第二章 桜京体育祭編

第22話 暗躍者

今回の件について後書きに書いています。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



某日、市内でのこと。

凛がいなかったこのたった四年という月日は“たった”という言葉で済ませていいモノか、と疑問を抱いてしまう程の成長を遂げている。住宅街やごく一般的な街を見ると外見にはあまり変化はないが、都心部となればまた話は違う。その方へと行くと、立ち並ぶビルや建物は全て万丈でより強固である。


そんなこの市内の都心部のとあるビルの屋上にて、行われていた一つの激闘が今終わりを迎えようとしていた。


そこにいる人物の一人はアルヴァン序列第25位である仁禎秀、一方でその彼と戦っている人物は黒いコートを身にまとった姿で顔には気味の悪い仮面を付けた青年だ。そして今の戦況はと言えば、満身創痍のボロボロになった姿の仁がその仮面を付けた人物に必死に攻撃を仕掛けているといったところ。


だが、その攻撃が彼に当たることはなく仮面の青年は慣れた動きで仁が次々と放つその攻撃を、避けて防いで避けて防いでとそんなことを繰り返している。


「ほらほら、どうしたの?君の力はそんなものなのかい?」

「くっ……なめるなぁぁぁっ!!」


相手のなめ腐った態度に腹が立った仁は会心の一撃を異能を使って放った。だがしかし、それも彼に当たることはなかった。


「君の見えないその攻撃も、俺の異能の前では無意味なんだよ」


彼は自身の手に持っている氷で生成された鋭い剣を地面へと突き刺すと、その隙間から氷結が一直線に伝播していき仁の身体を縦に切り裂いた。その攻撃により、仁は口から勢いよく赤い鮮血を吐き出した。


「かぁっ!」


しかし、そこから間も与えずに彼の身体がゆっくりと氷結し始めた。


「なっ……おのれっ……」


みるみると身体が凍てついていく仁、そしてその後に彼の身体はそのまま凍てつき動くことはなくなったのだった。先ほどまでとは一転攻撃の音が止んだせいかやけに静かだった。


「ふうっ…任務完了っと」


それからすぐ、仮面の青年の無線機に連絡が入った。


《―――――か。おい、聞こえるか。》

「ああ、聞こえるよ。今任務終わったとこ」

《そうか、ならいい。速やかに戻ってくれ》

「ん、りょーかい」





       ※       ※       ※







アルヴァンの中でも序列上位の隊員である仁禎秀との戦いを終えて、仮面を付けた青年は彼の与する組織、“エセルス”の隠れアジトへと帰った。ボロボロの地面をコツコツと歩くその音がいやらしく響き渡るその場所は、気味の悪いという言葉に尽きるところだった。


その道をまっすぐ行ったその先に、“エセルス”の首領ボスがそこにはいた。


積み上げられた瓦礫の上に腰を下ろして座るその男は、帰ってきた青年を見て言った。


「よく戻ったな、ご苦労だった。彪雅ひゅうが

「お安い御用だよ、ボス」


彪雅と呼ばれたその青年はそう言って顔についていた仮面を外してその顔をあらわにする。童顔とは言わないもののどこか幼さを感じさせるその青年の顔は、未だ彼が成人ではない未成年だと実感させる。


