第20話 幼馴染。

「こ、ここまで探しても見つからねぇとか……マジでヤバくねぇか」

「おかしいですよね。アレはカギ自体が高濃度の心力の塊。感知力が弱い奴でも神社の外にあるなら気付ける筈ですが……」

「大真君の言う通りだ。けんが知らせた時間と英次君の侵入したと思われる時間を考えるなら、まだそんなに遠くではない」


 零の父――泉心は弟の鍵と冬夜の同期である大真おおまを連れて、盗まれたと思われるカギの捜索をしていた。

 見張っていた健がすぐ知らせたことで、心も街の異能者達に効率よく伝えて捜索を指示することが出来た。


「街周囲の結界にも異常はないなら……まだ何処かに隠れてる?」

「けど兄貴、派生の『未来視』持ちの英次が不覚を取られた相手だぞ? 何らかの方法で結界の外に出ている可能性があるかも」

「だとしたら外部の機関も気付くよ。幻の話じゃまだそういった動きはないそうだ。何よりカギを使うのならで使わないと意味がない」


 そう、仮に張ってある結界の外側まで持ち運んだとしても、結界の影響でカギを使用しても扉は開かない。安全装置として木箱に封印しているが、万が一の為に二重の保険を掛けていた。


「そうなると感知が出来ないのは盗んだ奴の能力か何かだが……そいつをどうやって見つける?」

「……」


 心の説明に納得しかけたが、要するに手掛かりがゼロになったと言うのでは、と鍵は薄っすら冷や汗を流して兄に尋ねる。

 普段なら落ち着いた雰囲気で弟の質問に答える兄だが、本当に困っているのか、この時だけは沈黙が重く感じた。



 ――ピピピピッ!



 と、そこへ鳴り出したのは、鍵のスマホ。

 すぐに止んだのでメッセージだと思われるが、色々と考え込んでいた鍵にとっては思わぬ妨害でしかなかった。


「って何だよこんなと、き……に…………」


 しかし、内容が目に入った途端、不機嫌そうな顔が固まって次第に顔中から汗が出始めた。


「どうした鍵?」

「兄貴……やべぇよ」


 不思議そうに尋ねる心に対して健の返答は弱々しい。

 いったい何なのかと首を傾げると、鍵は恐る恐るといった感じで……。



「英次が姿を消した」

 


 新たな面倒事トラブルを告げた。





【大野英次side】


「うっ……」


 不意に食らってしまった傷は、医者の異能者によって治癒済みである。

 フラついて足腰に力が入らないのは、負ってしまったダメージの影響と一時的な大量の出血。失った血に関しては輸血中だった為、恐らくそれが一番の原因かもしれない。


「クソ! 血が足りないか……足が重い!」


 零ほどではないが、鍛えていなかったら絶対に動けなかった。病院の服から制服に着替えるのも苦痛でしかないが、破けても血が洗われて洗濯さていた方のがまだマシであった。


「急がないと……! 間違いなく最悪の流れになってる……!」


 フラフラしても足を止めない。病院から学校まではまだ距離があるが、タクシーを使うわけにもいかない。真っ青な顔色どころか穴が空いている制服を見られた瞬間、呼び止められるのが目に見えていた。


「はぁ、はぁ……零頼む、気付け!」


 それでも急ぐしかない。息を切らしながら相棒である彼の名を叫ぶ。届く筈がないと分かっているが、どうしても叫ばずにはいられなかった。



「オレ達は……とんでもないミスをしてるんだ! 頼むから、気付いてくれ! 裏切り者は―――」






【九条凪side】


「おねぇちゃん? なんで屋上に来たの? ドアに立ち入り禁止って書いてあったよ?」

「どうしても話したいことがあってね。大丈夫、許可は取ってあるから」


 兄である冬夜と別れた凪は、葵を連れて人気のない屋上に来ていた。元々立ち入りが禁じられているので無くて当然であるが。


「零は……朝からいなかった? 学校には来てないようだけど」

「え、うん……そうだったけど。あれ、おにぃちゃん学校にいないの?」

「……そうだね。そうだよ」


 ポカンとした葵が聞いてくる。その反応を見て凪は得心した様子で頷くと、扉の背を向けて葵にバレないように鍵を閉めた。


「気のせいかな? 葵ちゃん少し風邪ぽくない?」

「う、そう見える? 朝起きたら少しだけ熱っぽくて」

「無理はいけないよ? 熱があるなら断らないとダメ」

「ごめんなさい……」


 しょんぼりと凪の言葉に肩を落とす葵。本人も悪いと思っていた分、改めて反省しているようだった。


「まぁ、誘うようにお願いしたのは私だから、謝るのは私の方なんだけどね」


 まるで妹をあやすように彼女の頭を優しく撫でる。微笑んで見せると葵も照れくさそうな笑みを浮かべて頭を出してきた。もっとして欲しいと甘えているのだ。


「エヘヘ、くすぐったいよぉ。なぎおねぇちゃん」

「ふふふ……」


 大変嬉しそうな葵の顔を見て、凪も嬉しそうに微笑んで返して、体を寄せると―――












「何をしてるんだ? 凪」



 幼馴染に話かけるような声音ではない。

 敵に話かけるような冷たい声が彼女の耳に届いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る