第11話


廃墟に戻ると既にタイホール達は戻っていた。


「すまない。遅かったか?」

「大丈夫ですよ。それより何かありましたか?」


心配そうな顔で声を掛けられる。

どうやら先ほどの気持ちが顔に出ていたらしい。


薬草煙草に火を付けて息を吐く。


「大丈夫だ。森の中で遺体を見つけてな。一応タグも回収できる分はしてきた。刀傷や刺さったままの矢があったから恐らく終われていた人達だろう。それ以外に痕跡という痕跡は無かったな。」


手に持った遺品の入った皮袋を上げて見せる。

そしてふうっと煙を吐き出す。


「そうでしたか。東は何もありませんでしたが北は蹄の跡が続いていました。恐らく拠点に戻ったか、話に出た村に戻ったのでしょう。特に野営をしたような跡も無かったので街を攻められる心配をする必要は無いのかもしれません。」

「そうか。」

「ええ、私たちは先に戻って報告しておきます。ハントさんはゆっくり気分転換しながらでもいいですよ。」

「大丈夫だ。一緒に行こう。」


手を振って問題無いと伝え、煙草燃やし尽くす。


タイホール達が頷き走り出すのに合わせて、皮袋は肩に担ぐようにして一緒に走り始める。

もちろん素のままだと置いて行かれるから身体強化を使ってだ。


置いて行かれないように走る。

すぐに西門が見えてきたので徐々にスピードを落としていく。

西門で全員のタグを見せて街へと入りギルドへと向かう。


ギルドに入りそのまま2階へと上がって朝打ち合わせをした部屋へと入る。

タイホールに座っているように言われたので椅子に座り煙草に火を付ける。


暫く待っているとタイホールとブルクスがやってきた。


「皆さんお疲れ様でした。タイホールさんには大体の事は聞きました。荒鷲団の皆さんは報酬はいつも通り団の方に出しておりますのでそちらでお願いします。ハントさんは、今回の調査の報酬10000ドルグに先日のお話の情報料として3000ドルグの合計13000ドルグですね。それとすいません。朝、支払うはずだったんですがゴブリンの巣の兆候の発見の確認が取れたので3000ドルグを追加です。タグを。」


言われた通りタグを出してドルグを入れてもらう。

タイホールたちは「また。」と言って部屋を出て行った。


「あとは、回収した遺品ですがそのまま持ち帰って頂いて大丈夫です。傭兵の遺品というのは回収できないことが殆どなのでこちらで確認する必要はありません。タグにドルグが仕舞われていても本人以外は使う事ができませんし、タグの持ち主本人がいなければ譲渡もできませんので。一緒にお墓に埋められるのが通例ですね。」

「分かった。」

「それと、ハントさんが助けた女性ですが普段から気を付けたほうがいいかもしれません。バンデットレイヴンはしつこいです。それこそ、常に探されていると思っていたほうが賢明です。」

「…そうか。ギルドで保護はできないのか?」

「ギルドで保護はできません。もし本人にギルドで働く気があれば雇用することはできますが、ギルドの外で常に護衛を付けておく訳にもいかないですし。個人の事情で傭兵に依頼するにもお金がかかりますからね。」