「そのボスという呼び方、いい加減やめてくれないか?」

「しょうがないじゃん。それが一番呼びやすいし何より皆それで馴染んでるんだもん」

「……まあいい。それで、改めて訊くが相手のアルヴァンの者はしっかりと殺さなかったんだよな?」

「もちろん。序列も25位でかなりの上位っぽかったし、アルヴァンにも俺たちの存在をもっと伝えられたんじゃないかな」

「それならよしだ」


今現在、この“エセルス”が組織内で行っているのは本格的に動き始める前の、いわば自分たちの存在をアルヴァンに伝えるための広告。彪雅も広告の任務を一任されていた。


「いやー、それにしてもアルヴァンの上位って聞いて少し期待したんだけど、全然弱かったなー。もしかしてアルヴァンってそこまで大したことないのかな?」

「そうなめているといつか痛い目を見るぞ」


それに彪雅ははっきりとしない気の抜けた声で「はーい」とだけ言った。すると、突然何かを思い出したかのように目の前のその男に言った。


「そういえばさ、ボス。思ったんだけどいい加減俺の事最高幹部にしてくれてもよくない?俺かなり強くなったと思うんだけど」

「ん?ああ、確かにお前はここしばらくでかなり強くなったな。最高幹部にも劣らない実力は持ってる」

「じゃあ―――」

「でもだめだ」

「えーーー!!」


彪雅は納得がいってない様子で頬を膨らまして訴えかけるような目つきになる。だがそれを柳に風と受け流した男は、そこに理由を付け足した。


「確かにお前は強い。だがあくまでもお前に今備わっているのは“実力”の一つだけだ。お前にはまだ、今俺たちに一番必要なものが欠けてる」

「何、欠けてるものって」


そこからその答えはすぐに伝えられた。にも関わらず彪雅にとってはまるで間を置いてはっきりと言われたかのような衝撃があった。


「“殺す覚悟”だ」

「―――――」


その途端、彪雅の心の中で大きく鼓動が唸る。心なしか、彼の顔はどこか暗い顔へと変化しておりそれが彼の心境を物語っていた。


彼はその的確な指摘に何も言えずに押し黙ることしかできない。


「お前はまだその覚悟がない。だから異能に頼るしかないんだろ?」


彪雅も分かっていた。


自分自身の中には殺すという覚悟が存在していない。だから己の異能を使わざるを得ず人を殺さずにと。


その行動は虚勢であり、自分に嘘を付く行為。そして何より自分の与するこの組織、“エセルス”の掲げている意志に大きく反している。


彪雅自身の中で分かっていることだとしても、殺す覚悟だけはどうしてもつくことができない。やっとの思いで人を大きく傷つけることの覚悟をつけることができたというにも関わらず、更にその上の壁が立ちふさがるのだ。


“人を傷つける”ことと“人を殺す”ことは天国と地獄程の差が存在している。その差を彪雅は未だ埋めることができていなかった。


「お前もこのままではダメな事くらいはわかっているはずだ。今はまだ本格的に活動を行っていないから見過ごしているが、本格的に俺たちが動き始めたらお前の様な存在はただの荷物になる」

「―――――」

「だから、お前も早めにつけて置け。殺す覚悟をな」


そう言うとその男の姿は一瞬で消え去っていった。一人残された彪雅はそれからしばらくその場を動くことはなくただずっと地面を眺めながら押し黙り、その手を強く握りしめていた。





          ※       ※       ※





それから彪雅は一日がたった今日。


一日の月日がたっても彼の中にはまだ昨日言われたその言葉がずっと心に残っていた。覚悟を決めなければならないというのに、こんな様でいいのか。


「……いや、よくない……」


彪雅はこの犯罪組織“エセルス”に生半可な気持ちで入ったわけではない。彼の心の中にあるその意志はこのエセルスの掲げるそれと同じ、共にその意志を掲げ共に目的をなそうとそう決意してこの組織に入ったのだ。


その望みのために組織の望む未来のために、彼は必ず覚悟をつけることを今ここに決意する。


―――――すべては―――――のために―――――――


「さて、それじゃあ今日も学園生活を頑張るとするか」


そう呟いた彼は自身の通う学園、「桜京学園」へと向かう。


桜京学園2-A在籍、氷野彪雅ひょうのひゅうが

今日も彼は自身の素性を隠して学園へと通う。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


まず、今回の件についてですが私は三回も再投稿をするという事をしました。ネタが未完成で色々とミスを犯した結果そのようになったのですが、何よりも私はとんでもないミスに気づいていませんでした。


こんなとんでもない矛盾に気づけないのは自分の未熟さだと受け止めております。


今後はこんなことを起こさない様に精進していきますが故、何卒これからもこの小説をよろしくお願いします。








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