第2話ライザー

 巻き起こった衝撃に思わず少女達は手で顔を守る。ベノムは近距離だったために再び弾き飛ばされていた。

 そして、煙が晴れた先に立っていたのは漆黒の鎧と兜に身を包んだ西洋風の騎士だった。腰には先ほど握っていた剣が帯剣されており、その鞘までもが黒に染まっていた。


「だから言ったろ。戦う力ならあるんだよ。むしろライザーですらねぇお前らが体を張ってベノムと戦おうとしている方が間違ってんの」


 ゆっくりと赤・青・黄のスーツに身を包んだ少女の方を向き、黒の騎士は言葉を続ける。その声はヘルメットをかぶっていた時と同様に、くぐもっていて聞き取り辛い。


「正規のライザー!? 日本のライザーは全滅したって、政府の人たちは言ってたのに……」

「それもそうなのだけれど、それよりもこの声どこかで……」

「どうでもいいだろ、俺にだって事情ってもんがあるんだよ。それより1年間お疲れさんだったな。これからは俺が日本のベノムは殺し尽くす」


 そう言い切ると、黒の騎士はベノムの方に向かって走り出す。ベノムも立ち上がり、黒の騎士に狙いを定め、長く鋭い爪を振るう。


「ヴァギャァァァァァアァァァァ!!!!」

「喧しいわ」


 騎士は姿勢を低くし、腰の剣に手をかける。そして、そのままベノムの爪を下から切り上げた。

 激しい衝突を予想したベノムは爪を振り下ろす速度を早めようと、腕に力を込めるが、衝突の手応えがないことに気がつく。

 あるはずの腕がそこにない。


「ギッ!? グェアァァァァァァァァァァ!???」


 理解ができないといった様子で、痛みに苦しみ叫び声を上げる。それをつまらなさそうに黒の騎士は見つめ、その隙だらけの首元に剣を振るった。


「喧しいって言ったろ」


 ザンッという音とともに呆気なく異形の怪物は息絶えた。











 目の前の光景が少女達には信じられなかった。異形の怪物、地球のウイルスとも言えるベノムが呆気なく殺された。自分たちがいつも命がけで戦っている相手に対して余りにも一方的だ。

 あのベノムはおそらくだが、腕を切り落とされたことにすら気がついておらず、理解した瞬間にはもう首は落とされていたのだろう。

 刀ではあるが、同じく刀剣を扱う赤の少女はその凄まじい斬撃のスピードにゴクリと生唾を飲み込む。


「何で……今まで戦わなかったんですか?」


 黄色の少女は思わず浮かんだ疑問を投げかける。ベノムが現れたのは今から2年前だ。そして、その少し後にライザー達は現れ、多くのライザーが死んでいった。今、生き残っているライザー達は殆どが各国政府の管轄に置かれているのだ。なぜ、見ず知らずのライザーが今になって現れたのだろうか。


「何度も言わせんなよ。俺には俺の事情があるんだ。それにユニオンナイトだっけ? お前ら政府の設立した分隊みてぇなもんなら、俺のこと知らねぇのか?」

「……申し訳ないけど、知らないわ。もしかして、以前は政府の管轄下のライザーだったのかしら?」


 青の少女のその返答に黒の騎士は頭をガシガシと兜越しに掻きながら嘆息する。


「まぁ、そういうこともあるのか? 今みたいにライザーがメディアに出てなかったしな……。いや、でも戦う奴らには以前戦ってたライザーの情報は共有しとけよ……」


 俯きながらぶつぶつと兜の中で呟く騎士の言葉は少女達には届かない。その後、騎士は顔を上げて少女達の方を指差しながら告げる。


「あれだ、園田って奴を知ってたら俺のことはそいつに聞け。以前は5thだなんて呼ばれたライザーだよ」


 そして、騎士はバイクに跨り、そのままエンジンをかける。どうやらバイクもライザーの影響下にあるらしく、黒のネイキッドバイクも装甲のようなものが付き、ナンバープレートも消えていた。


「ちょっと待ってよね! もう少しくらい話を聞かせてよ!!」


 そんな赤の少女の制止も聞かず、そのまま騎士は走り去る。


「な、何だったんでしょう……」

「分からないわ。でも、園田司令官が知ってるということはやはり以前の日本のライザーなんでしょうね……」


 少女達は混乱したまま、その場に取り残された。


「とりあえず撤収だよね。処理班の人たちに修繕とかもお願いの連絡をしなきゃ」

「そうですね……。その後に司令部で5thさんのことについて司令官さんからお聞きしないと」


 少女達がユニオンナイトとして戦い始めて1年。想定外の何かが動き出したことを彼女達は肌で感じていた。


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