかもね、当たったら」


オーク程度では俺とアヌビスを止めることはできなくなっていた

散らばっているため一気に殲滅するのは難しいが

一匹ずつ丁寧に処理していく


大方片付いたろうか、残りはもうあと5匹ほどである

急に逃げ腰になり始めたオーク達は拠点の奥にある洞窟に逃げ込む


俺たちは殲滅するつもりできたので後を追いかけることにした

入り口に差し掛かったころ、中からオークの叫び声が聞こえる

さらに、女の悲鳴が聞こえ始めた


「しまった!オークは他種族の女を攫う、人質がいるかもしれない」


アヌビスと顔を見合わせ、急いで突入した

洞窟を進むと大きな広間に出た、先ほど逃げ込んだオーク達がみんな潰れている


見渡すと先ほどまでのオーク達より二回りも大きいようなオークが暴れていた

女たちの悲鳴は人質にされたのかと思ったが違う、虐殺している


この集落の長だろうか、叫びながら牢に入れた女たちを牢ごと潰して回っている


「弱いやつらは死ね!お前たちでは強いオークが生まれない!」


狂っている、部下に八つ当たりどころか身重な女たちまで殺している

俺は声を張り上げ、オークの長へ攻撃をした


「お前...!!楽に死ねると思うな!」


俺は左手をオークの手にかざし、濃縮された重力魔術を使用した

オークの左腕は潰れ、オークの長が叫び声をあげる


「ぐううぅぅ、貴様が来なければ...」

「お前たちが冬に俺たちの村を攻撃さえしなければもう少し長生きできたかもな」


右手、左足、右足と順に同じ魔術で潰していく

そのたびにオークの長は悲鳴をあげた


「うぅぅ」


オークはもう抵抗を諦め、死を待っている

これ以上痛めつけたところで面白くもないが、捕まっている女たちの無念を晴らすべく、死なない程度に加減しながら、攻撃を加え続けた

とうとうオークの心が折れ、助けを求め始める


「もう、無理だ...一思いにやってくれ...」


俺は女たちへ目を向けた

女たちは目に涙を浮かべながらもオークを睨み続けている者もいれば

耳をふさぎ、震えているものもいた


いくらか気は晴れただろうか、そろそろ終わりにしよう

残った頭を重力魔術で潰し、女たちを牢から解放してやった


俺たちを生贄にした村の連中がいるかと思ったが、人間の女はいなかった


「これで全部か?他に捕まっているところはないか?」


女たちに聞くと、これで全部という事だった

エルフ6人

ドライアド8人

狼の獣人4人


オークより強そうなものもいる

そのためかオークとの交配はしていないようだ

交配が終わった者たちが先ほど殺されていたらしい


「みんな帰るところはあるのか?」


女たちは一様に首を横に振り、うつむいてしまった

オークが女以外を生かしておくわけがない、みんな大切な人たちを失ったりしているだろう

村で保護し、定住するか、同種の村へ帰るか、選択させよう


俺は村に来るように提案した


「帰るところがないなら、俺たちの村へくるといい、労働はしてもらうけど」


女たちは二つ返事で承諾した


これでもうこの森での危険は無いと思いたい

死んだ仲間たちのおかげで成し遂げられたが、今以上に強大な敵に備える必要はまだある

村が大きくなるほどに、より大きな勢力に目を付けられるのだ

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