第29話


4人で何事も無く九層へと降り立つ。


「さて、少し魔物を探してみよう。」


気配察知を使いながら傭兵の気配を感じない方へと歩を進める。

すると前方に4体のゴブリンらしい気配を感じる。


「あちらから4体のゴブリンらしき気配だ。後ろは大丈夫だからキクリこっちに来てくれ。」


キクリが列の後ろから前に無言で出てくる。

それと入れ替わるように後ろへ下がる。


「俺が1体を倒す。残り3体をキクリとマルの魔法でお願いしていいか?」

「分かりました。」


キクリが左手に盾、右手にメイス、マルが右手の杖を構える。

俺は魔弓を持ち、黒い魔力の矢を番える。


視界にゴブリン達が入ってきた。

「ふっ」と息を吐いて矢を放つと右端のゴブリンの頭に命中する。


するとキクリがメイスで盾をガンガンと打ち鳴らす。


「「「「ギャギャギャ!!」」」


ゴブリンが音に反応して駆けだした。


「”火の矢”」


マルが唱えると2本の火でできた矢がゴブリンへと向かっていく。

キクリに向かっていた3体のゴブリンのうち、2体の心臓を撃ち抜くように火の矢が刺さってゴブリンが倒れる。

すると鎧をガシャガシャと慣らしながらキクリがゴブリンへと近づいていく。


「グギャ!!」


ゴブリンが飛び掛かるのを「フンっ」とシールドバッシュを行って空中に浮き上がらせると、上段からメイスを振り下ろした。

グシャという鈍い音を立ててゴブリンの頭が潰れた。


「凄いですね…。」

「ああ、凄まじいな…。」


クーチと思わず感想を呟いていると


「こんな感じですね。キクリが前で注意を集めて後ろから僕が止めを刺すのが定石です。」

「ふむ。ふと思ったんだが、”共有”という魔術があるならキクリとレベルの差は生まれなかったんじゃないか?」

「それはですね…。あの傭兵達とはそこまでする気が無かったので…。」

「そうか。分かった。十層も突破できると思うか?」

「恐らく問題ないと思います。部屋に入ったら敵が待ち構えているので、僕の魔法とハントさんの弓で取り巻きのゴブリンを削っていきましょう。その間キクリにはゴブリン達の注意を引くように立ち回ってもらって、キクリが怪我をしたらクーチさんに治癒してもらえれば余裕をもって戦えると思います。」

「分かった。ありがとう。それじゃあボスの前で休憩してから挑むとしよう。


その後、1度だけ魔物と戦闘する機会があったが、俺とマルで遠くから攻撃してすぐに終わらせる。

そして十層手前の階段までついた。


「この階段を降り切ると、階段へ戻る道が塞がれますのでここが休憩場所ですね。」

「それじゃあ一休みしよう。」


それぞれ壁に寄りかかって水筒から水を飲む。俺は煙草に火を付けて煙を吐き出す。


「マル、何か注意することはあるか?」

「入ると、奥にゴブリンリーダーがいます。それを守るように20体のゴブリンが前に立っています。まずはそこに僕が”火球”を投げます。あとはさっきの打ち合わせ通りで大丈夫ですね。武器を持っているゴブリンが居たらそれは優先して倒しましょう。」

「分かった。それじゃあマルは右、俺は左、キクリを中央で後ろにクーチで行こう。キクリは無理するなよ。クーチも危なくなったら言ってくれ。あと全員、怪我をしたら無理せず下がるように。」

「「分かりました。」」


最後に大きく煙を吐き出して煙草を燃やし尽くす。


「さて、行こうか。」


先ほど説明した陣形で階段を降りていく。それぞれが武器を構える。

階段を降り切るとズゥンという音と共に階段が塞がれた。

前方には無数の気配を感じる。どうやらボス達のようだ。


「いきます!”火球”!!」


ゴゥッという音と共にバランスボールぐらいに膨れ上がった火の玉が真っ直ぐにゴブリンの集団へと飛んでいく。

それを追うようにキクリが走り出した。俺は少し前に出て、魔弓を構え魔力の矢を番える。


ドゥン!という火球の炸裂した音を聞きながら前方の気配に注意する。どうやら半数は削れたようだ。

ふっと息を吐きながら気配を感じる方向へ矢を放つ。火球で起きた土埃が収まると、奥にゴブリンを二回りぐらい大きくした魔物が居た。あれがゴブリンリーダーだろう。イラつくようにガァァァッァァ!雄叫びをあげている。

