第5話

先日の事情聴取から数日後、俺は『殺人罪』として検察に送検された。警察の見解は、俺が逃げようとする空き巣二人を階段から蹴り落とした行為は正当防衛の域を超えた過剰防衛であり、明確な殺意があると判断したようだった。


この事件で俺は一気にマスコミや世間から注目の的にされた。恐らく、世間の人間が思う常識と警察が描いたストーリーに大きな差があることに話題性を感じたのだろう。


警察から検察へと聴取の場を移された俺は、今度は検察官から激しい取り調べを受けることになった。


「どうして逃げようとする犯人を階段から蹴り落とす必要があったんだ。サイレンが聞こえたから犯人は逃げ出そうとした。それなら、そのまま逃げて行ったかもしれないだろ。」

「一階には母親がいたので、動転して焦っている犯人が母親に危害を加える可能性があると思いましたし、人質にされる可能性もあると思いました。もちろん、何もせずに立ち去る可能性もあると思いましたが、実際に私が腹部を刺されていることから、何もせずに立ち去るよりは危害を加える可能性の方が高いと判断しました。だから、犯人が隙を見せた瞬間、やられる前にやらないとマズイと思い、蹴飛ばしました。」


「でもナイフを持っている人間を階段から蹴り落としたら、どうなるか予見も出来ただろう。最悪、犯人が死んでも仕方ないと思って蹴り落としたのか。」

「もちろん、その可能性も頭に浮かびましたよ。万が一、持っているナイフが最悪の事態を招くことはあるだろうと。でも、もしここで躊躇して暴走した犯人が母親に危害を加える。最悪、逆上して殺される可能性もあると考えました。奪われる前に行動不能にすべきだと思ったのは事実です。ただ、それは『殺す』ではなく、あくまで『行動不能』。つまり、気を失わせたり、致命傷を与えて人を襲える体力や気力を奪うことを狙って蹴落としました。その結果が、死亡という最悪の事態になってしまったと思っています。」


「では、殺意自体は否定するという事ですね。」

「はい、殺意を持って蹴落とした訳ではありません。」


この事件はネットや報道番組でも、連日のように取り上げられた。正当防衛が成り立ち不起訴処分になるのか、はたまた二人の空き巣犯の命を奪った殺人犯として起訴されるのか。

拘留期限終了ギリギリまで俺は検察官からの取り調べを受け続けた。

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