17話 写真
俺は自分の部屋に戻って荷物を段ボールに詰めて片付けていく。
そしてふと棚に目線を上げると、そこには写真立てが二つあった。
1つは少し若い父親と母親が二人で笑っている写真。
写真でしか知らない母親の顔は本当に幸せそうで、一緒に写っている父さんの笑顔も見たことないほど輝いていた。
母さんが俺を身ごもったとき、俺を産めば母さんが危ないのはわかっていたらしい。
俺か母かの二択だったのだ。
しかし、母親は絶対に産むと言って曲げなかったらしい。
そんな自分を危険にさらしてまで産んでくれた母親にとても感謝したしそんな母を侮辱した父さんの親戚を許すことはない。
父さんは訳あって親や親戚達とは絶縁状態にあった。
そしてもう1つの写真立ては前に倒されていて写真が見えないようになっていた。
俺はそれを手にとって見る。
それは幼馴染みで俺が好きな渚とその両親と俺の写真だ。
俺のもう1人の母親と父親と言える二人は最近あまり会っていない。
明日は俺が作業できないかわりに家に来て手伝ってくれるらしい。
二人は今も変わらず俺を息子のように接してくれる。
けど俺が好きな渚はいない。
俺は悩んだ末二つの写真立てを引っ越し先に持っていく段ボールに仕舞う。
ある程度片付けると、インターホンが鳴る。
「はーい」
俺は部家を出て玄関を開けると、
「よっ!和人」
そこには優がいた。
「え?なんで、今日は用事があるって言ったのに」
「…用事って引っ越しの準備だろ?おれも手伝いに来た。人手は多い方が良いかなって思ってさ」
どうやら優にはバレバレだったようだ。
「…そっか、わかった。じゃあお願いするよ」
父さんに優が手伝いに来てくれたことを伝えると申し訳なさそうにするが、ありがとうとお礼を言って手伝って貰うことになった。
「報酬は和人の手料理でよろしくな!」
「りょーかい。腕によりをかけて作るよ」
そうして引っ越しの準備を三人で片付けていくと、後は殆ど業者に運んで貰うだけになる。
「これだと明日頼んだ宏樹の手伝いはいらないな。こんなにすぐ終るとは」
宏樹とは渡辺の父親の名前である。
「そうだね。俺もビックリだよ。ありがとうね優、お昼…には少し遅いけどご飯にしよっか。作るからくつろいでてよ」
そうして俺はキッチンで仕度を始める。
野菜炒めと特売で買った豚ロースがあるのでしょうが焼きを作ることにして野菜を切り出していると、
「和人、俺も何か手伝おう。ずっとお前に任せっぱなしだしな」
「なら父さんは味噌汁をお願い。ワカメは戻してるから。」
「わかった」
「和人~俺は~?」
「優はちょっと待ってて、あと少ししたらご飯装って貰うから」
優にそう言いながらフライパンに火の通りにくい野菜から入れていって炒めていく。
丁度晩御飯くらいの時間になりそうだ。
「これだったら和人が美鈴の胃袋掴んでしまう方だな」
「ちょっ!優!」
「なんだ~和人。それは和人が好きな人か?」
「そ、それは…」
「聞いてくださいよお父さん。こいつ学校でモテモテ何ですよ~。うらやましいったらありゃしません」
「そうか!それは親として鼻が高いな!」
「もう知らん!!」
俺は二人のからかいに顔が熱くなって拗ねる。
父さんと優の笑い声が上がった。
父さんがこんなに笑ったのはかなり久しぶりだった。
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