第8話 ツリーハウスの中でお泊り

 夕方、火花さんの家が運営している旅館の温泉に皆で入った後、私達は昨日皆で遊んだ後に訪れた広場にあるツリーハウスに来ていた。


 こちらのツリーハウスは、スピアーズ達が動画内で作ったツリーハウスである為、早川さんに宿泊する事を伝えるとすぐに宿泊の許可が下りた。


 そんなツリーハウスの中から夜空を見上げると、東京では見る事の出来ない夏の夜空がプラネタリウムの様に辺り一面に広がっていた。そんなツリーハウスの中にいた私達は、のんびりとくつろぐ様にそれぞれの時間を過ごしていた。


『ユア、あれがはくちょう座です』


「リーフィは星座も知っているのね」


『はい。ちなみにはくちょう座のデネブは、夏の大三角のひとつでもあります。後の2つは、こと座のベガとわし座のアルタイルです』


 スマホ内にいるAIのリーフィと一緒にツリーハウスの中から見える夜空を見ていると、リーフィが夜空に浮かぶ星座の解説をやってくれた。


 AIは人間の知能を遥かに上回ると言われているけど、AIであるリーフィも同じ様に人間の遥か先の知能を持っている為に、夜空を見ただけでどの星座がどれなのかを瞬時に答える事が出来るのかな? そんな事を考えながらも私はリーフィと一緒に、ツリーハウスの中から見える夏の夜空を見ていた。





 一方、火花さん達はスマホでUTubeの動画を観ていた。


「実際に観てみたけど、森崎さんって結構凄いね」


「確かに、だってこんな高い場所から平気で飛び込む事が出来るんだもの」


 火花さんと虹川さんは、UTube内に上がっているつい先日私が出場をした水泳部の飛込競技の大会に出場をした時の様子の動画を観ながら、大会に出場している私の様子に感激をしていた。


「そんなに凄い事ではないですよ。コツを掴めば意外と出来ますよ」


「そうは言うけど、こんな高い場所から何一つ迷わずに素早く綺麗に飛び込む事なんて、コツを掴んだ程度では出来ないよ!!」


「そうかな? そう思うのは私が高い場所に平気だからなのかな?」


「多分、それじゃない?」


「やっぱりそうなのかな? それよりも私から見れば、火花さん達、スピアーズの様に歌って踊れる事の方がよっぽど凄いですよ!!」


「そう思ってくれるのは凄く有難いけど、実際世の中には私達以上に歌や踊りが上手な人なんてたくさんいるんだよね。それは同年代と比べても同じ話」


「それでも、火花さん達は凄いです!! 昨晩の時やさっきのお風呂の時でも。プロ並みに凄かったですよ」


「まぁ、私達の実力がプロレベルなのは自分でも納得するけど、結局私達が有名になる事が出来たのって、早川さんのお陰だったりするからね」


「確かに早川さんのお陰かも知れないですけども、それでもスピアーズの実力は本物だと私は思います!!」


 火花さんはこうは言うものの、素人目線である私の目から見ればスピアーズのダンスと踊りは十分プロでも通用する上手さだと思うし、何よりも歌唱力に関しては練習だけでは上手くはなれないものだと私は思っている。





 その後、私は持っていたスマホの画面を夜空の方に向けて置いた後、私は火花さん達と話をする為に火花さん達がいる方に体を向けた。


「そう言えば、火花さんはどうしてアイドル系UTubeに興味を持ったのかしら?」


 同じ日の昼間に虹川さんと砂浜で一緒に話をしていた時の事を思い出した私は、今度は火花さんの口からアイドル系UTuberに興味を持ち出したきっかけを聞いてみる事にした。


「それは、確か…… かなり昔の私がまだ小さかった頃に、チョコチップとフェイカーズのコラボイベントに行ったのが全てのきっかけになるのかな?」


「なるほど、火花さんがアイドル系UTuberに興味を持つきっかけは、フェイカーズやチョコチップのコラボイベントだったのですね」


「まぁ、そうなるかな。そのイベントに行って以降、私もチョコチップやフェイカーズみたいな事を自分達でもやってみたいと思う様になったのかな。それ以降は今のメンバー達と一緒にスピアーズなんてグループ名でアイドル系UTuberごっこをやる様になって」


「どんな理由であれ、火花さんもフェイカーズやチョコチップの様に、一緒にUTube活動を楽しむ事が出来る仲間だ出来て良かったじゃない!!」


「確かに、私達スピアーズのメンバーが仲良くなる事になったきっかけも、フェイカーズやチョコチップの話で盛り上がったというのが始まりだからね。そう考えると、これはある意味運命的な出来事だったんだなって今になって思うよ」


 例えどんなに小さな出来事がきっかけであれ、そのきっかけを元にして作られる結果には大きな出来事もあると思う。確かに火花さんの言った通り、アイドル系UTuberという共通の話題となるきっかけがなければ、今のスピアーズというグループが誕生していなかったと考えると、本当に運命的な出来事だと思う。


「そう言えば、火花さんはフェイカーズやチョコチップで誰が推しなんですか?」


「一番の推しねぇ~ やっぱり、私はチョコチップの香里奈ちゃんかな? 4人でやっているフェイカーズと違って、動画の企画や編集まで全て1人でやっているというから本当に凄いよね。SPレディオ内でアイドル系UTuberとして活動をするようになってから、本当にそう思うようになったよ」


