第39話
タイホールと話し合って暫くするとガサガサと茂みを掻き分けてタイホールの仲間の斥候が現われた。
「敵影発見しました。事前情報通り恐らく1000人規模でしょう。先頭を徒歩の傭兵達が歩いており、後方には騎乗した者達が居るようです。」
「分かった。それではハントさん、手筈通りに。」
「分かった。伝達を頼む。」
タイホールが口笛を吹くと、タイホールと仲間達は後方へと去って行った。
「これで、一人か…。」
俺はガサガサと茂みからでて街道の真ん中に立って煙草に火を付ける。
気配察知にぞろぞろと沢山の気配が入ってくる。周辺に他の気配はないから奇襲は無さそうだ。
鷹の目を発動してグッと目を凝らすとうっすらと武装した集団が見える。
「さて、やるか。」
「ふぅ~。」と煙草の煙を大きく吐いてから口に咥える。
バックパックから魔弓を取り外し左手に持つ。
矢を番えるように構えて魔力を流し始める。
イメージしろ。レインアロー。豪雨。礫は大きく、一気に降り注ぐ。まるで地球で起きたような集中豪雨のように。でも、籠めすぎるな。帰りの魔力は取っておく必要がある。そういえば、今まで魔力が枯渇したことが無いな。
バチッ。バチバチッと魔力の矢が音を出し始める。黒い稲光のようなバチバチとした光が矢に纏わりついて徐々に太くなっていく。
チャージレインアローとでも名付けようか。あいつらは敵だ。クーチの敵だ。そして、俺の敵だ。容赦する必要はない。魔力はどうだ?まだ大丈夫だ。
バリバリッ!バリバリバリバリッ!!!黒い矢が暴れ始めた。
鷹の目にはこちらを指さして喚いている敵が写っている。
これ以上魔力を籠めるのは難しそうだな。
こちらに走り出した敵への目測を誤らぬように慎重に、バリバリと今にも暴れだしそうな矢を空へと向けていく。
「今日がお前らの最後だ。”チャージ・レインアロー”」
ドンッという鈍い音ともに矢を放つ。その反動でズザァと少し後ろに下がってしまった。
バリバリと音を立てながら黒い矢はバンデットレイヴンの遥か頭上へと打ち上がる。俺の手から空へと一本の黒い棒が伸びたように見えるそれは、放物線の頂点でボッという音と共に弾けた。
静寂、そしてザァァァァァァという音と一緒に黒い礫が敵へと降り注いだ。
先頭を走っていた敵が倒れる。その横を走っていた傭兵も。後ろを走っていた傭兵も。更に後ろを走っていた馬も暴れだす。
ザァァァァァァという久しぶりに聞く雨のような音が止むと静寂が訪れた。
「ふむ。思ったよりも倒せたか。」
前方を見渡すと多くの敵が倒れ伏している。
「うぉおおおおおおおおお!!!!」
突然の雄叫びが響く。
「てめえら!!!ビビってんじゃねえ!!あいつだ!!あいつはぜってぇ殺せ!!!」
集団の後方にチラリと見える、大きい戦斧を振り回しているスキンヘッドの大男が叫んでいる。
「「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」」
微動だにしていなかった敵が、雄叫びをあげてこちらに向かって走り始めた。
「ふぅ~。」と咥えていた煙草の煙を吐き出して、バックパックに魔弓を掛けてクルリと後ろを向く。
「さて、走るか。」
全力で身体強化を掛けて一気に走り出す。レベルが上がったのか先ほどまでよりも身体が軽く感じる。
「これなら間に合うか。」
グングンと後ろに流れていく景色を見ながら、気配察知で敵の気配に追いつかれないように走る。
さすがに全力疾走の馬よりは早く走れそうもない。何人かの気配がグングン近づいてくる。
走りながらバックパックから魔弓を外して構えて魔力を流す。
「”ショットガンアロー”」
グングンと近づいてくる気配の方へチラリと視線だけ向けてすぐに矢を放つ。
ヒヒーンという馬の嘶きと同時にグエっという悲鳴も聞こえてきたのでうまくいったようだ。
そうやって追いつかれない様に離れすぎないように繰り返していると、ようやく本隊と思わしき集団が見えてきた。
チラリと森の方に視線を向けるとタイホールの仲間らしき人影がそのまま走れという合図を送ってくる。
「よしっ。」
そのまま真っ直ぐ本隊に向かって走っていると、ドォンッ!ドォンという爆発音が後ろで響き始めた。
「よっしゃ野郎ども!突撃ぃいいいいい!!!!」
クマズンの威勢の良い掛け声と同時に「「「「「うぉおおおおおお!!!!」」」」」という雄叫びを上げて味方の傭兵達が走り始める。集団の先頭に混ざるキクリを見ながら方向転換をして遠距離攻撃部隊に合流する。
「ふぅ。」と煙草に火を付けて煙を吐き出して水を飲む。
やっと落ち着いたところで戦況を見詰める。
さすがにこちらの方が優勢のようだ。
遠距離攻撃部隊の邪魔にならないように集団の後ろの方を周りながら、魔女のような尖がり帽子を被ったマルを探す。すると集団の端の方で火の矢で牽制を続けている姿が目に入った。ホッと安心しながら近づいていく。
マルが見える位置に着いたので、魔弓を構えて魔力の矢を放ち始める。
ヒュッ、ヒュッと確実に頭を射抜いて仕留めていく。
その時だった。
ズドォン!!という大きな音と大量の土埃と共に、混戦状態だった集団の真ん中から人が吹き飛んだ。
「なんだ?」
土煙が薄くなっていくと、そこには巨大な戦斧を担いだ大男と、巨大なメイスを地面に叩きつけて大男が居た。
「なめやがってぇぇぇぇぇっ!!!」
「小賢しいんだよ雑魚がっ!!!」
その大男達が雄叫びをあげた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます