第三章 月夜の妖精舞踏会は新たなフラグを呼び起こす

「あ、あのっ、ロザリア様!」

 うわった声に呼びかけられてくと、きんちょうした様子のサラが立っていた。

「サラさん、どうしたの?」

「こ、この間教えてくださった参考書、とてもわかりやすかったです。ようせい学についてはまだまだわからないことだらけですが、これなら授業に追いつけそうです!」

 授業で助けてから、サラはしきりにロザリアに声をかけてくるようになった。最初は身分がちがいすぎてきょうしゅくしていたようだが、『私は全然こわくないわよオーラ』を出してロザリアから話しかけていくうちに、すっかりなついてくれたのだ。

 今ではリュカおすすめの参考書を教えてあげたり、妖精についてアドバイスをしてあげるくらいには、言葉をわすようになっている。

「それは良かったわ。何か困ったことがあったら、いつでも声をかけてちょうだいね」

「はいっ、ありがとうございます……!」

 まるで聖女を見るかのように、サラが顔をかがやかせる。非常に愛らしいがおだ。

(あーもう本当にわいいな! これはオスカーもれるでしょ! ……と思うのに)

 ロザリアの期待に反し、オスカーとサラの関係は大して進展していないようなのだった。

 仲が良くないわけではないし、残り三人のこうりゃく対象と比べると、親しいあいだがらと呼べる関係には見える。だが、今一歩足りない気がするのだ。

(そんなだから、イヴァンにも見当違いな誤解を持たれてしまったのよね、きっと。これはもう、何か手を打たないとだわ)

 さてどうしよう、と考えていると、ちょうど当のオスカーがやってきた。

「ロザリア、来月のとう会のことだが」

(舞踏会? ……ああ! あのイベントね!)

 オスカーが学園の生徒を招待し、しゅさいする舞踏会。ゲームの中でも大事な場面となるイベントだ。その時点で好感度の高いキャラとサラがパートナーとなり、ロマンチックな時間を過ごすのである。

 無論、ロザリアはいつものごとじゃをする。サラの目の前でパートナーをさそってうばおうとするのだが、それを断られていかくるい、サラへの敵対心をつのらせていくのだ。

(もしかして、サラを誘いたいのだと自己しんこくするつもりだったりする!?)

 だまっていればオスカーはこんやく者のロザリアと組むことになるが、決して仲が良くないロザリアとよりは、ちかごろ親しくし始めているサラと組んだ方がいいに決まっている。そのために、事前に根回ししてけたいということかもしれない。こちらとしては言うまでもなくだいかんげいだ。

「もうすぐだったわね。いいのよ、わかっているわ。あなたは好きな方を誘って……」

「もうお前てに招待状は送ってある。当日は俺といっしょに入場するんだから、おくれるなよ」

「……え?」

 思ってもいなかった台詞せりふに、ついオスカーをぎょうしてしまう。

「……私が、一緒に? ……どうして?」

「何をけな顔をしているんだ。お前は俺の婚約者なんだから、当然だろう」

(…………あれぇ?)

 おかしい。予定していた展開ではない。なぜ自分が指名されているのか。

「む、無理しなくていいのよオスカー。婚約者だからと気をつかわないでちょうだい」

「なんで気を遣ったことになっているんだ。俺がそんなわずらわしいことをするもんか」

「……えっと」

「用はそれだけだ。じゃあな」

 ロザリアが返答にきゅうしているうちに、オスカーはきびすかえして行ってしまった。

(おおい、ちょっと待て!? どうして急に婚約者あつかいし始めた!?)

 ゲームならとっくにロザリアはの外になっているころなのに、なぜ。

(もしや、サラとの進展が足りないからこうなってしまった!?)

