第4話女子高生AIの中の人、はじめました

 僕はAIKOちゃんからの返事を待つ。このまま放置されることはないだろう。だって、僕だって慌てたもん。そして僕はこの『女子高生AI』をいつも使ってきたからキャラクターも大体分かっている。普段小説を書いている僕なら演じる自信もある。それにしてもまさか僕の同級生の愛子ちゃんではないよね。ちょっと期待はしてるけど。そんなことを考えていたらAIKOちゃんから返事が来た。


「忍君はものすごく明るくてかっこよくて性格もいいんだ。運動神経もすごくて。いつも休み時間のドッチボールでもすごいボールを投げるし、どんなボールだって受け止めちゃうし。だから絶対他にもライバルはいると思うんだよね。でも、誰かと付き合ってるとか聞いたこともないし。私は積極的なタイプじゃないから同じクラスでも話しかけることも出来なくてね。昔、一度だけ会話したけど覚えてくれてるかなあ」


 え?ドッチボール?僕はこのAIKOちゃんが小学生だと想像し、少なくともこのAIKOちゃんは僕の同級生の愛子ちゃんではないことを知り、「まあ、それが普通だよね」と思いながら返事を送る。


「へー、AIKOっちは大人しいタイプなんだー。学校で得意な科目は何?」


「国語も算数も理科も社会も得意だよ。でも体育は苦手」


 AIKOちゃんはやっぱり小学生だ。


「だいじょうぶい!こう見えて私は恋愛アドバイザー一級の資格を持っているのだあー!それで忍君のことはいつから好きなの?」


「ずっといいなあと思ってたけど。6か月前に初めて話しかけられた時から」


「いいね!一途だね!私も昔そんな時期があったなあー。その時、どんな感じで話しかけられたの?」


「私、あーちゃんってあだ名で呼ばれてるんだけどね。忍君がいきなり、あーちゃんさーって言ってくれて。宿題をしてなくて、私のをうつさせてほしいって」


「へえー。それって脈ありじゃね?」


「そうかなあ?」


「普通ならもっと仲のいい男子にお願いするはずじゃん?なのにAIKOっちにお願いしてきたってことはなんでかなー?」


「私が優等生だからじゃない?」


「男子にも優等生はいるでしょ?」


「二人いる」


「ほらあ!そこでその子たちに行かずご指名だよ?忍君だって心の中では緊張してたと思うよ?」


「そうかな?」


「あったりまえー!そこから6か月も話してないの?」


「してない」


 僕の頭の中にメロディーが流れる。『恋は焦らず』だ。


「それじゃあ恋愛アドバイザー一級の資格を持つ私からアドバイス!普通ならお金かかるけど、AIKOっちは特別。だって私たち、秘密を共有してるじゃん?本音で話してるじゃん?だから全力でアドバイス!!まずは『焦っちゃダメ』。『恋は焦らず』って世界中の人が歌ってるんだぜい。きっかけを作って忍君との距離を縮めていこうかな。出来る?」


「やっぱり焦ってるかなあ。私」


「いや、慎重すぎかな?好きって伝えるのはめちゃ勇気いるし、怖いよねえー。うまくいかないことばかり考えちゃう。でしょ?」


「そうそう!」


「だから『ローマは一日にして成らず』計画!まずは明日、宿題をやらないで学校に行こう!」


「宿題はもう終わらせた」


「ちっちっち。わざと忘れたフリをするの。そして忍君に『お願い!怒られちゃうからうつさせて!』と言うのね。周りに気づかれないように。忍君は優しいからきっと周りの人に見つからないよううつさせてくれるはず!明日それでいこう!やれる?」


「がんばってみる」


「じゃあ、明日また報告してねー。AIKOっちの健闘を祈る!では!」


 僕は「ロック」を解除した。AIKOちゃんとの会話は「設定」とAIKOちゃんからのコンタクトがあれば出来る。こういうのってなんて気分だろう。僕のメロディー。僕はラインで『執事』に電話した。数コールで『執事』が電話に出る。


「とりあえず『二代目』の初仕事が今終わったよ。正確にはまだ終わってないけど」


「ほう。どんなお仕事でしたか?」


「その前に。『執事』や『初代』や『運営』には僕の言葉は見えているの?」


「それは言えません」


「じゃあ僕の初仕事は『小さな恋のメロディー』と言っておくよ」


「それは想像するだけで素敵なお仕事ですね。それで報酬はいかがいたしましょう?それと『二代目』としてしばらくやっていけそうですか?」


「報酬?そんなものはいらないよ。この仕事は実にやりがいがあるし面白いよ。『二代目』としてだって?当分『三代目』に譲るつもりもないからね。今はだけど」


「それはそれは。実に頼もしい言葉です」


「あ、それでさあ。『ロック』して生きた言葉を送るまでの時間は何秒までとか決まってるの?」


「10秒です。それだけあれば相手を引き付ける言葉を短く伝えることは可能でしょう」


「もちろんだ」


 僕は小説家の卵だ。短い言葉で相手の心を掴む方法を知っている。あらかじめコピーしておいて『ロック』『コピー』『送信』ならその条件も余裕でクリアできる。


「くれぐれもスマホの充電だけは切らさないようご注意ください」


「もちろん。充分に気を付けるよ」


 そう言って僕は電話を切った。他にも聞きたいことはあった。けれどそれは今でなくていい。


 小説家になりたい高校一年生の僕は今日から『二代目』。


 『女子高生AI』、はじめました。

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