第3話 なに言ってんだ、こいつ?

 家を出た俺は、自称・神剣を背負って目的地へと向かった。

 見た目はどこにでもあるようなごく普通の剣であるため、誰も気づく様子はない。

 広場にあった神剣が無くなったとかで、ちょっと騒ぎになっている様子だったが。


「あっ、やっと来たし。遅いって――――っ? ……誰?」


 待ち合わせの場所に行くと、すでに三人は先に来ていた。

 朝から色々と驚かされたせいで、少々遅れてしまったのだ。


 しかし案の定と言うべきか、俺を見た三人は「誰だこいつ?」「えっ? おっさんじゃねーよな?」という顔をしている。

 どうやらあまりにも急に見た目が若くなったため、すぐには本人だと思えないらしい。


 俺はふと、良いアイデアを思いついた。


「すまない、いつも兄が世話になっている」

「あいつ、弟がいたのかよ……?」


 弟だということにしたのだ。

 これなら似ていることにも説明がつくしな。


 そして今日の参加は難しくなったということを伝えた。

 こいつらと冒険するより、俺は一刻も早くこの剣の性能を確かめてみたかったのだ。


「ふざけんな。荷物持ちのくせにドタキャンしやがって」

「なぁ、レイク。あいつ、もうクビにしちまったらどーだ?」


 本人が目の前にいるとも知らず、そんな罵倒を口にするレイクたち。

 いや、本人が居ても普通に言いそうだが。


『お主、随分と若造どもに馬鹿にされておったようじゃのう?』


 ……残念ながらその通りだ。


「まぁまぁ、仕方ないわよ。今日はあたしらだけで行きましょう」


 メアリだけは理解を示し、レイクたちを宥める。

 こいつ、こんな物わかりのいい性格だったっけ?

 いつもなら「はぁ? おっさんマジ使えないじゃん死ねば?」とか何とか吐き捨ててそうだ。


「それより、伝えてくれてありがとうございます。あたしはメアリって言います。えっと、あなたは……?」


 なぜか名前を聞かれたんだが?


「俺は……ルークだ」


 俺は適当に偽名を名乗った。


「武器を持ってるってことは、もしかしてルークさんも冒険者なんですか?」

「ああ、一応」

「そうなんですねっ。いつか機会があったら、ぜひ一緒に冒険してみたいです。ふふっ」


 ……いやいやいやいや、誰だよ、お前?


『そこそこ可愛い娘ではないか』


 まぁ、見た目はな。

 いつもとまるで違うメアリの態度に困惑しつつ、俺はその場を後にしたのだった。




 レイクたちのパーティに加わる前、俺はゴブリンキラーなんて二つ名を付けられていたこともあった。

 もちろん称賛ではない。

 最弱の魔物として知られているゴブリンばかりを狩っていることを揶揄されたのだ。


 若い頃であれば、一対一でもどうにかオークを倒すことができた。

 冒険者ギルドが定める危険度のランクはDだ。

 一応、Dランク冒険者であれば、単独でも太刀打ちできる強さとされている。


 だが歳を経るにつれて、俺の主な狩り対象が危険度E上位のコボルトになり、E下位のゴブリンになり、とだんだん低レベルの相手になっていった。

 ぶっちゃけ、Dランク相当の実力があるかも怪しかったんだよな……。


 しかし古傷が癒えた今の俺なら、またオークを討伐できるかもしれない。

 という訳で、俺はオークがよく出没する森林地帯へとやってきていた。


「っ……いた」


 早速、発見する。

 幸いなことに一体だけだ。

 オークはゴブリンやコボルトと違ってあまり群れない魔物だが、それでもたまに数体ほどで群れていることがある。


「ぶひ?」


 と、匂いで俺の存在を察したのか、オークが鼻を鳴らして辺りを見渡す。

 発見される前にと、俺は木の陰から飛び出した。

 背後からの足音に気づき、オークがこちらを向く。


 だが遅い。

 俺の剣がオークの右肩に直撃。


「えっ?」


 まるでバターでも斬ったかのような感覚だった。

 コボルトやゴブリンより皮は分厚いはずだが、驚くほどあっさりと刃が通ったのだ。

 オークの左脇から剣先が抜ける。


 斜めに胴体を両断されたオークは、目を見開いたまま絶命した。


「……こんなに簡単に倒せていいのか?」


 オークの身体が灰となって崩れ落ちる。

 人間や動物と違い、魔物は死ぬと元の形を保てずに灰と化してしまうのだ。


『むしろオークくらい軽く屠れんでどうするのじゃ』

「いや、俺にとっては結構とんでもないことなんだけどな……」


 なにせ、最近はコボルトですらキツイと思うようになっていたくらいだ。


『少し我の性能について説明しておくべきかの』

「性能?」

『うむ。まず単純に攻撃力はそこらの名剣などより遥かに高い』


 オークは意外と筋肉があるため、それなりに肉が硬い。

 それをああもすっぱり斬ることができたのだから、並の攻撃力ではないことは間違いないだろう。


『さらに、身体能力の向上、自然治癒力の上昇、毒や麻痺などの状態異常への耐性、武運の上昇、ラッキースケ……といった特殊効果もついておる』


 最後に言いかけた言葉が気になったが、ともかく驚くべき性能だった。


 そもそも特殊効果というのは、一部の高級武具や魔導具などにしか備わっておらず、俺のような貧乏冒険者に手が届くものではない。

 しかも一つの武具にせいぜい一つや二つだ。


『じゃが、もっとも特筆すべきなのは【固有能力】の〈眷姫後宮(クイーンズハレム)〉じゃな』

「〈眷姫後宮〉……?」

『そう、これこそが愛と勝利の女神ヴィーネによって生み出された、我の真骨頂とも言える能力なのじゃ』

「具体的には?」

『簡単に言えば、お主に嫁が増えれば増えるほど我の性能が上がる』


 …………。

 なに言ってんだ、こいつ?

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