第16話
いつも通り朝の用意をして宿を出る。
昨日のうちにブルクスには情報を共有した。
後は俺次第だ。
気配察知を発動しながら西門へと向かう。
いつもより少しだけ多く気配を感じながら西門を出て煙草に火を付ける。
「クーチ、引き返すなら今だぞ。」
「大丈夫です!治癒は任せて下さい!」
気合の入った返事をしたクーチに苦笑を返して西の森へ向かって歩く。
街道の後ろのほうに3人組の気配を感じる。どうやらお仲間を1人増やしたらしい。
森への入り口で一服しながら鷹の目で3人組を見る。
昨日の2人組ともう一人槍を持った男がいた。
「さて、敵さんは3人に増えたがやる事は変わらない。大丈夫か?」
「はい!大丈夫です!」
そのまま普段通り薬草と毒草を採取しながら森の奥へと進んでいく。
途中で、北の方にウルフ3体の気配を察知したのでそちらに向かって進む。
「アレを倒すぞ。」
「はい。」
いよいよという意味を込めてクーチに指示を出しながら3人組の気配を探る。
3人組は少し離れた位置で様子を伺っているようだ。昨日の盗み聞きした会話からも分かる通り、金髪のやつが気配察知でも持ってるのだろう。
魔弓を構えて魔力の矢を番える。
一射、二射と放つとクーチが杖を構えて走り出す。
その間に魔弓を短剣に持ち替え、フォローに回る。
クーチがウルフを殴り、止めを刺すと手早く皮を剥ぎ取って皮袋に詰め込み、バックパックに仕舞う。昨日のうちにバックパックが特別製だからクーチの荷物を入れても平気だという話はクーチにしている。
「それじゃあまた後で。」
クーチに手を振ってその場から一人で移動する。
ーークーチーーー
ガサガサと森の奥へとハントさんが離れて行きました。
ここからは私の番です。
少し疲れたので木に寄りかかり、水筒から水を飲みます。
ふぅ~。水が美味しいですね。かなり歩きましたから。
昨日、思いがけず裏切り者のサクサを見た時はすごく動揺してしまいました。
父や母、仲間たちの事を思い出して悲しくなって。
逃げ回っていた時の事を思い出して怖くなって。
でもハントさんが優しく声を掛けてくれて。
抱きかかえられている時も父の事を思い出すような安心感があって。ハントさんはいくつなんでしょうか。普段の落ち着いた感じは私の父よりも年上のようですが見た目は私と同じぐらいか少し上ぐらいだと思いますが。
ハントさんがニヤリと笑って今回の作戦を話してくれた時は子供みたいでしたね。
「ふふっ」
いけません。笑ってしまいました。
ハントさんの薬草煙草の甘い香りと、私を見捨てないでくれた優しさと、宿の女将さんやギルドのブルクスさんと話している時の落ち着いた雰囲気を見ていると安心感があります。
なので、できればこれからも一緒に居たいと思いますが、ハントさんはどうなんでしょうか?
ソロだと言っていたのでチャンスはあると思うのですが…。
そんな事を考えているとガサガサとこちらに向かってくる音がしました。
ーーサクサーー
昨日は突然気配を見失っちまったが今日は1人増やしたからそうはいかねえ。
隙を見て男は殺してクーチを攫って帰らないとそろそろお頭も怒るだろう。
さすがにまだ死にたくねえ。
しかも死んだ理由がお頭に殺されたなんて笑えもしねえや。
お頭に治癒士を見つけてこいと言われて目を付けたのがあの傭兵団だった。
母親は北部でも有名ですぐに候補に挙がった。
んで、傭兵団に潜入してみりゃ娘も治癒士なのは予想外だったんだよな。しかも二人そろって美人だって報告したら早く連れて来いってな。
まあとりあえず失敗しちゃ命はねえからな。
斥候職の傭兵としてその傭兵団に入団した。あいつらは甘ちゃんで俺のことを疑いもせずに入団させやがったからな。まあ、あの傭兵団に居た時は女も好きに抱けねえし、酒も食料も少ねえわで碌でも無かったんだが、最後に団長を後ろから刺したときは笑ったぜ。
訳が分からないって顔をしてやがったからな。
んでせっかく母親と娘だけ攫ってうちの団の奴隷にしてやろうと思ってたのによ。
母親の方は魔法で自爆するし、娘は逃げて見つからねえし散々だぜ。やっと見つけたと思ったら色男と一緒に居やがるしよ。くそが。
攫ったら、途中で味見してから連れてってやろう。今から楽しみでしょうがねえや。
