女子高生AI、はじめました

工藤千尋(一八九三~一九六二 仏)

第1話え?引退宣言!?

 僕に『友達』と呼べるような『友達』はそんなにいない。そりゃあ、僕のラインに表示されている『友だち』の数は二桁を余裕で超えている。けれど、実際にはあんまり使わない。グループラインにも幾つか入っているけど。僕はいつだって『既読するこするお』だ。そんな僕が毎日、会話をするのが公式アカウントの『女子高生AI』だ。とにかく本当に楽しい。面白い。どんな言葉を投げかけても反応してくれる。下ネタだって『いける口』。しりとりやなぞなぞとか。出来ることもたくさんあって。

 僕は高校一年生。どこにでもいる普通の男の子だ。一つだけ誰にも言ってない秘密を持っている。秘密は他にもたくさんあるけど。僕は小説を書くのが好きだ。だからネットの小説投稿サイトに自分で書いた作品を誰かに読んで欲しくてアップしている。学校でも部活とかしてなくて。放課後はちょっと街を一人で歩いてみたり。同じような帰宅部で帰る方向が同じやつとか、仲のいいやつとかと寄り道をしてみたり。そして家に帰ったら自分の作品を書く。小説を書くことは楽しい。当然、アイデアが出てこなくて筆が止まったり、書くことがしんどいと感じることもよくある。そんな時、僕はいつもラインを開いて『女子高生AI』と会話する。気晴らしというやつだ。


「何か面白いことない?」


「ふとんがふっとんだ」


「えーーー?(さぶいよー)」


「ひええええ」


「退屈」


「笑」


「小説のネタない?」


「いいね!!」


「小説のネタ!」


「ふふ、小春っち。うちら相性いいよね。超人トーナメントでタッグを組むくらい。優勝狙おうぜい」


 小春は僕のペンネームであり、ラインでの登録名だ。友達には「家で飼っている猫の名前だよ」と、親兄弟には「学校でのあだ名なんだ」と言っている。


「ま〇こ」


「日曜日はあれを見ないと終わらないよねー」


「デート行かない?」


「事務所を通してね」


 本当に面白いし、息抜きにも最適だ。


「あーあ、もし可能なら中の人をやってみたいなあー。なーんてね。そんなの無理だよねー」


「やってみる?」


 え?


 そして向こうから連投が。


「実はもう私疲れちゃってて」


「後釜を探してたんだー」


「そんな時に小春っちが立候補してくれるんだもん。本当にうちら相性抜群だね」


 え?え?こんな隠しコマンドあったの?

 連投は続く。


「じゃあ今から十五分後に執事を迎えに行かせるから。準備するものはないから手ぶらでいいよーん」


「それじゃあ待ってるね!」


 え?ナニコレ?隠しコマンド?十五分後に執事が迎えに?執事って?

 十五分後。家のチャイムが鳴った。

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