火球で空いたスペースにはキクリがガシャガシャと音を立てながら向かっている。盾とメイスでもガンガンと音を立てている。おかげでゴブリン達の意識はキクリに向かっているようだ。


見ているとゴブリン達の中に棍棒のような物を持ったゴブリンと弓を持ったゴブリンが目に入った。

慌てずに素早く魔力の矢を番えて放つ。一射目、二射目どちらも綺麗に頭を射抜いた。


左の方でもマルが放った”火の矢”が的確にゴブリンを射抜いている。


「グオォォォォォォォォォ!!!」


ゴブリン達が成すすべなく倒れていく様を見ていたゴブリンリーダーが雄叫びをあげて右手に持ったデカい棍棒を振り回しながらキクリに向かって行った。

ブォンという大きな風切り音をさせてゴブリンリーガーの棍棒がキクリに向かっていく。


ガシンという鈍い音を立ててキクリが盾で棍棒を受け止める。


ちょうど取り巻きのゴブリン達を片付けたので、チャンスと思い、ゴブリンリーダーの顔を目掛けて魔力の矢を放つ。それに気づいたゴブリンリーダーは棍棒を振り回して魔力の矢を霧散させる。


「おお、そうやって防がれる場合もあるのか。」


思わず感心してしまう。その隙にキクリがメイスでゴブリンリーダーの膝に一撃を入れる。左からはマルの火の矢が飛んでいきゴブリンリーダーに右腕を射抜いた。


「グアアアアアアアアアアア」


ゴブリンリーダーは悲鳴を上げ、左手に棍棒を持ち替えるとブンブンと我武者羅に振り回し始めた。

その間に黒い魔力の矢に魔力を注ぎ込む。

バチバチと魔力の矢が音を立て始め、形状も太くなっていく。


「ふっ!」


息を吐いて矢を放つ。

ヒュッという音とバチバチという音を鳴らしながら一直線にゴブリンリーダーの振り回す棍棒を破壊し、頭部へと命中した。

ボッという鈍い音と同時にゴブリンリーダーの頭が消し飛んだ。


「ふぅ~。終わったか。」

「「…」」

「ハントさん!やりましたね!」


クーチの喜びの声とは正反対にマルは目と口をあんぐり開けていた。


「ハハハントさん?今のは‥?」

「ん?あれか?魔力の矢に魔力を多めに注ぎ込んだんだ。ちょっと威力が過剰だったがまあいいだろう。」

「な、なるほど。とんでもないですね(あの威力は僕の魔術でも出せないな…)。」

「…宝箱…。」


キクリに言われてゴブリンリーダーの居たほうを見ると既に魔物は霧散しており討伐部位らしきものと、木製の宝箱が落ちていた。


「あれは、開けても大丈夫なのか?」

「ええ。迷宮ではボスを倒すと宝箱が現れます。何が入っているかは開けるまで分かりませんが十層だと傷薬やドルグが多いですね。」


一応、職人の目で見てみる。


迷宮の宝箱:罠無し 鍵無し


シンプルな説明だ。


「罠も無いようだし開けてみるか。」

「あ!私開けてみたいです!」

「いいぞ。」


クーチが珍しく自己アピールしたのでクーチに開けてもらう。

ガバと蓋を上げると中にはそこそこのドルグが入っていた。


「50000ドルグぐらいでしょうか?」

「ああ、それぐらいだろうな。ギルドに戻ってタグに入れてもらおう。さて、素材も拾って一層へ戻ろうか。」


ゴブリンの落とした素材を拾って皮袋に仕舞い宝箱の横に現れていた魔法陣に全員で乗る。

フッと目の前の景色が切り替わると、迷宮に入ってすぐの広場に着いた。そして足元には未だに魔法陣が見えている。


「これは消えないのか?」

「これは十層以上を攻略した人にしか見えません。今回だと十層を攻略したので、次にこの魔法陣に乗れば十一層に移動できます。」

「おお、それは便利だな。」

「そうですね。十一層からは魔物も増えますし、傭兵も減るのでレベル上げも進むと思いますよ。」

「そうだ、クーチ、後でステータスを確認してみよう。」

「はい!」


そんな会話をしながら傭兵ギルドへと戻る。

