第23話
窓からの光が眩しい。
さて起きるか。
「クーチ、朝だぞ。」
「んふぅ…はい…。おはようございましゅ。」
「ああ。おはよう。」
まだ寝ぼけているクーチを起こしてシャワールームへと連れて行く。
2人でシャワーを浴びてスッキリして着替える。
「さあ、朝食を食べて出発しよう。」
クーチに声を掛けて1階へと降りる。
「女将さん、朝食を頼む。アイス珈琲と果実水も。」
「あいよ!ちょっと待ってな!」
いつも通りの威勢の良い返事を聞けるのも今日が最後かとしみじみしてしまう。
煙草に火を付けて煙を吐き出す。
「メイズ、楽しみですね。私も初めてです。」
ニコニコとクーチが話し掛けてきた。
「そうだな。まあ、危険な事をしないように気を付けよう。」
「はい!怪我をしたら私がすぐに治しますね!」
「ああ。頼むよ。」
笑ながら返事をする。
「朝からいちゃいちゃしてるんじゃないよ!はいよ朝食!弁当もサービスで作っておいてあげるから後で持っていきな!」
「おお、助かるな。ありがとう。」
「「いただきます。」」
朝食に手を付ける。
食べ終わったら部屋に戻って荷物の用意をする。と言っても既にバックパックに荷物は詰め込んであるので背負って出るだけだが。
部屋に向かって世話になったと呟いてから鍵を閉めて一階に降りる。
「お、来たね!2人とも無茶するんじゃないよ!」
「ああ。また顔を出すよ。」
「クーチちゃんも、いつでもここに戻ってきていいからね!」
「はい!セーラさん、ありがとうございました。」
2人で頭を下げて宿を出る。
「さて、今日は南門からだな。」
ギルドのある中央広場の方へは向かわずにそのまま南門へと向かう。
俺がこの世界に来て最初に来た以来だ。
門番にタグを見せて街を出る。
街道に出ていつも通りに煙草に火を付けて紫煙を吐き出す。
「さて、クーチは魔力循環をしながら進もうか。」
「はい!」
杖を握り魔力を循環させ始めたクーチを見ながら気配察知を発動させる。
今のところ怪しい動きをしている気配は無い。
そのまま二人で歩き始める。
「そういえば、魔力は物に流すことはできるのか?俺の魔弓やクーチの杖のように。」
「はい、ただ元々魔力との親和性が高い素材じゃないとかなり難しいと思いますよ。」
口に煙草を咥えながら少しだけ身体に魔力を循環させてみる。
スキルに魔力操作があるから特に抵抗もなく体中を魔力が満たす。ふと思いつきで口に咥えた煙草に魔力を流そうとしてみる。するとググッという抵抗感はあったものの一応魔力が通ったようだ。
ふむ。煙草はいけると。ん?煙はどうなんだ?いけるか?
少し集中して煙草の煙にも魔力が浸透するように意識してみる。
「むむっ。」
なかなか入りにくい。入らないというよりは細かい繊維に魔力を通すようなイメージだ。
何度か試してみるが難しい。
「ふぅ~」と煙を吐いて一度集中を解く。
あ、と思い、もう一度煙を吸い込む。そして体の中にある状態で魔力を流してみる。
いけたのか?
