026 巨大ミミズの視察

 龍斗と仁美を乗せたヘリが鳥取砂丘の手前に着陸する。


「我々は上空から撮影しますので、戦闘を始める前に合図してください」


 不動産会社の撮影クルーの一人が言った。ギルドで受けるクエストとは違い、彼らの観ている中で倒す必要がある。


「で、龍斗、これからどうするの?」


「とりあえず仁美にコイツの操縦をマスターしてもらわないとな」


 龍斗は目の前にある砂漠用のジェットボートを指した。


 小さなクルーザーにも見えるそれは、世界最速のスピードで砂漠を駆け抜けることが可能だ。操縦席の後方には四人掛けの座席があるのだが、今は取っ払われており空きスペースとなっている。龍斗の要望によるものだ。


「あと敵も見ておきたいし、ちょっと挨拶に行こうぜ」


「挨拶に行くだけのつもりが死なないでしょうね?」


「それは運転する仁美の腕次第さ」


「ジェットボートの運転なんて経験ないのに……終わったなぁ、これ」


 仁美は観念して操縦席に座る。


 龍斗はひとまず助手席に座った。戦闘の時は後方の空きスペースに仁王立ちする予定だ。


「じゃ、行くよ!」


「おう」


 仁美はボートのエンジンをかけると、無人の砂丘を走り始めた。


 ボートはブォォォンと激しい音を立てながら、砂の上を凄まじい速度で駆け抜けていく。


 そのまましばらく走り、砂丘のど真ん中に差し掛かった頃。


「「来る!」」


 龍斗と仁美は同時に反応した。ボートの走行によるものとは違う種類の揺れを感じ取ったからだ。


「グォオオオオオオオオオオ!」


 次の瞬間、後方の砂中からとんでもなく大きなミミズが姿を現した。二人がこれまで見てきた全ての魔物を足しても足りないくらいのサイズだ。先端部の巨大な口は、一息で数百の人間を丸呑みにできるだろう。


 鳥取砂丘の王――ジャイアントサンドワームだ。


「いやぁああああ食われるぅううううう!」


 全力で逃げる仁美。


「グォオオオオオオオオオオ!」


 波打つようにぐねぐねと砂に潜ったり出たりを繰り返しながら追いかけてくるとんでもサイズの巨大ミミズ。


「まるで横向きの高層マンションが追いかけてきているみたいだなぁ」


 龍斗は呑気なものだった。


「ちょっとなんでそんな冷静でいられるの!?」


「だって俺は仁美を信じているからな」


「なっ……!」


「それに仁美の運転で駄目なら諦めもつくというものだ」


 仁美は頬を赤くして固まったあと、顔をぶんぶん振った。


「私は死にたくないんだぁあああああああ!」


 二人を乗せたジェットボートは、どうにか砂丘からの離脱に成功した。


 サンドワームは追いかけるのをやめて戻っていく。縄張りからは絶対に出てこない。


「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」


 ボートから降りて呼吸を整える仁美。


「大丈夫ですか? やはり挑むのはやめておきますか?」


 撮影クルーが「最初から無理に決まってたんだよ、こんなところまで連れ出しやがってボケが」と言いたげな顔で近づいてきた。いや、そんな顔をしているというよりも、先ほどまで口に出してそう言っていた。


「流石に無理だよね、あれは」


 そう言って恐る恐ると龍斗の顔を見る仁美。


 そして、彼女は絶望した。


「あれなら倒せそうだな。よし、倒そう」


 龍斗は迷うことなく戦うことを選んだのだ。


 仁美は「嘘でしょ……」と真っ青な顔で呟いた。

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