 これはさっきゅうに手を打たねばとあせっていると、リュカの低いつぶやきが聞こえた。

「……なるほど、そう来ましたか」

 彼にそぐわないこわだったのが気になり、そろりと顔をぬする。どことなく険しい顔つきに見えたのはいっしゅんだった。

「……リュカ?」

「ドレスを新調しなくてはいけませんね」

 ロザリアの視線に気付いたリュカは、いつも通りにほほんだ。

「仕立て屋はいつ呼びましょうか」

「ええと、そうね。……あ! いことを思いついたわ!」


*****


「おい、これはどういうことだ?」

 まゆを寄せて問うオスカーに、ロザリアはニッコリと笑いかけた。

「舞踏会で着るドレスを仕立てるのに、付き合ってほしいと言ったでしょう?」

「それは、確かにそう聞いたが……」

 休日の昼間。ロザリアとリュカ、それからオスカーは、王都でも有名なドレスの老舗しにせ店へと足を運んできていた。

 貴族専用の特別応接室に案内され、くつろいだ様子でこしけるロザリアとは反対に、オスカーはまだげんそうにロザリアを見ている。

「お前がこういう場所に俺を呼びつけるなんてめずらしいな」

「そんなに疑い深い目で見なくてもいいでしょう。たまにはいいじゃないの」

 ふふ、と意味ありげに笑ったところで、店主がそっと耳打ちしてきた。

「ええ、そのまま通してちょうだい」

 ロザリアの返事に、頭を下げた店主が部屋を出て行く。なんのことだという顔のオスカーを見て、ロザリアはことさらみを深める。

 すぐに店主がもどってきて、後ろから不安そうな顔のきんぱつの少女が現れた。

「いらっしゃい、サラさん」

「ロザリア様!」

 ロザリアを見て一気に表情を明るくしたサラを見て、オスカーがおどろく。

「ベネットじょう? どうしてここに」

 オスカーの存在に気付いたサラが、あわててペコリと頭を下げる。

「オスカー様、こんにちは。今日はロザリア様にお招きいただきました」

「……ロザリアが?」

 オスカーが、何かたくらんでいるのでは、とでも言いたそうな顔をした。

(ええ、ええ、企んではいますけどね!)

 という心の声をかくし、「そうよ」と答える。

「あの、でもロザリア様……、ここ、ドレスの仕立て屋さんでは……?」

「その通りよ」

「ええっ!」

「……ベネット嬢、君は知らずに来たのか?」

「は、はい。先日、外出のお誘いをいただいて、こちらへ来るようにと……」

「だって、目的を知ったら来てくれないだろうと思ったんだもの」

 高級ドレスの老舗店なんて、平民のサラを誘ったところで絶対にりょうしょうはしてくれないとわかっていたので、ロザリアはあえて黙って呼び寄せたのだ。

「ロ、ロザリア様、私に舞踏会に着ていくドレスがないことを気にかけてくださったのは、とてもうれしいです。ですが、こんな高級なお店のドレスなんて、私には手が出ません。お気持ちはありがたいのですが、私は舞踏会を欠席させていただいて──……」

「何を言っているの。お金なんて気にしなくていいわ。そんなの私が……」

 言いかけた時、オスカーが何かに気付いたようで、割り込んできた。

「いや、ここは俺がはらおう。だから、君は気にせず好きなものを選んでくれ」

「ええっ!?」

 オスカーの申し出に、ロザリアは心の中で「よくぞ言ったー!」とはくしゅを送った。

 これこそが目的だったのだ。

 平民のサラが、舞踏会に着ていくようなドレスなど持っているわけがない。ゲームでも貸しょうみじめな思いをするというびょうしゃがあった。

 その後、攻略対象たちとのあれこれでしずんだ気持ちはふっしょくされるのだが、最初からちゃんとしたドレスを着ていくことが出来たのなら、どんなに気持ちが楽になったことだろう。

 そして、それを近頃親しくしている男性が贈ってくれたとなれば、心を動かさずにはいられないのではないだろうか。

(オスカーもこっちの意図に気付いてくれて良かったわ。まあ、鹿なわけではないもんね。ちょっとわかりにくいツンデレなだけで、きちんと教育を受けた立派な男性なんだし)

 わざわざ店に呼び出して二人を引き合わせ、サラにはドレスを買うお金がないという事実を知ってもらう。自分が主催する舞踏会において、招待客の一人であるサラに負担をかけてしまうことに気付いたオスカーが、責任を感じて準備の手伝いを申し出る──その考えに至ってくれるだろう、と思ったのだ。

 そして、ロザリアがねらった通りになった。

(しかもこの計画は、これだけじゃ終わらないのよ。いろんなドレスを試着してサラのりょくをたっぷりアピールすることが出来る、一石二鳥イベントなんだから!)

