第22話 メタバース内で開催されるライブ

 私、森崎由亜は今、火花さん達と一緒にメタバース内で開催されるバーチャル型アイドル系UTuberのシズクのライブを観に行く為、ライブ会場となるメタバーズ”メトロポリス”に来ていた。


 このメトロポリスというメタバースは、超高層ビル群が無数に立ち並び、上空を見上げれば、大型の飛行船や小型の車が飛行しているSF感のある近未来的で多くの人が集まる大型のメタバースである。


 そんなメタバースであるメトロポリスに、私達は自分達の部屋からスマートグラスを装着しVRモードにした状態でこのメトロポリスにやって来た。


「ユア、凄い大きな高層ビルがたくさんありますね」


「そうね。迷子にならない様に気をつけないとね」


 メタバース内で使う私のアバターは小さな白い猫のアバターの為、上を見上げるとリーフィすら大きく見えた。


「まさか、森崎さんと雨沼さんが知り合いだったとは驚きだよ」


「知り合いというよりは、昨日仲良くなったばかりです」


 メタバース内に来た火花さんもまた、スピアーズとしてメタバース内で活動をする時に使っている専用のアバター姿であった。


「それはそうと、今回のライブチケットをくれた雨沼さんには感謝だね」


「確かにね。一体どういう風の吹き回しか知らないけど、雨沼さんが森崎さんにチケットをあげるなんて意外な一面もあるんだね」


 火花さん同様に、氷山さんと水島さんもまたスピアーズとしてメタバース内で活動をする時に使っている専用のアバター姿であった。


 そんなスピアーズ達のメンバーの衣装の方は普段とは変わらないものの、虹川さんだけは何故か全身を隠す様に黒いマントを羽織っていた。


「虹川さんだけ、マントを羽織ってますね?」


「とてもじゃないけど、あんなハレンチ過ぎるアバターでは出歩く事なんて出来ないからね……」


 マントを羽織っている理由に関して、虹川さんは恥ずかしがる口調で説明した。


 確かに、あの格好でたくさんの人が来るシズクライブを観に行くのは恥ずかし過ぎると思う……


 そして、全員が揃い、ついにシズクのライブが行われる特設会場に向かう事にした。


「じゃあ、ライブ会場に行きましょっか!!」


 そして、火花さんの掛け声と共に、私達はライブ会場を目指し、メトロポリスの大都市の中を歩き始めた。





 シズクのライブ会場があるメトロポリスは超巨大なメタバースである為、この周囲にはメタバース内で楽しむ事が出来る数多くのショップが点在していた。


 流石は人が最も多く集まる超巨大なメタバースというだけあり、ショップの多さや街中に貼られている広告の多さだけを見ても、リアルの大都市と大差がない。


 そんな超巨大なメタバースであるメトロポリスには、アニメに出て来そうな人型のアバターだけでなく、宇宙人型や怪獣型、はやまた私と同じ動物型やロボット型と言った人外のアバター姿の人達の姿も目に入る。


「ここには、いろんな人がいますね」


「そりゃそうさ、なんせこのメトロポリスは、日本で今、最も人が多く集まる超巨大都市型のメタバースなんだから」


「そうなの」


「そうだよ。このメトロポリス内では、ただ単にリアルの都市の様に街探索や現物を見てのショッピングが出来るだけでなく、これから私達が観に行くシズクのライブの様に、有名なアーティストのライブを楽しめたり、それ以外には、メタバースと連動しているゲームの世界に向かう人達のギルドとしての役割もあるんだよ」


 移動中に見かける多くの人達を見ながら、火花さんはリーフィにメトロポリスに来ている人達の主な目的を説明した。


「そうそう、このメトロポリス内ではゲームだけでなく、楽しいイベントもたっくさん開催されているんだよ。この間だって、ぷんぷり~劇場のイベントが開催されていたよ」


「リアルの町だと、放課後にショッピングを楽しもうと思ったら、電車に乗って大型のショッピングモールまで行かないといけないけど、このメトロポリスだったら、放課後とか関係なしに、いつでも好きな時にリアルの様なショッピングが楽しめて、便利よ」


