第16話 母が囚われる理由 ②

わからないけれど──何かが美由紀の意識に引っかかった。

「いない……え?……あれ……?確か……」


「じゃあ、お願いしますね?」

「ええ!大丈夫です、おばさま。ちゃんと出してきますから」

「でも……こちらにお返事くれればいいのにねぇ……まあ、うちの人もまめにポストなんか見る人じゃないし。娘が顔を出してくれるから、ちゃんと渡してくれてるとは思うんだけど」

「そうですね!きっと今日か明日にはお返事来ますよ!ところで、何か足りない物なんかありませんか?」

食い気味に返答する声に、思わずギクッとして美由紀は角を曲がろうとしていた足を止めてしまった。

「ええ?……そうねぇ。私の身の周りでは足りない物はないわ。でも……」

「じゃあ、父がデイホームから帰ってくるまでゆっくりしていてください!」

「ええ?でも、それじゃ……」

「ごめんなさい!私、もう出勤の時間なので!行ってきまーす」

「ええ……行ってらっしゃい……」


美由紀がこっそり見たのは駆け足に近いぐらいの早歩きで去る後ろ姿だけだったけど、それを困惑した表情で見送っていたのは母だった。

あれは──あの人は───

「デイサービス!」

「えっ?!」

美由紀の大声に、今朝母に見つかったきっかけを知らない幸一は戸惑う。

「あの人……お母さんがいた家から出てきた人……顔は見てないけど、絶対私より若い人だった……『父がデイホームから帰ってくるまで』って……」

「デイサービス……」

「でも……変なのよね。お母さん、その人のことは一言も言わなかった。家にいるともいないとも、どこに行ったとか……変……もしかして……」

ひとりで納得したり疑問を湧き上がらせたりする妻を、幸一は黙って見守った。


もしかして──『届かない手紙』に書いてあるの?


「ううん……違う、お母さんは『吾郎さんのことは書かなかったはず』って言ってたし……じゃあ、一体何を書いたの?」

手紙には携帯電話が壊れたこと、修理に時間がかかると言われたこと、だから『まだ帰れない』と書いたらしいが、夫だった人が今どうしているのかと書いたかどうか──母はそれを理由に『帰れない』とは言わなかったのだ。


じゃあ──『吾郎』という人は、一体どこにいるのだろう?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る