傭兵ギルドでドルグと素材の報酬を4人で分ける。


「さて、俺達は猫の耳亭に戻るが2人はどうする?」

「僕達は今朝、宿を引き払ったので一緒に行ってもいいですか?」

「ああ、もちろんだ。」


少年のようにニコニコしているマルと、無言ながら嬉しそうなキクリを連れて一緒に宿へと戻る。


「おかえりなさーい!」


宿に戻ると食堂の手伝いをしている猫耳少女のキャルの元気な声が響く。


「あ!お客さんですか?少々おまちください!お母さーん!新しいお客さんだよー!」

「キャル~!お客さんの前では女将さんだって言ってるでしょう~?」

「あ!女将さん!新しいお客さんです!」


ビシッと女将さんに敬礼をするような態勢で固まるキャルを見て思わず吹き出してしまう。


「あらあら、おかえりなさい。」

「ああ、ただいま。こっちは今日から泊りたい2人なんだが部屋は空いているか?」

「あらあら、ありがとうございます。ちょうど空いているので大丈夫ですよ~。」

「それじゃあ後は頼む。マルとキクリ、夕食は一緒に食べよう。」

「分かりました!」


俺とクーチは先に預けていた鍵を受け取り部屋へと戻る。

バックパックを下ろして、生活魔法のクリーンを全部に掛けてサッパリとする。

椅子に腰かけて煙草に火を付けて煙を吐き出す。


「ふぅ~。」

「ハントさん、良かったですね。良い2人で。」

「そうだな。そのうちバックパックのことも話して荷物は全部持ってやるのもいいかもしれんな。」


ふぅ~と煙を吐いて、良い仲間に出会えたなと思う。

実際にマルの魔術とこれまでの経験、キクリの前衛としての能力は非常に役に立った。それに、信頼できそうな傭兵に出会えるというのもなかなか無い。今まで会った傭兵だと荒鷲団ぐらいか。


「そのうち、仲間が増えたら傭兵団を作るのもいいかもしれませんね。」

「…傭兵団か…。」

「はい。5名集まったらギルドで申請できますよ。」

「…そうか、それもいいかもしれないな。だが、まずは飯にしよう。」


ガシガシとクーチの頭を撫でて一階へと降りる。


4人で座れるテーブルへと座り、蒸留酒と果実酒と夕食を頼む。

煙草に火を付けてぷかぷかと煙を吐き出していると、マルとキクリも降りてきた。マルは帽子を被っておらず、キクリも鎧を脱いでいて少し新鮮だった。

手を上げてここに座るように促す。


「ビールを2つと夕食を2人分お願いします。」


マルが注文をする。

少しして酒が先に運ばれてくる。


「よし、それじゃあ、今回の出会いと十層の突破に乾杯しよう。乾杯!」

「「「乾杯!」」」


4人でグラスを打ち鳴らして酒に口を付ける。

マルとキクリは半分ほどをゴクゴクと飲み干した。


「あー、美味しいですね。」

「…(コクコク)」

「獣人はビールが好きなのか?」

「ええ、南は熱いですから、冷えたビールが喉でシュワシュワする感じがたまらないんですよね。蒸留酒も飲みますが香りが強すぎると酔いやすいので、ビールがちょうどいいんです。」

「なるほどな。」

「ええ。それよりもハントさん、クーチさん、今回はありがとうございました。おかげでキクリものびのびできそうです。」


そう言って2人で頭を下げる。


「気にするな。俺達が関わったのは俺達だし、一緒に行こうと決めたのも俺達だ。何も気にする必要はない。」

「「ありがとうございます」」

「受け取った。それじゃあこの話しは終わりだ。飯を食って、酒を飲んで明日に備えよう。全員レベル20を目指すぞ。」

「「「はい!」」」


4人で賑やかに過ごしてからそれぞれの部屋に戻った。

寝ようかという時に、隣の部屋からキクリの可愛らしい声が聞こえたのは内緒にしておこう。


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