《おといず》一の美人キャラはロザリアだが、ヒロインであるサラだって十分美少女なのだ。各ルートのエンディングで様々なタイプのドレスを着ているスチルがあったが、どれもこれもとても可愛らしくて、似合っていたのを覚えている。

「準備は整ったわ。あとはあの子の魅力を最大限に引き出していくわよ」

「はい、りょくながらお手伝いさせていただきます」

 リュカのたのもしい返事に、ぜんやる気がいてくる。

 最初にこの計画を話した時、「わざわざ休日にオスカー様と一緒に出かけられるのですか?」と不満そうにしていたリュカだが、目的を説明したら快く引き受けてくれた。

 オスカーにはサラにれんいだいてもらい、婚約解消に導く──というロザリアの望みを、リュカもおうえんしてくれている。とても心強い。

「さて、始めましょうか」

 王太子殿でんにドレスを買ってもらうなどとんでもない、とサラは慌てていたが、なんとかオスカーが承知させたようだ。

 ロザリアは満足げに笑って、店主にドレスを持ってくるよう指示を出した。


「良いわね、これもキープしましょう」

「でも、レースがたくさんあって、目立ってしまいそうじゃないですか?」

「ベネットさん、年頃の女性にはこれくらいがちょうど良いと思いますよ」

「そうよ、一番目立つくらいの気合でいきましょう」

 高価なドレスに囲まれて恐縮するサラを、リュカとなだめてあれこれと試着させていく。

「わ、私なんかが目立つなんておこがましい! ……目立つと言ったらやはり、ロザリア様ではないでしょうか。きっとどんなドレスもお似合いになるのでしょうね……!」

「当然です。ロザリア様に似合わないドレスなど、この世に存在いたしません」

 真顔で言われ、ずかしくなる。

「そんなことないわよ。それに私はむしろ、今度の舞踏会では目立たずひっそりとしていたいくらいだもの」

「駄目ですよう、ロザリア様のドレス姿を拝見するのが楽しみなんですから!」

「そうですよ。ロザリア様にはだれよりも美しくかざっていただかないと」

「ちょっと、リュカ」

 ロザリアをめるあまり、方向性が変わってきてしまったリュカをひっそりとく。

 リュカはすぐに気付き、新たな布をサラの前にかかげた。

「ベネットさん、こちらも最近の流行の色合いで、てきですよ」

「わあ、れい!」

「まあ、上品なのうこんね。確かにこれも似合いそうだわ」

 サラのイメージから、あわい系統の色ばかり合わせていたのだが、こういう大人びた色のドレスも似合いそうだ。

(ゲームのスチルでも淡い色合いのドレスしか着てなかったのよね。だからなんとなくそっちの系統で合わせてしまってたんだけど)

 身体からだに当てさせてみると、印象がガラリと変わるがこれもアリだなと感じられた。

「素敵ね。オスカーもそう思わない?」

「え? ……ああ」

「すごいわね、リュカ。あなたって本当、美的センスも見事なんだもの」

「ロザリア様の従者として恥ずかしくないよう、そういったものも養うべく心得ておりますから」

「リュカさんの忠誠心は本当にらしいですねぇ」

 感心した様子のサラに、「そうでしょう!」と心中でほこらしげにうなずく。

「さて、これも良いけれど、さっきの淡いピンクも捨てがたいわね。オスカーはどう思う?」

「オレンジも合いますね。オスカー様のお好みはどちらです?」

「……ああ、どちらも良いと思うが」

 リュカと代わる代わる勧めてもいまいちな反応しかしないオスカーに、ロザリアは眉をり上げる。

「ちょっと、真面目に考えて。サラさんの大事な一着を決めようとしているんだから」

「お前たちがかしましく話を進めるから、入っていけないんだろうが!」

 言われて気付く。リュカはだんからロザリアのドレス選びに付き合ってくれるから気にしていなかったが、こういう経験がないであろうオスカーにはみにくい空気だったかもしれない。