「メトロポリス内では、大迫力なEスポーツの大会も気軽に観に行く事が出来ていいよ。私もよく観に行くんだ」


「へぇ~ 皆さんはメトロポリスを楽しまれているのですね」


 その後、氷山さんや虹川さんや水島さんが、メトロポリスという名のメタバースの楽しみ方を伝えた。


「メトロポリスって、何でも揃っていて凄く楽しそうな場所ですね」


「そうだね。確かにここには地元にはないものがたくさん揃っているし、メトロポリスは最高の場所だね」


 そして、火花さんはリーフィにメトロポリスは最高の場所だと笑顔で伝えた。


 確かに火花さんの言う通り、スピアーズのメンバー達が住んでいる様な比較的娯楽の少ない田舎町の人達からすれば、メタバースは東京に行くよりも簡単で凄く気軽に行く事の出来る大都市の様な役割を担っていたんだなっと、火花さん達の話を聞いていて思った。


 その一方で、東京という大都市に住んでいる私の場合だと、リアルの世界に何でも揃っている為、娯楽を求めたり生活の為にメタバースを頻繁に利用するという事はほとんどない。


 その為、今回、シズクライブを観に行く為に火花さん達の話を聞きながらこのメトロポリスの街を歩いた事でメトロポリスの様子も見る事が出来たけど、改めてこのメトロポリスの利便さに驚かされた。





 その後、しばらく歩いた後、私達はついに目的地であるシズクのライブが行われるライブ会場の入り口に着いた。


 このライブ会場は、メトロポリスの高い場所に建っている為、周囲を見渡せば超高層ビル群を一望する事が出来る場所である。


「やっと着いたね。VR席だから、凄い臨場感が味わえるわよ」


「そうですか。シズクのライブが楽しみです!!」


 私達が今回座る席はVR席という、まるでシズクがその場にいるかの様な臨場感を体験する事が出来る超特等席であった。


 そして、席でしばらく待ち夜の7時になったのと同時に、突如として周囲が暗くなった。


 それと同時に爽快な曲が流れ、ステージの上が光り出した。


「みんな~ 待たせたねっ!!」


 その光り出したステージの上には、あのシズクが立っていた。


 髪形はクセ毛がかかった少し短めの銀髪のツインテールであり、アイドル衣装というよりはメトロポリスの雰囲気に合う様なサイバーパンクな感じの肩が出ている黒い服と赤いスカートを穿き、縞々のニーソを履き、赤いペレ―帽をかぶっていた。


 そんなシズクの姿を確認するなり、周囲にいたファンらしき人達が一斉に歓声を上げ始めた。


「私のライブがみたぁ~いかな?」


 シズクが観客席にマイクを向けると、観客達は盛大な歓声を上げた。


「シッズクちゃ~ん、観たい観たいよっ!!」


 そんな歓声を上げる人の中には、火花さんの姿もあった。


 そして、その様はメタバース内とは思えない、まるでリアルの世界の本物のライブ会場にでもいるかの様なぐらい凄い熱狂ぶりであった。


「そっれじゃあ、いっくよ~ん!!」


 観客達の歓声に答えた後、周囲からは爽快な曲が流れ、シズクのライブが本格的に始まった。


 そして、曲が流れシズクが歌い出すと、周囲にいたファン達は更に盛り上がった。

 

 シズクが歌う感じの歌は、スピアーズとは異なる雰囲気の歌であり、曲は明るく誰もが今にも踊りたくなるような感じのポップな感じであった。


 また、メタバース上で行うライブという事もあり、数多くのロボットのバックダンサーやステージ上で繰り広げられる幻想的なエフェクト等、現実の世界では再現が凄く難しい演出が施されていた。


