34:半妖双子姉妹、いざ出動!

『明日、日本時間午後〇時から一分間、電波障害を発生させる。異世界から来てしまった新型ポラマセトウイルスを撲滅させるための実験だ。協力してほしい』


 一瞬、犯行予告ともとれるこの文章が投稿された。


蓮『予告状代わりのものは投稿できたよ。あとは二人、よろしく』

美『よろしくって、私まだ二回しか妖力使ったことないんだけどー!』

麻『大丈夫、私のいうとおりにやればできる』



 またも事は急に進展し、しかも実行することになってしまった。


蓮『やっとルイナのアジトが分かったから、ついでにそこを破壊するなりやるか?』

美『えっ、れんとすごい!!』

麻『アジト……。まぁ、女王から「早くこっちに戻らせるためなら、皆殺し以外やっていいよ」って言われたし』

美『なにそれ笑 女王様容赦なくて笑える』


 妖魔界の戦争は敵軍が全滅するまでするのが主流なので、皆殺しがダメと言うだけマシなのだが。


蓮『それじゃあ明日の十一時半、新宿駅西口に集合。言っておくけど俺は行かねぇからな』

麻『まぁそうだよね。了解!』

美『(○´∀`)ゞラヂャ!』


 埼玉県内でやるより、東京でやったほうが電波のやり取りが活発なので、より効果が上がると予想したからである。


「美晴は川口だからいいけどさぁ、私はもっと遠いんですけどって、あれ?」


 しかし実際にルートを調べてみると、いつも学校に行く時の所要時間とあまり変わらない。


「マジか……登校にかかる時間で、ホントは東京にも行けるんか……」


 麻里菜はボフッとベッドに横たわり、呆れ笑いをするのだった。






 麻里菜(マイ)には本来、戦闘着なるものが存在する。変化の時に少し魔力を混ぜることで、服装も変えることができるのだ。

 なぜあの格好なのかは麻里菜自身も分からない。意識的にあの格好にしているわけではない。

 ……青い巫女装束に、茶色のブーツ。何で和洋折衷なんだよ。


 美晴にも、麻里菜の魔力を飛ばしてあげれば服装チェンジはできるだろう。だが、どんな格好になるかはやってみてからのお楽しみだ。


 そのことを昨日美晴に教えたところ、「えっ、めっちゃ楽しみ! 麻里菜の巫女服姿、ぜったいかわいいじゃん!」と、自分より麻里菜の方に思考がいってしまっていたのだが。






 いつものように首にペンダント『サフィー』をさげ、山手線に揺られて新宿に向かう。

 美晴は埼京線を使うそうなので、途中からも会えず、少し寂しく感じる麻里菜。


 って、何でそんなに美晴のこと考えてるんだよ。これから一大イベントをやりに行くっていうのによ。

 向こうに着いたら会えるし。


 七人掛けの席の端に座り、蓮斗が出した予告状の反応をスマホで見てみる。


『何で電波とポラマセトが関係あるの?』

『うちのおじいちゃんが隔離部屋で死にそうだから、助けてほしい。今はわらにもすがる思い』

『これウソだったら批判ハンパねぇなww』

『未知のウイルス過ぎてなにもかも分からない』


 まぁ……ですよねぇ。

 電波でウイルスを殺せるなんて聞いたこともないし。しかもコンピューターウイルスじゃないウイルスなんてね。

 しかしここに書いてある声のとおり、成功しなかったら批判どころか威力業務妨害で確実にお縄だ。根拠のないことは言わないマイだけど、絶対成功させなくては。


「まもなく、新宿、新宿」


 よし、特に遅れずに来られてよかった。

 十一時二十四分。作戦決行まであと三十六分。

 改札を出るとすぐに、美晴が大きく手を振って出迎えてくれた。


「あっ、麻里菜~! 私の方が早く着いてたんだね!」

「ごめん、待たせた?」

「ううん、二・三分くらいしか待ってないよ」


 ていうか、美晴超かわいくね?


 真っ白ではないので、オフホワイトくらいの色合いだろうか。くるぶしまである、くしゃくしゃとしたシワ加工のワンピース。そのノースリーブの下にはパステルピンクの半袖シャツがのぞいている。


 私があんなワンピース着たら太って見えるのによぉ……ばっちりハマってていいなぁ。

 それにシャツもワンピースも、私が着たら浮いちゃう色なんだよ。パステルカラーでかわいくなる人ってこういうことか。


 心の中で嫉妬がたらたらと流れつつ、麻里菜は直接褒めてみる。


「美晴、その格好めっちゃかわいいね!」

「ありがと~麻里菜もかわいいじゃん! アースカラー似合うの羨ましい~」

「え、あ、アースカラー?」


 麻里菜が着ているのは、カーキのシャツにマスタードのストレートパンツ、ブラウンの五分袖のカーディガンである。制服以外でスカートはあまり穿きたがらない。


「麻里菜、イエベのオータムじゃん……かっこいい」


 パーソナルカラーという概念を知らない麻里菜は、知らず知らずのうちに買っていた服が茶系と黒系、たまに緑しかない。


「なんで茶色を着てこんなに垢抜けてるの~! いいな~」


 お互いがお互いを羨ましがる、何とも奇妙な結果になったところで、集合時刻の十一時半になって蓮斗から電話がかかってきた。


「よし、まず駅前からは離れて、人通りの少ないところに行って。変化するんだろ?」

「うん。麻里菜、ここから離れて人通りの少ないところに行け、だって」

「了解」


 マスク姿の女子高生二人は、一本 脇道に入っていった。






「いくら脇道といえ、お昼近いから車通りもすごいね」


 麻里菜はここでふと思いつき、声をひそめて美晴に提案してみる。


「じゃあ、変化したら私の魔法で透明化しようか。そうしたら人目も気にせずできるからさ」

「おっ、麻里菜天才じゃん! それなら今変化してもいいんじゃない?」

「そうだね。けっこう妖力使うから、耳としっぽつきで。それじゃあ……」


 麻里菜と美晴はお互いの目を見てうなずき、周りを見渡して誰もいないことを確認してから、手を額にぴたりとくっつける。


「「妖怪変化」」


 黒髪と茶髪の少女たちは、金髪と銀髪の異様な雰囲気をまとった妖怪に姿を変えた。


「空間に溶けこめ、パースピクース」


 麻里菜は手の中に集まった白い光を振りまくようにし、自身と美晴に魔法をかける。身につけているものまでしっかり透明にしていく。

 試しに、妖力を解放すると使えるようになる『脳内会話テレパシー』を美晴にやってみる。こうすれば声を出さなくとも会話ができるので、声で二人の存在がバレないようになる。


『美晴、私の声聞こえる? 今、妖力を使ってテレパシーしてる。透明化の魔法だけど、私たち二人だけにはもやのように見えてるからね』


 美晴は麻里菜をじっと見てから「すごい……」とつぶやき、胸に手を当てた。


『ぅ……。ぁ……』


 美晴もマネしようとしているみたいだ。麻里菜も妖力でなるべくその言葉を拾おうとしている。


『ま……な。ま……り……。ま……りな』


 さすが、飲みこみが早い美晴。


『き……こえ……た?』

『うん、途切れ途切れだけど』

『これなら……声出さなくても……麻里菜と……話せる』


 最近は、目配せだけで何を言いたいのか分かることもあるが、やはりこれができるだけで『戦い』においては有利である。


 テレパシーでおしゃべりしつつその練習をしている間に、十一時五十五分、作戦決行五分前を迎えた。

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