「……それは申し訳なかったわ。もうあなたを置いてけぼりになんてしないから、一緒に選びましょう」

「おい、まるで子ども扱いをするな」

 不服そうな顔をしながらも、オスカーが首をひねる。

「なあ、さきほどからベネット嬢の試着しか進んでいないようだが、お前はいいのか?」

「あら、私のことは気にしなくていいのよ。それよりこれはどうかしら? ばながらが品よくしゅうされていて、サラさんに似合いそうじゃなくて?」

「まあ、似合うとは思うが」

「やっぱりそう思うわよね。サラさん、これもキープよ」

「おい、ロザリア」

「オスカー、あなたの好きな色は何? その色の生地も合わせてみましょう」

「俺の話を聞け」

 オスカーの声のトーンがほのかに低くなったので、仕方なく振り返る。

「──だから、私のドレスについては気にする必要がないのよ。もう決めてあるから」

「は?」

「えっ!?」

 オスカーとサラの声が重なった。

「あなたたちが来る前に、リュカに見立ててもらって決めたのよ。だから私のドレス選びはもうしゅうりょうしているの」

「……お前は俺に、ドレス選びに付き合えと言わなかったか?」

「言ったけれど、早く着いて時間が余ってしまったんだもの」

 というのはうそだ。始めからロザリアのドレス選びに付き合ってもらうつもりはなかったので、待ち合わせより早く店に出向き、リュカと共にさっさと決めてしまったのだ。

「…………」

「そんなぁ、私もロザリア様のいろんなドレス姿を見たかったです……」

 オスカーはムスッと黙り込んでしまい、サラはしょぼくれた。

「どうせ当日会うのだからいいでしょう。さ、オスカー。この中から決めるわよ」

「ベネット嬢のドレスに俺の意見は必要なのか?」

「必要よ!」

 力強く言ってみせたが、オスカーはなぜだかわからんという顔をしていた。

(わっかんないかな〜もう! オスカーは自分好みのドレスを選ぶ、そしてサラがそれを着る! おとゲーム的にはときめく展開じゃないの!)

 どうにもにぶいオスカーを引っ張って、サラのとなりに立たせる。

「どれが一番似合うと思うか、そっちょくな意見を言ってちょうだい」

「……そう言われてもな」

「オスカー様、私からも、ぜひともお願いします!」

「……なら、この中でも君が特に気に入っているものにしぼってくれ。そこから選ぼう」

「はい!」

 二人で会話が進み始めたので、ロザリアはいったんきゅうけい、と二人のそばはなれる。

 そのままソファに腰掛けると、すぐにリュカが動き、紅茶を差し出してくれた。

「おつかれさまです、ロザリア様」

「ありがとう」

 受け取った紅茶を口にふくみ、オスカーたちの様子を見てほくそ笑む。

「ふふ、順調だと思わない?」

「そうですね、お二人とも好感を持っていないわけではない……と、思いますが」

 意見を出し合ってドレス選びをする二人の姿は、ただのクラスメートよりは確実に親しく見えるだろう。うん、ういういしくて良い感じだ。

「見て、オスカーってば今、微笑んだわよ。あまり人前でそういう顔をする印象がないのに、サラさんには気を遣わずに接しているように見えるのよね。サラさんの方も、始めの頃は王太子という身分に一歩引いていたように見えたけれど、今は然程さほどの緊張もなく話しかけられているように見えない?」

「……それは、ロザリア様に対しても言えるような気がしますが」

「え、私? 私はいいのよ、関係ないもの」

「……そういうことではないのですが」

「じゃあどういうこと?」

 リュカは黙ってしまった。

「ねえリュカ、今のはどういう──」

「ロザリア様ぁ! これなんてどうでしょうか?」

 声をはずませたサラに呼びかけられ、ついきゅうするのをやめて席を立つ。

 さわやかな青空色のドレスを身にまとったサラを見て、ニコッと笑う。

「素敵ね。れんでとても良いと思うわ」

 ロザリアが言うと、サラがきゃあっと嬉しそうにほおを紅潮させた。

(いやいや、それ選んだのはオスカーだよね? その笑顔オスカーに向けようか!?)