「荒鷲団はどうだ?治癒士の需要はあるだろう。」

「それはありますね。本人が望めば顔繋ぎはしましょう。」

「助かる。本人には説明しておく。」

「それでは今回の依頼はこれで終了です。またお願いします。」

「ああ。それじゃあまた依頼でも受けに来る。」


遺品の入った皮袋を担いで宿へと戻る。

宿に入ると


「クーチちゃんは部屋にいるよ!」


と女将さんから声を掛けられる。

礼を言って部屋へと上がる。

扉をノックして開けるとベットの上にクーチが座っていた。

昨日よりは元気そうだ。


「今、戻った。飯はちゃんと食べたか?」

「おかえりなさい。頂きました…。」


そうか、と呟きながらバックパックを下ろして腰のベルトを外してテーブルに置き、皮袋をテーブルの側に置く。

椅子に腰かけてポーチから薬草煙草を出して火を付ける。


「ふぅ~。」


と煙を吐いて水を飲む。


「さて、話があるんだがいいか?」

「…話し…ですか?」

「ああ。辛い話になると思うが…。」


クーチは少し顔を伏せて考えるそぶりを見せる。


「ゆっくりでいいぞ。」


そう伝えてぷかぷかと煙草を吸う。


「…聞きます。聞かせてください。」


僅かに潤んだ瞳と目が合う。

手はローブを強く掴んでいて少しだけ震えている。が、昨日よりは目に力がある。


「分かった。」


テーブルの側に置いていた皮袋から一つづつタグを取り出す。


「今日、廃墟周辺の調査の依頼を受けて行って来た。」


コトリ、コトリ、とテーブルにタグを並べていく。


「廃墟から少し離れた森の中で見つけた。」


タグをテーブルに置く音がやけに大きく感じる。


「簡単だが、穴を掘って弔って来た。クーチの仲間の物で間違いないか?」


コトリと最後のタグを置いてクーチを見つめる。


今にも崩れてしまいそうに震えながら、ギュッとローブを掴んでいた手を広げてテーブルに近寄ってくる。


一枚、また一枚と表面を確認していく。

綺麗な青い瞳から涙がこぼれ始める。

嗚咽を漏らしながらタグを握りしめて確認していく。


「…んぐっ…。はい…。わ…私の…仲間の…もので…す…。」

「そうか。」

「…はい。…ごめんなさい…みんな…私を守って…」


タグを全て抱きしめるように抱えて贖罪の言葉を呟いている。


「少し外す。ゆっくりするといい。」


そう声を掛けて、ポーチと短剣のついたベルトを手に部屋から出て扉を閉める。

少しだけさっきよりも大きな声で泣く声が聞こえてきた。


一階へ降りる。


「珈琲を頼めるか?」

「あいよ!ちょっと待ってな!」


薬草煙草に火を付けて大きく息を吐いて気分を落ち着ける。


今、ものすごく気分が悪い。

森で見た光景が頭に浮かんでくる。

思わずギリッと食いしばってしまう。


「なんて顔してるんだい。ほらこれ飲んで落ち着きな。今回はサービスしといてやるよ。」

「ありがとう。」


暖かい珈琲を飲んで煙草を吸い大きく息を吐く。

少しだけ気分が落ち着いてくる。


見ず知らずの他人の事とはいえ、今回の件は気分が悪かった。どちらかというとドライだった自分の性格だが、年齢が若返ったせいか、持病が無くなって生きられるからなのか、どうしても感情が出てきてしまう。

そして、関わってしまった以上は、せめてクーチには何事なく生きて欲しいと思う。

だが、街で普通に生活していれば、いずれバンデットレイヴンに見つかる可能性が高い。

じゃあどうすればいいだろう。俺は英雄でもなんでもないただの傭兵だ。神様からもらった道具はあるが、俺自身に特別な力があるわけじゃない。

ブルクスに話した通り荒鷲団に入団させるという手もある。治癒士の需要はかなり高いようだし、可能性はゼロではないだろう。それがこの街で生活するなら一番安全ではありそうだ。ブルクスの言う通り本人の考え次第だが。


あとは…


「俺も強くならないとな…。」


俺はそう呟いて大きく紫煙を吐き出した。

ゆっくり路銀を稼ぎながら旅をするつもりだったんだがな。

せめて自分の身と周りの人間ぐらいは守れるようにならなければと思う。


よし、明日からは討伐の数をこなそう。レベル10を目標に暫くはここで過ごすことにしよう。

明日で5泊目が終わるから追加の5泊とクーチがどうするかも聞いたほうがいいな。

あとはいざという時の為に短剣術と体術も使う練習をしないとな。これはゴブリンに練習台になってもらおう。


俺はぷかぷかと煙草の煙を吐き出しながら今後の事を纏めていった。


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