第17話 虚像は銀光を助けたい

「本当に今から行くのかよ!」


 黙々と支度をするロキに、ダリアは慌てて問いかけた。

 このままでは、あっという間に出発してしまいそうな勢いだが、既に窓の外は暗い。


 ―――何も、こんな夜に行かなくても……


 そう考えたダリアに、ロキは「セルディナ様を悲しませたくはありませんから」と答えた。


「セナ?何でセナが悲しむことになるんだ?」

「……魔物が死ぬところを、セナ様に見せたくありません。生存率を少しでも上げる為には、直ぐに出発する方が正解かと」

「何言ってんだ?その言い方だと、まるでセナが一緒に来るような……」

「セルディナ様は付いてきますよ。セルディナ様ですから」

「……は?」


貴族の女が、魔物を救うために自分で行動を起こす???

ダリアには信じられない事だったが、ロキの視線の先には、確かにブーツに履き替えているセルディナの姿があった。


「アンタ、じゃなくて、セナ!一緒に行く気か!?」

「そうよ。さっきからそう言っているじゃない。ダリア、ちゃんと聞いていた?」


 「もう、ダリアったら」と、セルディナは当たり前のような顔をしている。ダリアは自分の考えがおかしいのかと、一瞬悩んでしまったが、明らかにおかしいのはセルディナの方だろう。

 だって魔物は、人間じゃないのだから。その命は無くなったところで、誰も気にはしないのだから。


「さぁ、ダリアの友達を助けに行きましょう!!」


 ……誰も気にしない、筈なのだから。










「セルディナ・マクバーレンが命じます。自由に魔法を使って良いわ。ロキ、お願い出来る?」

「セルディナ様のお心のままに」


 セルディナのドレスを軽装に変えて、ロキは何やら荷物の詰まった鞄を背負って、ついでにダリアは外套を被せられて。やけに手馴れた外出準備に、「あ、こいつら普段から外出したりしてんだろうな」とダリアが考える余裕があったのはそこまでだった。


……何故なら、ひょい、とロキがダリアの事を抱え上げたから。


「へっ??」

「……口を開いたら舌を噛みますから、気を付けて下さい」

「は??何を言って、ぇぇぇぇえええ!!?」


 ロキは、ダリアと同じようにセルディナも抱え上げて……いや、一緒ではなかった。セルディナは右手の腕に座らせるような形で抱えているのに対して、ダリアは左手で、荷物でも抱える様な形になっていた。

 その状態のまま、ロキはセルディナの部屋の窓から飛び降りた。セルディナの部屋が二階にあったと知らなかったダリアは、不意に訪れた落下の浮遊感に、口を閉じる事なんて忘れてしまって……


「<爆発魔法>」


 ……地面に激突すると思った瞬間、ロキの足元が爆発をして、落下速度が緩まる。そのままストンと、ロキは着地をしたのだが。


「い、痛ってえ…」


 ダリアは見事に、舌を噛んでしまっていた。


「……舌を噛むと言いましたよね?」

「言うのが遅いんだよ!!」


 呆れるようなロキだが、多分悪いのはロキの方だ。


「もう、二人とも喧嘩しないの」

「申し訳ありません、セルディナ様」


 セルディナに叱られて直ぐに謝ったロキだったが、その瞳に全く反省の色はない。


「セルディナ様、明日はマクバーレン公爵からの呼び出しが入っていましたよね」

「そうね。最悪忘れていたことにしても良いけれど……」

「いえ、明日の九時までには帰宅します。ダリアさん、少し急がせて頂きますので、#今度は__・__#舌を噛まないで下さいね」


 にっこりと笑って、ロキは言う。ダリアは「こいつ、性格がひん曲がってやがる!」と考えて、頬を引きつらせたけれど……


「<爆発魔法>」


 ……第二射が始まった事で、慌てて口を閉じた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る