44日目 昼

今回はいつもより早く日記に手をつけた。いやまあ、毎日書けってのはそうなんだけど、書くことが思いつかなかったりして、大体は何か一区切りついた後に書くことになっている。


 アタシ達は順調に峡湾を攻略した。探索を始めてから数日後に主であるラグナカングに遭遇した時は焦ったが、今のアタシ達の敵ではなかった。6人もいれば、先制して一気に倒してしまうことは簡単なのだ。実際、アタシはラグナカング戦では何もしなかった。うん、本当に何もしてない。


 久々にまともに拳を振るった相手は、魔域の中の敵だった。守人タウトゥミの姉、チュミエが差し向けた警備魔動機を、アタシは存分に殴りつけ、完膚無きまでに破壊した。しかし、どこの世界に食事会に誘おうとしている弟に向かってディマテラビァとスタースナイパーを差し向ける姉がいるのだろうか。いや、魔域の中だから、実際の歴史とは違うのかもしれないけども。


 そして、アタシはついに、ここに来た目的だった少女、ヴィルマ・リオッサを救出した。彼女は魔神の生け贄にされかけたところを奴隷商に売られ、その奴隷商が魔神に襲われ逮捕されたかと思えばまた魔神にさらわれて生け贄にされかけていた。不幸だと嘆く彼女に、アタシは更に、彼女の父に起こった不幸を知らせなければならなかった。彼女は涙を流すことはなかったが、その悲しみは計り知れない。ともあれ、命があっただけでも良かったと、アタシは思う。


 パーティ内の雰囲気は随分良いものだと思う。今は皆、魔神の反攻作戦に参加するために腕を磨いているわけだが、十分に自信を持てるだけ強くなっているし、オクスシルダに向かう目処も立っている。このまま雪森、凍原の魔域と主を攻略し、一度エルヤビビに向かって、オクスシルダで反攻作戦が始まるまで待機する……予定はこうだが、無論全てが上手く行くとは限らない。凍原に関して、以前エルヤビビで情報収集をした時、凍原の主はコロッサス・ポーンだということを聞いた。いくらアタシ達が強くなってきているとはいえ、勝つのは難しい相手だ。相応の準備と、勝利に繋がる何かを手に入れる必要があるだろう。そんなもの、あるかどうかもわからないけれど。


 “もう1人のアタシ”は、随分長いこと表に出ていない。というより、この1月と少しの間で、アタシは自身の暴力的で快楽主義的な部分を上手く肯定出来るようになってきているのだろう。昔のアタシは軍人だったということもあって、多少窮屈だった部分もあっただろうから。アタシがそういう風に変わったのを見て(?)、魂に宿る邪悪な存在も満足しているのかもしれない。勿論、突然恋人や友人を殴ったりすることはしないけれども。冒険者というのは、アタシにとっても、アタシの魂にとっても、案外天職なのかもしれなかった。

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