30:新型ポラマセトウイルス、判明

蓮『すげぇことになってるな。どの民放もあのことばっかだぞ』

美『れんとに言われてやってみたら、すごいいいねとリプが来てさ!』


 すでに午前中を寝過ごし、麻里菜は寝ぼけたままL|NEを開く。……って、マジかよ!?

 一瞬で目が覚めた麻里菜はバタバタとリビングに入った。


「今朝、インスタグラムに投稿されたこの投稿。その内容は、今 高齢者に感染が広がっている、新種のウイルスかと思われる内容でした」


 アナウンサーが、画面に表示されたものを指し示しながらそう言っている。


『このニュースってマ? すごい具体的でウソじゃないっぽいんだけど…』


 これは美晴が投稿したものだろう。 文の最後にはニュースへのリンクが貼りつけてある。


「ここのリンクを押すと、引用されたネットニュースのページに飛びます。このように、写真つきでウイルスについての説明が細かく書かれています」


 これは蓮斗が書いた記事だろう。かなり細かく書いてあるが、これを一晩で仕上げてしまった蓮斗のスキルといったら。


「この記事によると、ウイルスの名前は『ポラマセトウイルス』で、先日存在が判明した『妖魔界』にしかないウイルスだというのですが……」


 すると大きな吹き出しがデカデカと映し出される。


「このウイルスが妖魔界から持ちこまれてしまった可能性が出てきました」


 マジか……マジだよな……。

 昨日の夜にふと思いついたことで、ここまで大事おおごとになるとは。


麻『今起きてニュース見たけど、自分でもびっくりだよ!』

蓮『俺もこの記事書いてすぐに寝たんだけど、通知がうるさくて飛び起きたらこれだよ。色んなところから「記事使っていいですか?」ってお願いがきててww』

美『私も通知で起こされた〜! 「デマ流すのやめろ」とかリプで書かれたけど、こっちは分かってて流してるんだからね〜!』


 それにしてもすごいことになっちゃったなぁ……。

 でも、新種だから情報が極端に少ないし、もしマイの話がウソだとしても参考にはなるよね。……うん。


 そう自分に言い聞かせ、同時に気づいた。


「私しかいないんだよね。こうやって妖魔界からの情報を持ってくる人は。ルイナといいウイルスといい、現在進行形で人間界に影響している以上は、私の存在ってなくてはならないんじゃ……?」


 私は人間界と妖魔界の架け橋。裏を返せば人間界と妖魔界のスパイ。

 同一人物であるマイの失態で引き受けた『人間界守護』の役目が、こんなに責任がいることで日本中を動かしてしまうことなのだと、ひしひしと感じたのだった。


「また自分のせいで二人に迷惑をかけることに……」






 ポラマセトウイルスの詳細が人間界の研究機関に送られ、次の日には新種のウイルスと同じ種類だと判明した。しかし、資料とまったく一致したわけではなく、『新型』と判断したようだ。


「ともかく……マイの言ってたことがウソじゃなかっただけ、よかった」


 この土日は急展開で、自分のしたことがどこまで影響するのか、気が気ではなかった。サフィーでマイに報告すると、彼女もほっとした様子だった。


「実はね、こっちも独自に調べてたの。人間界からこっちの情報にアクセスはできないけど、こっちからだったらできるからね。それでポラマセトと特徴がよーく似てたから、麻里菜に知らせたの」


 そうだよね。マイは根拠もない情報は私には言わないし。


「そっちにワクチンとかはないの?」

「あいにく、薬学はそこまで発達してなくて。私だったら魔法で治しちゃうし、そもそもポラマセトはかかったら『死』のウイルスだからね。抵抗力が弱いから」


 人間界のインフルエンザのように、誰もが発症するリスクのあるものではない。わざわざウイルスそのものに効く薬は作らないという。


「でも、そんなに広まっちゃってるから、こっちも治療薬を作ってみようなって話が出てる。そうは言ってもそっちの方が早くできそうだけど」


 しかし――


「それで問題なのが、誰がポラマセトを人間界に持っていったのかってこと」


 蓮斗がまず指摘していたところである。

 麻里菜は「自分かもしれない」とビクビクして、それを口に出すことはしなかった。


「まず、麻里菜なのかってところだけど……」


 麻里菜が持ちこむ要素は十分にある。これだけ妖魔界と人間界を頻繁に往来し、学校に行くために電車を使う。

 背が低くて吊革は掴まないものの、よろけたら手すりに掴まるので、それに高齢者が触れてしまえば……


 考えれば考えるほど、シナリオができあがってしまう。


「その可能性は、私は低いと思ってる。そもそもポラマセトはかかったとしても、抵抗力が並み程度にあるなら殺せちゃうからね。風邪ひいて弱ってても大丈夫なくらい」


 麻里菜はペンダントを手に胸を撫で下ろす。


「それに高齢者だけにかかるなんて、そんな特殊な変異は自然じゃありえない。あまり考えたくなかったんだけど……」


 安堵したのもつかの間、マイは恐ろしいことを口走る。

 自然じゃないってことは……


「人工的に変異させた……ってこと?」

「たぶん……」


 麻里菜にこの四文字の言葉が浮かぶ。


「生物……兵器」


 サフィーには吹きこまれず、麻里菜の中でこだました。

 そんなことができるのか。高齢者『だけに』かかるウイルスなど作れるのか。

 生物兵器は老若男女問わず感染させ、国全体で混乱を起こさせるためにしかけるものだ。特定の年齢層に絞ることなどできるはずがない。


「確かに、世間でも『誰が妖魔界から持ってきたのか』とか『何で高齢者にしかかからないのか』って論争が起きてるからなぁ」

「生物兵器かもしれないってことも、視野に入れておいた方がいいかもしれない」


 理由の読めない不可解なことが次々と発覚しては、それは一つ一つと手がかりになっていくのだった。

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