第27話
「なんだてめえは!!俺たちに逆らおうってのか!!」
食堂の方から響いた怒声に嫌な予感を覚えつつクーチを待たせているカウンターの方へと向かう。
案の定だった。
ローブを着た綺麗な金髪の女性が、鎧姿で倒れている傭兵を庇うようにして立っている。
「ですから、なぜこのような事をするのですか!どう見ても体力の限界を越えているじゃないですか!!」
クーチが怒っているところを初めて見た。
「あんだと!いいんだよこいつは!愚図でノロマなんだから雑用ぐらいしかする事がねえんだ!部外者は引っ込んでろ!」
「いいえ!貴方達は迷宮でも酷い扱いをされていたじゃないですか!どうしてそのような事をするんですか!仲間じゃないのですか!!」
尚も言い争いをしているクーチの後ろに近づくと、相手の集団に居る魔女のような恰好をした傭兵と目が合った。どういう訳かペコリと頭を下げられる。あっちはあっちで話を聞く必要があるな。軽く頷き返す。
「んだと!てめえ!!」
剣を腰に下げた男がクーチに殴り掛かろうとしたので慌てて間に入って腕を掴む。
「俺の仲間に何をするんだ?」
「ぐっ!うるせえ!離しやがれ!」
身体強化を少し発動して腕を掴み続ける。
「周りを見てみろ。注目の的だぞ。」
男にだけ聞こえるように呟くと、男は周りを見渡して顔を真っ赤にした。
パッと男を押すようにして腕を離してやると、弓を持った男と二人で慌ててギルドを出て行った。
「ふぅ~、クーチ、あまり無茶をするな。」
殴り掛かられたせいで顔を青褪めさせてプルプルと震えるクーチの頭に手をやって4人掛けのテーブル席に座るように言ってから鎧姿の傭兵を立ち上がらせる。
「大丈夫か?」
ふらふらとする傭兵も椅子に座らせて果実水を頼む。
「そっちもなんか飲むか?」
「僕は珈琲で。」
魔女のような帽子を被った傭兵もその席へと座らせる。
全員の飲み物が揃ったところで煙草に火を付けてふぅ~と大きく煙を吐き出す。
「俺はハントだ。こっちはクーチ。」
「僕はマル、一応言っておくけど男だよ。こっちの大きなのがキクリ。」
そう言ってマルは帽子を取った。
帽子の中から現れたのは獣の耳だった。
マルは茶色い髪の毛に黒い瞳、少しあどけなさの残る顔立ち、小柄な体格も相まって少女のようにも見える。
声変わりする前の日本人の男の子って感じだな。
「狐?か?」
「そうだよ。キクリは熊だね。」
キクリの方は緑がかった短髪の上に丸い耳が飛び出していて、緑の瞳が特徴的だ。そして何より大きい。荒鷲団のクマズンぐらいの大きさがあるだろうか。今はゴクゴクと果実水を飲んでいる。
「それでなんであんなことに?」
「僕たちはトラスの方から来たんだ。」
トラスというのは大陸の南にある都市だ。
その近くの獣人の村で二人は育ったらしい。そして17歳になって2人で傭兵として名を上げよう、そのためにレベルアップだ!とメイズにやってきたそうだ。
幸いにも、マルは魔術師としての才能があり、魔力操作や魔力効率というスキルに魔術全般に造詣が深く、キクリは、盾術、棒術、身体強化という完全に前衛としての才能があった。
そしてメイズに来てからも2人で迷宮に潜っていたらしい。そこに声を掛けてきたのがあの2人を含む3人組だったそうだ。
曰く、十層のボスは2人じゃ難しい、俺たちと一緒に5人で潜ろうと。最初は丁寧で連携も悪くなかった為、しばらく5人で迷宮に潜りながらレベルを上げていったそうだ。今のレベルはマルは19、キクリは14らしい。レベルの差はマルの方が止めを刺す回数が多いからだろうという事だった。
そしてレベル10ぐらいの頃に十層のボスに挑んだ時、事故が起きたそうだ。