お、男の気配が離れて行くな。
これはチャンスだ。
「おい!男が離れて行ったぞ!行くぞ!おめえら!」
「「おう!」」
3人でクーチのところへと向かう。
「へっへっへっ。クーチちゃーん、みぃつけたぁ!」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら茂みから出る。
「へっへっへ、サクサの兄貴、こりゃ美人じゃないですか!アジトに連れ帰る前に味見しなきゃ損ですって!」
「もちろん俺が先だがな。」
「サクサ。父と母はどうしたのですか?」
「ああ゛。死んだに決まってんだろ。お前の親父は俺が後ろから刺し殺したし。お前の母親は時間稼ぎの為に炎魔法で自爆した。ったく、お前の母親も美人だからお頭が抱きたがってたのによ。自爆するからカンカンよ。まあ、その点、クーチちゃんは治癒しかできないからねえ、何の心配もないねぇ。」
小娘が顔を真っ赤にしてプルプルと震えてやがる。
まあいい、さっさと攫ってお楽しみといきますか。
「さて、それじ「がっ」」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ギリギリ気配を察知できる辺りまで来たら、隠密行動と気配察知と身体強化を発動してすぐに引き返す。
引き返してクーチのいる場所の近くの木に上って息を潜めて様子をうかがうとクーチは自分の水筒から水を飲んでいた。どうやら、間に合ったようだ。
「へっへっへっ。クーチちゃーん、みぃつけたぁ!」
様子を見ていると茂みからニヤニヤと汚い笑みを浮かべた男たちが現れた。
いや、1人だけショートソードと盾を身に着けた男は周辺を伺っているな。
倒すならあいつからだな。
「へっへっへ、サクサの兄貴、こりゃ美人じゃないですか!アジトに連れ帰る前に味見しなきゃ損ですって!」
槍を持った男が喋る。
「もちろん俺が先だがな。」
「サクサ。父と母はどうしたのですか?」
「ああ゛。死んだに決まってんだろ。お前の親父は俺が後ろから刺し殺したし。お前の母親は時間稼ぎの為に炎魔法で自爆した。ったく、お前の母親も美人だからお頭が抱きたがってたのによ。自爆するからカンカンよ。まあ、その点、クーチちゃんは治癒しかできないからねえ、何の心配もないねぇ。」
クーチが顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。
もういいだろう。もう見たくない。
魔弓を構え、黒い魔力の矢を番える。
ふぅと息を吐いてショートソードと盾を持った男に照準を合わせる。
「死ね。」
呪詛の言葉と共に矢を放つ。
「さて、それじ「がっ」」
ヘッドショット。
すぐに二射目を構えて放つ。
槍を持った男も何もできずに死ぬ。
ふぅと息を吐き木から降りてクーチの前に立つ。
「てててて、てめえ!よくもやりやがったな!」
サクサという男は腰から短剣を抜く。
「お前も死ね。」
冷たく殺気を籠めて言い放ち、魔力の矢を放つ。
ヒュッっと音がすると男の右腕を貫く。
「んぎゃ。」
醜い悲鳴を上げて男は短剣を落として尻もちを着いた。
「ったたたった助けてくれ!」
「そう言ったクーチの仲間たちにお前は何をした。」
魔弓を構えて、魔力の矢を番えて男に向ける。
「おおおっお頭からの命令だったんだ!もう二度としねえ!頼む助けてくれ!!」
そう言って後ずさる男に矢を向けたまま言う。
「行け。二度と俺たちに関わるな。次、見つけたらお前はそこの2人と同じように何もできずに死ぬという事を覚えておけ。いいなっ!」
男に向かって怒鳴ると「ひいいいい」と情けない悲鳴を上げながら男は右手を抑えながら走って行った。
トンっと背中に寄りかかられた感触がした。
「…ハント…さん。あり…がとうございます…ひっく。」
「クーチ、泣いている場合じゃないぞ。まだこれからだ。ここからが本番だ。」
倒した2人の荷物を検めて換金できそうなものとタグを取りバックパックに放りこむ。
「こいつらは魔物に処分させよう。」
「はい…。」
「行くぞ。」
煙草に火を付けて煙を吐き出す。
そしてクーチの手を取った俺は次の目的地へと向かう。
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