第5話 夜王子と月の姫
「お、俺は遠藤和人。一応ギターやってる。よろしく」
「こちらこそ、初めてで分かんないことばっかりだけど、色々教えてね!遠藤君!」
うあああああ、可愛いいいいいいい!
「お、おう、何でも聞いてよ」
よし、第一印象はいいはずだ。まあクラスで認知されてればもっと違ったかもしれないけど、こっからがスタートだ。さて、まずどうしようか……と俺が悩んでいると、村田姉が早速提案してきた。
「カスミがまだ来てないけど、これで大体バンドメンバー揃ったね。じゃあ、まず何から決めよっか。バンド名?方向性?うーん……」
「あ、あの」
勇気を振り絞って俺が提案してみる。
「バンド名は取り合えず置いといて、何かのコピーから入った方がいいんじゃないですか?」
そう、いきなりバンド名決めて、オリジナル作って、デモテープ取って、レコード会社に送ってとか、それは敷居が高すぎる。まずはコピーで慣らしていくのが王道だ。そっからカバーに行ったり、オリジナルを作ったりすればいい。
「そうね……コピーか……あんま面白くないけど、バンドの結束力を高めるには必要な段階ね。じゃあ、何のコピーにする?遠藤どんなの弾ける?」
「俺は……パンク、メロコア系なら大体……」
ぼっちな俺は家でしこしことギターを弾いていた。そんな経験も生きるもんだな。色々コピーはした。昼に弾いたハイスタからブラフマン、エルレガーデン、WANIMA……古いとこならブルーハーツとか。あっブルーハーツ!
「あっあの、ブルーハーツどうですか?簡単だし、メッセージ性強いし、最初には持ってこいだと思うんですけど」
「ブルハか。まあ確かに日本のパンクシーン、いや音楽シーンを語るにあたって外せないバンドよね。でも、ボーカルが紗奈だしなあ……もっと紗奈のいいとこ出してあげたいな」
紗奈さんのいいとこなんて、道を歩いてても出とるわ!と言いたいがそこは我慢。確かにバンドはボーカルで印象が大分変わる。やったことないけど、見てきたことはかなりある。後ろの楽器隊が幾ら上手くても、ボーカルが光ってないと、中々見てる方には届かない。それは聞く方が素人であればある程その傾向にある。でもいいと思うんだけどな、紗奈さんのブルーハーツ。可愛いし。あっ。
「だったら女性ボーカルのバンドにしますか?チャットモンチーとか、SISHAMOとか色々いますよね。可愛さ押しなら、古いけどジュディマリとかお勧めですよ」
って俺は話の流れとはいえ、紗奈さんが可愛いと言ったことに気付き赤面してしまう。
「ジュディマリいいかもね。曲調もパンクっぽいし嫌いじゃないよ。でもなあ……うーん……」
こういうときって中々結論出ないもんなんだな。だからバンマスが必要になるのか。
「よし!決めた!銀杏BOYZにしよう!」
ぶーっ!と吹き出しそうになった。よ、よりによって銀杏BOYZ!?あの人間の汚い部分と綺麗な部分をごちゃまぜにして振るいにかけて、そっから油で揚げたような音楽を!?そりゃあ俺は好きだけど……
「ぎ、銀杏っすか。そりゃあまた刺激強めというか、コーラメントス位激しいというか……」
「勿論根拠はあるわよ。この前YUOTUBEを見てたら、アイドルが銀杏BOYZの曲をカバーしてたの。「夜王子と月の姫」って曲。これが結構良かったのよ」
その曲なら俺も知ってる。っていうか銀杏はほぼ全曲知ってるし、弾ける。でもアイドルがカバーしてるとは知らなかった。アイドルといえば、そりゃあ紗奈さんはアイドル並みの見た目だ。ふむ。「夜王子と月の姫」か。あの曲なら確かに銀杏の綺麗な部分が出てる曲だし、いいかもしれない。
「意外にいいかもしれないっすね。その選曲」
「でしょ?まどかはどう思う?」
「あたしも見たよその動画。中々いいんじゃない?紗奈ちゃんが歌ったらはまると思うよ」
「よし!決まり!我がバンドの一曲目は銀杏BOYZ!勿論弾けるよね?遠藤?」
「銀杏は大体全曲いけます」
「よっしゃ決まり!ってもまだカスミが来てないか。でもこれで行こう!紗奈!練習するわよ!」
「お、お姉ちゃん……私その曲知らないんだけど……」
「覚えればいいのよ。簡単なことじゃない。それに……きっと気に入ると思う」
「まあ、お姉ちゃんがそう言うなら……」
「よし。じゃあまず曲を皆で聞いてみよう。私のスマホに入ってるから、皆こっち来て」
俺たちは加奈さんのところに集まる。うおおおお、紗奈さんとちけえええ!マジで生きてて良かった!
加奈さんはスマホでアイドルがカバーした「夜王子と月の姫」を掛けた。最初俺は紗奈さんしか目がいってなかったが、聞いている内に楽曲に引き込まれた。……めっちゃいいカバーだ、これ。
曲が流れ終わって、加奈さんが周りに感想を求めてきた。
「どう?よくない?」
「めっちゃいいっす!俺銀杏好きで聞いてましたけど、これはマジでいいカバーです!」
「でしょ?まどかは?」
「遠藤君と同感。やっぱりいいよこれ」
「紗奈は?……紗奈?」
紗奈さんの返事がないと思ったら、紗奈さんは……泣いていた。
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