 そんなシズクが歌を歌っている間、周囲にいるファン達は、ペンライトのアバターを振り回して、共にライブを盛り上げていた。


「シズクちゃん、いぇ~い!!」


 そんなファン達と同様に、隣では火花さん達スピアーズのメンバーも他のファン達同様に、ペンライトのアバターを振り回しながら身体を動かしていた。


「ユア、他の人達はどうして歌を聴きながらペンライトを持って身体を動かすのでしょうか?」


「それは、一緒にライブを盛り上げているって事を、主役であるアーティストに示す為よ」


「そうなの、じゃあ私も!!」


「あぁ、リーフィはやらなくていいよ!!」


「そうですか」


 リーフィも火花さん達や他のファン達と同様にペンライトを持って身体を動かそうとした為、リーフィの頭の上に座って観ていた私は激しく動かされると振り落とされてしまいそうになると思い、リーフィは周囲の人達の様に身体を動かさなくてもいい事を伝えた。


 すると、リーフィは両手でペンライトを持ったまま、上下に軽く動かす程度に止めてくれた。


 そんな感じでしばらく曲が続いた、一曲目の歌は終わった。


「まだまだ、いっくよ~ みんなついて来てね!!」


 歌を歌い終えた後、シズクがマイクを片手に手を伸ばすと、またしてもファン達は大いに歓声を上げた。


 その後、マイクを天高く投げた後、シズクは観客席の方を目掛けて走り出して。


 そして、少し走ったところで高くジャンプをした後、先程までシズクが着ていた衣服が花火の様に周囲に飛び散ったと思っていた矢先、シズクの身体が白く光り出し、その直後、新しい衣装に変わった。


「えぇ!? 何この演出!!」


「凄い演出です!!」


 一瞬だけとはいえシズクが全裸になった事に対し、私とリーフィは凄く驚いてしまった。


 流石メタバースでしか出来ない演出ね……


 そんなシズクの新しい衣装は、肩出しのラフな白シャツと黒の短パンといった、先程とは異なるシンプルな格好であった。


 そして、休む間もなくシズクは次の曲を歌い出し、ライブは更に大盛り上がりを見せた。





 そんな感じで、しばらくの間盛大に盛り上がっていたシズクのライブの終了時間が訪れた。


「みぃんなぁ~ 今日は観に来てくれて、ありがとう!!」


 ライブの終了を告げる様に、シズクはこの日のライブを観に来てくれたVR席にいる人達や、その他、動画でライブを視聴していた人達に元気よく両手を振った。


「凄かったね!! ユア」


「そうね。VR席だと、本当に実際のライブ会場に来たような臨場感を味わう事が出来たわ!!」


 私と同様、リーフィも臨場感のあるライブを楽しんでいた。


 こんなにも素晴らしいVR席のチケットをくれた雨沼さんにはホント、感謝しかないわ。明日にでもお礼を言わないと。


 そんな事を思っていると、隣にいた火花さんがステージ上にいるシズクに向かって大声で叫んでいた。


「シズクちゃぁ~ん!! こっち向いて!!」


「ちょっとハル、そんな大声で叫ばないのっ!!」


 一方の火花さんもまた、シズクのライブを盛大に楽しんだのか、周囲にいる多くのファン達と同様にシズクの名を叫んでいた。


 そんな火花さんの様子に対し、隣にいる氷山さんは止めようとしていた。


 こうして、チケットをくれた雨沼さんのお陰で私達はシズクのライブを臨場感のあるVR席で楽しむ事が出来たのであったっと、このままライブの終了と共にこのまま終わるのかと思っていた矢先、とんでもないサプライズが私達に突如として舞い込んできた。


「やぁ、よく見たら、スピアーズのハルちゃんじゃないの。どうだった、私のライブは? 凄かったでしょう」


「シッ、シズクちゃんが、わわっ、私の目の前に!?」


 火花さんが叫んでいた声が聞こえたのか、ステージ上にいたシズクが火花さんの目の前に突然現れたのであった。


 こんなサプライズってありなの!?

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