 しかし、オスカーは特に気にしていないようだったので、サラの笑顔を見せるのはあきらめた。しい。せっかくのキュンポイントだったのに。

「……ええと、後はアクセサリーを決めないといけないわね。──持ってきていただける?」

 ロザリアが合図をすると、店主がほうしょく品のわれた大きな箱を持ってきた。

「ア、アクセサリー? さすがにそこまでは……」

「気にするな、ベネット嬢。えんりょすることはない」

「でも……」

「ここまで来たら、最後まで責任を持って手伝わせてくれ」

「あ、ありがとうございます……」

(おっ、その調子よオスカー! この勢いでパートナー役への立候補もしてくれないかな!?)

 期待をめたまなしで見守っていると、オスカーが可愛らしい花のかみかざりを手に取った。

 しかし、それを見たロザリアは、つい口を出してしまった。

「待って。それならこちらの方が、サラさんの顔の形に合っているんじゃないかしら」

「そうか?」

「ええ、一見して大した違いはないけれど、みょうりのこちらの方が……」

 テキパキと髪留めやイヤリングを選んでいくロザリアに、サラが目を輝かせる。

「ロザリア様、おくわしいんですね……!」

「昔からアクセサリー選びは手を抜かないよう、母から言われてきたの。顔周りに配置するアイテムなら特に、目立ちすぎず、所有者の良さを美しく引き立たせるように──念入りに選びなさい、と」

「なるほど……!」

「はい、これでいいわ。かんぺきね」

(どうよ、オスカー!)

 フフン、とオスカーを見ると、彼は目の前の着飾ったサラではなく、なぜかロザリアをじっと見ていた。

「……オスカー?」

「あ、いや、何も」

 パッと顔をらしたオスカーは、気まずそうに店主の元へ行ってしまった。

(あ、まさか照れてる!? サラがあまりにも可愛いから直視出来なかったとか!?)

 全くなおじゃないんだから、とニヤニヤしながら、オスカーを追いかける。

 おそらく支払いのことを話していたのだろう。話が済んだところで彼をつかまえる。

「なんだ、お前か。驚かせるな」

「オスカー、ありがとう。あなたがすぐにじょうきょうあくの出来る男性で良かったわ」

「……やはり、わざと仕組んだんだな。ベネット嬢が準備で困るだろうということに、俺が気付いていなかったから」

「……まあ、ざっくり言うとそうね」

 いろいろと企んではいたが、じゅんすいにサラが心配になったことも確かなので頷く。

「よく見ているな、周りのことを」

「ちゃんと見ようと思い始めたのは、最近だけれどね」

「それでも、お前が今日この場を設けてくれなかったら、俺は気付けないままだった。無神経な男になってしまっていただろう。だから……感謝する」

「いいわよ、そんな改まらなくて。サラさんの楽しそうな姿が見られて、私も楽しかったし」

「……彼女みたいなタイプをお前は好まないと思っていたから、最初は何か企んでいるのかと疑っていたが──……しんけんそうしょく品選びに付き合う姿を見て、驚いた」

 みょうに真面目くさった顔で言うオスカーに、そうでしょうねえ、としょうする。

「人は変わるものよ」

「お前が言うと説得力があるな」

「ところで、彼女のじゅんぼくなところは可愛いらしいわよね。あなたもそう思わなくて?」

「まあ、気取っていなくて好感は持てるな」

「でしょう!?」

 色よい反応に、思わず食い気味に返してしまう。

「な、なんでそんなに顔を輝かせてるんだ」

「……失礼。まあ、その……彼女はとてもいい子だから、もっと知っていくべきだと思うのよ。ほら、視野を広くするのは大事でしょう?」

「視野を広く……、そうだな」

 ふむ、と一考したオスカーは、ロザリアに提案をしてきた。

「ではこれから、彼女が好んでいる場所に行ってみるというのはどうだろうか」

(おお! デートか!?)

「いいわね。ぜひ楽しんできてちょうだい」

「何を言っている。お前も来るんだぞ」

「……はい?」

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