トマトの話。お米の話。野球の話。

こたあき

トマトの話

 ああ、トマト。僕はお前が大嫌いだ。聞くところによると、トマトは最初、食用ではなかったらしい。ヨーロッパの貴族たちが育て始めたトマト。その理由は可愛いから。なんだよ、可愛いって。

 

 だから僕は腹いせに、こんな話を書いてみた。僕と同じく、トマトが嫌いだった君。僕にトマトの起源を教えてくれた君。そんな君に贈りたい。これは「おい、トマト」から始まり、「ポテトの話」で終わる物語だ。


 ……


「おい、トマト」


 猫の旦那は呼びかける。


「トマトだって!?」


 猫の兄さん驚いた。


「そうだよトマト、お前の事さ」


 旦那はちょっと不機嫌そう。


「俺は違うよ。トマトはアイツさ」


 兄さん指差す猫差し指。


「やめてよ兄さん、私じゃないわ」


 妹ぷりぷり、頬はぷっくり。


 日向ぼっこの子猫たち。


 子猫じゃないって? それは失敬。


 猫とトマト、似てるかしら。


 猫はゴロゴロ、トマトはコロコロ。


 ゴロはあるけど、コロはない。


 フライはあるけど、ポテトはない。


「なんの話?」


「ポテトの話」


 ……


 結局、トマトの話なのか、ポテトの話なのか、はたまた猫の話なのか、それは僕にもわからない。


 僕はただ「彼女がクスッと笑ってくれれば良いな」そう思っただけだ。


 それは給食の時間。トレーの上にはミニトマトが2つ置かれている。中学生の僕はミニトマトを残したり、友だちに食べて貰ったり、ましてや泣きながら食べたり、なんて事はしない。絶対に。


 空気を思いっきり吸い込んで、ミニトマトをひとつ放り込む。息が続くうちに噛み砕き、飲み込み、牛乳で口をゆすぐ。それを2回繰り返して、終わり。言うのは簡単。やるのは地獄。それはまさに、清水の舞台から飛び降りる思いだ。


 そのとき僕らは、一体どんな顔をしていたのだろう。ミニトマトに絶望的な視線を送り続けていた気もするし、案外平気な顔をしていた気もする。少なくとも彼女は、僕より上手くやっていたと思う。


「なぜトマトが嫌いなのか」

 そう訊かれたら、僕はたった一言、

「苦いから」


 僕はおそらく、一生トマトが嫌いだ。彼女はどうだろうか。いつかトマトを好きになって、知らない男と結婚して、幸せな家庭を築くのかもしれない。それで良い、と僕は思う。

 

 彼女が僕とトマトのことを思い出してクスッと笑ってくれる日を、僕は密かに楽しみにしている。


 トマトの話なのか、ポテトの話なのか、はたまた猫の話なのか、よくわからない物語をノートの切れ端に書いて、そして彼女に贈ろう。


 きっと彼女はクスッと笑ってくれるに違いない。

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