第11話 王子の思いやり

 その日の終業後、コナー達は口々にやり終えてしまいたい仕事があると言い、

アリシアとシャアルは先に帰って行った。

たぶん皆の気のせいではなく、アリシアはグッタリとしていた。


ルベンが叫ぶ。

「おいっ、昼休憩から戻ったら、

辺境伯がアリーって呼んでるってどういう事だ?!」

メキディスとマチューが同時に答えた。

「そりゃぁ……一気にいったんだろ……たぶん……」

「どんな早ワザだよっ、それ?!」

コナーもさすがにビックリしたらしく、

「僕も何回か、求愛行動を見たことはあるけど、

辺境伯はさすがにスゴイねぇ……。

……狙ったら、ぜったいにハズさない感じが……スゴイねぇ」

「猛禽類、コワすぎだろっ!!」

「鷹族とどっちがコワいんだろうねぇ?」

「こうなったら、どっちも一緒だろ」

「アリシア……、甘すぎて疲れていたね。大丈夫かなぁ?」

「俺は、アリシアが早く気が付いて良かったと思う事にする」

「そうだな……気が付いた時は婚約式か結婚式って勢いだったからな」

「早くそこまで持っていってくれっ!!

そうしたら……たぶん落ち着くんだよな?!」


問いかけるルベンに、誰も答えなかった……。


 シャアルがアリシアを一気に恋人あつかいまで持っていった日の夕刻、

ニコラには終業後のお茶の時間に、面会申し込みが入っていた。

近侍がお茶をゆっくりとそそぎながら、ニコラに声をかけた。

「ニコラ様、辺境伯はお仕事が早いようで」

「うーん、そうだね。こちらが笑ってしまうくらい早かったね」

「面会の申し込みは、いかがいたしますか?」

「ウワサくらいで済んだ方がラクだから、皆 一緒に通して良いよ」

「アリシア様……大丈夫でしょうか?」

「アリーはね、とても大切に育てられてきたけど

芯は強いんだ。たぶん2、3日中に僕か、学生時代の友達に

会いたいって連絡がくるよ」

クスクス笑いながら、ニコラは美味しそうに紅茶を飲んだ。


1杯目の紅茶を飲み終えた時、ニコラの元に

フィル、グラント、コナー、メキディス、ルベン、マチューが通された。

フィルがゲンナリした顔をしている。

ニコラはフィルとグラントにプライベートな話し方の許可を出し、

他の4人には、学生時代の仲間だから気にしないでねと話した。

「ニコラ……お前、最初から辺境伯とアリーをくっつける為に動いただろ」

フィルが切り出した。グラントもいつも通り、叫んでいる。

「ニコラ……!!今日の午後から、アリーの昼休憩の話で

王宮中ウワサの嵐だよ!!知らない人がいない位、皆が詳しく知ってるって

どういう事?!ああーー、僕のアリーが……!!」

ニコラは、まぁまぁと2人をなだめながら

「2人の話は、半分合っていて、半分間違っているかな。

確かに辺境伯がアリーを気にいるかもって思っていたけど、

確証はなかったよ?僕は預言者ではないからね。

ウワサになるであろう事は予想していたけど、対策は取らなかった。

彼がつがいを見つけたと思い、彼女がそれをイヤがっていないなら

皆、早くそのことを知った方がいい。そう思わない?」



皆、しばし考え、ニコラの意見はもっともだと思う。

フィルとグラントは渋々……。

獣族は1人の人を自分以外の他の者も同じく番つがいだと思わない限り

邪魔はしないのが暗黙のルールだ。いたずらに横ヤリを入れると、

命をかけて手に入れる者が多く、冗談でも横ヤリを入れるメリットが

全くないのだ。そんな面倒はゴメンだと誰でも思う。

例外は番だと思われた相手が本気でイヤがった場合のみ、

止めに入ることができる。そして想い人を手に入れられなかった者は

この世から消えてしまいたいと思うくらい辛い思いをして

その恋を終わらせるのだ。たいていは辛すぎて旅にでる……。


「皆が心配なのは分かるよ。アリーは……何て言ったらいいか……

とても純粋すぎてね……」

ニコラは苦笑しながら続けた。

「でも、そんなアリーも魅力的でしょう?部署の中ではどう?」

コナーがゆっくりと

「恐れながら殿下、デヴォン辺境伯は仕事中はアリシアの邪魔になる事はしません。

まあ……時々、冷気が吹き抜けますが……。我々4人が心配しているのは

アリシアが混乱している事です」

「そうだねぇ。でも、よくあのアリーが恋をされていると自覚したと思うよ」

ニコラは笑いながら言った。

「アリシアは、自分で心の整理をつけられると思っていらしゃるんですね?」

「そうだよ。アリーはね、どんなに時間がかかっても

ちょっとした疑問を見過ごさない。芯の強い子なんだ。

そうだろう、フィル、グラント?

だから、時間がかかったとしても自分の気持ちを確かめて、

辺境伯に答えると思うよ」


2杯目のお茶をゆったりと飲んだ後、

「さっ、この話はおしまい。皆、あとは成り行きを眺めて

とばっちりを受けないように気をつけてね」

ニコラはパンっと手を叩いて、話を閉めたのだった。

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