オレは悪魔だぜ

木村直輝

 おっ……?

 どうした?

 道にでも迷ったか?

 いや、なに。こんなところに人が来るなんて珍しいからなぁ。道に迷ったのかと思ってよぉ。まあ、人生。色々あるわな。

 昔会った詩人が言ってたよ。人生ってぇのは本当は一本道の迷宮なんだとさ。でもその壁を人は知らず知らず勝手にぶち抜けて迷路に迷っちまうんだとさ。

 はっ。さっぱりわかんねぇよな。……とぉ、話がずれちまったなぁ。

 で、アンタはどうしたんだ。迷ってここに来ちまった口か。ハッ、まあなんでもいいさ。なあ、アンタ。アンタ、ちょっくらオレの話に付き合わねぇか。

 いや、ここで会ったのも何かの縁ってやつだろう? このまますぐ引き返しちまうってぇならオレは引き止めやしないけどよ。せっかく来たんだ。ちったぁゆっくりしていけよ。

 魂だけでもよ、ここに来たんだからさ。

 なぁ、ちょうど昔のことを思い出してたんだ。オレはよぉ。誰かと話したい気分だったのさ。いや、誰かに話したい気分だったのさ。なぁに、昔の話をよぉ。そこにアンタがやって来た、ってぇんだから、こりゃあそういうことだろぉ?

 なぁ? そう思わねぇか。

 まあ、酒の一つも出せやしないが、どうせ出したって飲めないだろう?

 魂だけなんだからさ、アンタ。

 ハッ、まあいいさ。なぁ、いいだろう? まあ、オレは勝手に話し始めるからよぉ。聞きたきゃ聞いてくれ。そうじゃなきゃ帰りゃぁいい。

 聞く準備はできたかい。さぁ、話し始めるぜ?

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