ゆっくりと「ふぅ~」と煙を吐き出すと、モクモクと雲のようになった。普段ならすぐに空気に溶けるのだがそのままの状態を維持している。
「おっ。」
手で触るとふわふわとした弾力があった。
「ハントさん!なんですかそれ!!」
「やってみたらできた。」
「触ってみてもいいですか?」
「ああ。」
そのままクーチに渡すとふわふわとした手触りを楽しんでいるようだ。
「ハントさんの匂いがします。」
そう言って匂いを嗅いだり、抱いてみたりしている。が、30秒ほどで霧散した。
「練習したら面白いかもしれん。」
少年週刊誌で昔流行った、実を食べる系の漫画みたいなことができそうだ。
歩きながら、クーチは魔力循環、俺は煙に魔力を流しながら気配察知をする。
暫くそんなことをしながら歩いているとぐぅ~という音が聞こえてきた。
「…お腹が空きました…。」
顔を真っ赤にしたクーチが恥ずかしそうに言って来た。
「おお。もう昼か。飯にしよう。」
少し早い気がしたが街道から外れて草の上にバックパックを下ろす。バックパックに入っている野営道具からシートを出して地面に敷いて弁当を置く。調理道具から湯を沸かすポットのような物を出してウォーターで水を入れる。そこら辺に落ちている適当な石を拾って丸く囲んで枯れ木と枯草を中心に置いて火を付け、その上にポットを置く。そして、食料品店で買ったお湯を入れるだけのインスタントコーヒーのようなものの粉とクーチ選んだ紅茶の粉を取り出す。
シートに腰を下ろして女将さんからもらった弁当を開けるといつもより多めにサンドイッチが入っていた。
「「いただきます。」」
「魔力循環をしているといつもよりお腹が空きやすい気がします。」
モグモグと口を動かしながらそんなことを言ってくる。
「そうなのか?」
「はい、まだお昼前ですし、普段ならこんなことは無かったんですけど。」
お腹が鳴ったのが恥ずかしかったのか少し頬を染めている。
「関係あるかもしれんな。まあ、これからも遠慮せず言ってくれ。恥ずかしがらなくても大丈夫だ。」
「はい、ありがとうございます。」
お湯が沸いたので飲み物を作りクーチにも手渡す。
「こういうのもいいですね。のんびりしていて。」
「そうだな。」
時折ふく心地の良い風と草の匂いが心地良い。
「さて、のんびりするのもいいが、もう少し歩こう。明日には着きたいからな。」
「はい。」
出していた荷物をクリーンで綺麗にしながらバックパックに仕舞う。バックパックを背負って煙草に火を付ける。
「さて引き続き訓練しながら行こうか。」
「はい!」
2人で魔力を循環させながら歩く。
暫く歩いて日も暮れ始めた頃に、街道の脇が広場のようになっている場所についた。
ここがよく野営で使われる場所なのだろう。見晴らしも良く、街道沿いの為治安もよさそうだ。既に2組の野営しようとしている集団がいる。
ぺこりと挨拶だけはして、できるだけ2組に近づき過ぎないように野営の場所を決める。
「さて、ここにしよう。」
バックパックを下ろして野営道具と調理道具一式を取り出す。
クーチと二人だけなので、テントは張らずに、少し厚めのシートを敷いた上に雨風をしのぐターフを張る。
クーチにバックパックの中の食材を使って簡単な料理をお願いして、枯れ木と石を集めて回る。石で簡易的な竈を作りポットで湯を沸かす。
「ハントさん、こっちのお鍋にお湯をもらっていいですか?」
「ああ。」
湧いた湯を鍋に移して、余った湯で珈琲と紅茶を入れる。野営なので酒はやめておく。
ポットを竈から下ろして鍋を載せる。そこにクーチが用意した食材を入れていく。
俺はバックパックからパンを取り出して適当に切って皿に盛っておく。
煙草をぷかぷかと吸いながら待っていると少しづつ美味そうな匂いがし始める。
「できましたー!」
クーチにスープを盛ってもらい2人でシートに腰を下ろす。
「「いただきます」」
スープはシンプルなものだった。
「ん。美味い。これ、女将さんに教わったのか?」
「はい!セーラさんの料理が美味しかったので大体の味付けは教わりました!」
「そうか。美味いな。」
「えへへ。」
結局パンもスープも残さず平らげて、後片付けをする。片付けを終えてふぅと腰を下ろすと、クーチが新しい珈琲と紅茶を入れていてくれた。
「ありがとう。」
礼を言って珈琲を啜る。煙草に火を付けて「ふぅ~」と大きく息を吐く。周りはもう真っ暗で、焚火の明かりしかない。ふと空を見上げると地球と同じように星が瞬いていた。
「綺麗だな。」
思わず呟いてしまう。
「そうですねえ。」
「クーチはこれから、何かやりたいことはあるのか?俺はとりあえず大陸を回ってみようと思っているんだが。」
「そうですね、考える余裕も無かったのでまだよく分からないですが、できればハントさんの横でハントさんと同じ景色を見れたらいいなって今は思ってます。」
「そうか。」
「はい!」
そう言ってにっこり笑うクーチに微笑み返す。
この笑顔を守ってやらなきゃいかんな。
「強くなろうな。」
「はい。」
2人でしみじみと頷きあう。
「さて、見張りなんだが先にお願いしていいか?何かあったらすぐに起こしてくれ。あと無理はするなよ。少しでも様子がおかしかったり眠くなったら起こすんだ?いいな?」
「分かりました。」
念のため気配察知を発動させる。周囲に異変が無い事を確認してからバックパックを枕にして、目を閉じシートに横になった。
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