キクリが盾とメイスを構えてゴブリンリーダーの注意を引き付けている間に普通のゴブリンの方をマルの魔術と剣士2人と弓使いで殲滅する予定だった。ところが剣士2人のミスで斧を持ったゴブリンが一体、キクリの方へと向かってしまう。ゴブリンリーダーとギリギリで渡りあっていたキクリはそれに気付かなかった。そして、それを庇おうとした剣士が死んでしまったんだそうだ。
その後は、何とかマルの魔法でボス戦に勝利したものの剣士と弓使いは激高した。キクリのせいだ。キクリが悪い。そう言ってキクリを責め始めた。
マルはキクリを庇って反発したが、キクリ自身がそれを断り、謝罪して荷物持ちでもなんでもしようと言ってしまったのが今の関係性の原因らしい。
「キクリは嫌じゃないのか?」
「…」
「キクリはもともと無口だから。僕は今の状態は良くないと思っているよ。」
「抜けられないのか?」
そう問うと、キクリが俯いた。
きっと抜けたい気持ちはあるのだろうが、実際に人の死に責任を感じている部分もあるんだろう。
「もともと僕たちは十層のボスを倒すまで組もうって話してたから、それを倒した今なら抜ける事もできると思う。」
「…。」
「ハントさんどうにかできませんか?」
「そうは言ってもな。こればっかりは本人から伝えるしかないんじゃないか?」
「そうですよね~。う~ん。」
「まあ、でも、だ。マルとキクリがこれからも傭兵としてやっていきたいなら今の関係は改めたほうがいいのは間違いない。その内、キクリの無理が祟って前衛が崩れてしまえば無事では済まないと思うぞ。」
「僕もそう思います。僕は非力ですから。」
「…」
「まあ、2人で話し合ってから、さっきの2人に話した方がいい。困ったことがあったら言ってくれ。俺もクーチももう無関係ではないからな。」
「分かりました。ありがとうございます。早速今晩にでも話してみます。」
「そうだな。俺たちは猫の耳亭という宿に泊まっている。」
「分かりました。ちなみになぜこんな話を聞いてくれたんですか?」
チラリとクーチを見てから応える。
「クーチが怒るなんてなかなか無いからな。それに仲間を大事にしないやつは好きじゃない。」
「そうですか…。ありがとうございました。」
「気にするな。庇ったのも俺達だし、話を聞いたのも俺達だ。何も気にしなくていい。」
マルとキクリはペコリと頭を下げるとギルドから出て行った。
煙草の煙を大きく吐き出して一息つく。
「さて、腹が減ったな。クーチ、宿に戻ろうか。」
「はい!」
ギルドから出て宿への道を歩く。
「ハントさんは変わらないですね。」
「何がだ?」
「私を助けてくれた時も、見つけたのが俺で、保護したのも俺だ、だから気にするなって優しく言ってくれました。」
「そうだったか?」
「はい。なのできっとあの2人も大丈夫だと思います!」
「そうか。」
機嫌が良さそうなクーチを見ながら宿へと戻る。
「あらあらおかえりなさい~。もうすぐ夕食の時間ですよ~。」
「ああ。弁当も美味かった。荷物を置いてサッパリしてから来るよ。」
女将さんから預けていた鍵を受け取って部屋へと戻る。
荷物を下ろして二人でシャワーを浴びてスッキリしてから一階へと降りる。
「蒸留酒と果実酒、夕食を2人分頼む。」
「はーい!」
今は猫耳少女が手伝う時間のようだ。
猫耳少女の元気な声にほっこりとしながら煙草に火を付ける。
少し待つとお酒と食事が運ばれてきた。
そのあとは、美味い酒と食事を楽しんでから部屋に戻り、2人で楽しんでから眠った。
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