第3話 オルスト王国

 邪魔な先王が、ついに死去した。病だ。これでようやくワシが王に就くことができる。親父の野郎、無駄に長生きしやがって。今までは、親父が厳しいせいでまともな贅沢もできなかったが、これからは遊んで暮らせる。


 そう思ったのだが……。


「なにぃ!? 何故王であるワシが自由に使える金がこれっぽっちなのだ!? オルスト王国の税収はこんなものではないはずだぞ!」

「そのう……国には予算というものがありまして……。国を守るために必要な軍隊に支払う給料や、兵器開発費や維持費、この城を維持したり、王様の為の食事を用意するのにもお金がかかります。それらを差し引き、王様の自由に使えるお金となるとこの程度かと。とても大金だと思いますが……」

「こんなもので満足できるかー!」


 ううむ、せっかく王になったのに、これっぽっちしか贅沢できないとは。これでは王子であったころと大差ない。……そうだ、無駄金を使っているところを潰し、ワシの金にしてしまおう。


 そこでふと、ある一族を思い出した。王子であるワシよりも金のかかっている一族。高価な魔石をふんだんに浪費している者たち。結界師。平和なこの国で、いったい何から国を守ってるというのか。大体、普通の結界師は魔石など使わないらしいではないか。奴らを首にしよう。それで大分金が浮くはずだ。代わりに、ワシの知り合いに結界を任せよう。






 くくく、ついに奴を首にしてやった。これでうざかったあいつの顔を見なくて済む。昔からあの一族の事が気にくわなかったのだ。村人たちはなぜか王子のワシではなく、何もしてないあいつらばかりをもてはやしていた。それに、親父も奴らの肩ばかり持っていた。死ぬ間際でさえ、決してあいつらをおろそかにするなと言っていたほどだ。大方、なにか弱みでも握られていたのだろう。


 そこへ、宰相が急いでワシの元へやってきた。


「何故結界師の一族を首にしたのです!? すぐに連れ戻しましょう!」

「うるさい! 何故あいつを連れ戻さねばならんのだ。いなくてもなにも困らんだろうが!」

「王は何もわかっていない! 彼がいなければ、この国はすぐに滅んでしまう。今すぐ連れ戻さなくては」

「あんなやつら、ただの金食い虫ではないか。絶対に連れ戻さんぞ」

「この国はもうおしまいだ……」


 その後、口うるさい宰相も首にした。これでようやくワシが自由に王として振舞える。酒も女も自由だ。しかし、この国の女には飽きてきたな……。そういえば、昔見かけたミリシアの王女はずいぶん美しかった。今度、ワシの側室に加えてやろう。


 たしか、ミリシアはずいぶんと魔物に苦しめられていたな。ならば、助けてやると言えば簡単にワシの言うことを聞くだろう。よし、まずはワシの新王就任パーティーに呼ぶか。そこでワシの物にしてしまおう。




「レナ様、本当にこんなパーティーに参加しなければならなかったのですか?」

「仕方ないでしょう。オルスト王国は大国。逆らうことなどできません。……今は、ですが」

「今は、ですか?」

「ワシの王就任パーティーにようこそ、王女様。楽しんでますかな?」


 ワシはパーティー会場の隅にいた王女に声をかけた。会場の隅にいても目立つ美しい容姿。まさにワシの妻の1人にふさわしい。それにこの情欲を掻き立てる魅力的な身体。揉み心地の良さそうな大きな胸に、魅惑的な腰のライン。ああ、早くワシのものにしたい。


「ええ、まあ」


 ああ、王女は声も美しい。夜はどんな声で鳴くのであろうな? 今から楽しみだ。


「それはよかった。……ところで、ミリシアは魔物による被害が多いとか。……ワシが助けてやろうか? ワシの妻になるなら、助けてやらんこともない」

「……心配していただき、ありがとうございます。ですが大丈夫です。最近良い結界師を雇いましたので」

「そうか、まあ困ったらいつでもワシを頼ってくれたまえ」


 け、何が結界師だ。やつらに大した力などありはしない。どうせやせ我慢だろう。すぐにワシを頼ってくるはずだ。それまで少し待つとしよう。


 その時ワシは、隣の国を助けるどころではなくなることなど、全く知らなかった。






「なに!? また街に魔物がでただと!?」

「はっ。それもドラゴンです。大きな被害が出ております。いかがいたしましょう?」

「結界師を呼べ」

「はっ」


 少し待つと、慌てた様子ですぐに結界師がやってきた。


「おいどうなっている? まさかサボっているのではあるまいな?」

「と、とんでもない。俺はきちんと仕事をしている。しかし、いくら頑丈な結界を張っても、ドラゴンになど耐えられん。運が悪かったのだ。勘弁してくれ」

「本当だろうな?」

「もちろんだ。俺の結界の実力は知っているだろう? 前の結界師の頃にやってきていた弱小な魔物なら、俺の結界を通り抜けることはない。ドラゴンは例外だ。この街に、ドラゴンなど今までやってきたことは無かったろ? たまたまだ。もうこんなことはない」

「信じるぞ」




 しかしそれから何度も凶悪な魔物が街に現れた。街に大きな被害が出ており、税収も下がる。そのうちワシも贅沢が出来なくなるおそれもある。ワシはすぐに結界師の男を呼び出す。


「キサマ、次はないと言ったではないか。この嘘つきめ!」

「ま、まってくれ。こんな凶悪な魔物が出るなど聞いていない。こんなの、結界で防ぐのは無理だ」

「……何故だ!? 何故急にこんなに凶悪な魔物ばかりが現れる!?」

「わ、わからない、すぐに調べる」

「早くしろ。すでに街ではデモが起こっている。軍隊にも甚大な被害が出ている。このままでは、民の反乱や他国の侵略でワシが王ではいられなくなる。急げ」




 数日後、結界師の男がワシの前に現れた。原因は突き止めたようだ。


「それで、原因は分かったのだろうな?」

「あ、ああ」

「なにが原因だ?」

「……結界だ。前任の結界師をすぐに連れ戻してくれ。前任が張った結界が、強力な魔物を遠ざけていたんだ。その結界が無くなったから、凶悪な魔物が街に入り込むようになってしまった」

「そんなものキサマが張ればいいではないか!」

「……無理だ。なんだあの結界。信じられなくらい複雑だ。あんな結界を張れる人間など、俺は1人も知らない」

「な、なんだと!?」


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