「フェイカーズではなくて、チョコチップの方なのね」


「そうだね。最も、私がフェイカーズとのコラボイベントを見に行くきっかけになったのも、チョコチップが出るから行ったんだよね。でも、あの時のイベントに行って以降、チョコチップと頻繁にコラボをするフェイカーズの動画もよく見る様になったんだよね」


「それで、フェイカーズの事も知っていたのですね」


「まぁ。そうだね」


 フェイカーズの動画に影響を受けたと聞いていたけど、両者を合わせての最も好きな推しがまさかのチョコチップという人であった。私は火花さんの話を聞いていても、チョコチップという人がどんな人なのかは詳しくは知らないけど、火花さんの話を聞く限りとにかく凄い人なんだなっと思った。


 その後、次に私は近くにいた3人にも火花さんと同じ質問をする事にした。


「皆さんは、誰が推しですか?」


「私の一番の推しは、やっぱり優ちゃんかな? 動画内で楽しそうにしている様子を見ていると、こちらも楽しい気分になるからね」


「私はフェイカーズのリーダーである古都かな? あの面白いズバ抜けた企画を思いつく才能は本物だよ。あと、フェイカーズの動画編集を全般的に請け負っているキョウも外せないね」


「私はやっぱり美沙さんが一番凄いと思うわ。フェイカーズを結成する以前の、それも今の私達と同じ歳だった頃には、既にUTubeとは違う動画サイトで自分で作った歌を発表してそれなりに有名人だったのよ」


 氷山さんは優ちゃん、水島さんは古都、虹川さんは美沙さんと、皆それぞれの一番の好きな推しを言った。


「フェイカーズよりも、やっぱりチョコチップの方が凄いよ!! だって一人で動画制作をしているんだよ」


「チョコチップよりも、美沙さんの方が音楽のセンスがあって凄いわよ。アイドル系UTuberなら、ルックスと歌は最も重視するところよ」


「そんな2人以上に、古都とキョウの2人の方が凄いと思うよ。この2人がいなかったら、そもそもフェイカーズなんて誕生していなかったわけだしさ」


「でも、やっぱり一番凄いのは優ちゃんだと思うよ。優ちゃんがいなかったら、あの凄いと思えるフェイカーズは完成しなかったんだから」


 その後、火花さん達がそれぞれの推しの好きな点を言い合い、熱く語り始めた。


 皆がそれぞれの好きな推しを熱く語っているところ悪いけど、アイドル系UTuberにあまり詳しくない私には到底ついて行く事が出来ない会話であった。





 火花さん達がそれぞれの一番の推しを熱く語り終えた後、今度は私にスピアーズの主な活動を見せる為に火花さんが私にスマホを差し出して来たので、私はスマホに映し出されるスピアーズの動画を見始めた。


「なるほど。アイドル系UTuberと言っても、歌や踊りだけではないのですね」


 火花さんから渡されたスマホ内に映るスピアーズの動画内容は歌や踊りだけでなく、観光地らしき場所での旅動画や地元の飲食店での食レポ動画、それ以外にもメンバー内のトークをメインとしたラジオ動画があった。


「まぁ、歌や踊りだけだとすぐにネタが尽きてしまうのでそれ以外の動画もあるんだよ。最も、私達が出演しているチャンネルであるSPレディオの最大のメインは、AIやメタバースを使った地方ビジネスだからね」


「そう言えば、早川さんがそんな事を言っていましたね」


 私は今朝の早川さんが言っていた事を思い出した。


 その後も、火花さんからスピアーズのおすすめの動画をいくつか紹介してもらいながら、楽しくお喋りをやりながら動画を観ていた。





 そんな感じで続いた話は、夏の夜空の下にあるツリーマウスの中でやっていたという事もあり、まるで皆でキャンプにでも来たかのような非日常感もあり、時間が経つ事さえ忘れてしまう感じであった。


「あっ、そろそろぷんぷりぃ劇場の最新動画が投稿される時間だよ」


 そろそろ眠たいと感じ始めた頃、突如氷山さんがアニメ系UTubeチャンネルである『ぷんぷりぃ劇場』の最新動画が始まると言った為、私は今までどのくらいの時間話をやっていたのかがうっすらと分かった。大体2時間近く話をやっていたかも知れない?


「もうそんな時間なんだ。せっかくだしさ、今日はみんなで一緒に観ようよ」


「そうだね。最新動画をみんなで一緒に観よう」


 氷山さんの一言を聞いた後、改めて時間を確認をした火花さんの一言により、これからみんなで『ぷんぷりぃ劇場』の最新動画を一緒に見る事にした。


「そうだ、リーフィも私達と一緒に観ようよ」


『それは夜空を見るよりも面白いですか?』


「みんなで観る動画は、夜空よりもずっと面白いわよ」


 皆で『ぷんぷりぃ劇場』を観ようとした時、1人で夜空を見続けていたリーフィも誘う事にした。


 その後、私達はスマートグラスを装着した。


「それじゃあ、動画を映し出すよ!!」


 火花さんがそう言った後、私達がかけているスマートグラスにUTubeの最新動画の映像が映し出された。


 私達だけしかいない空間で観るUTubeの動画。リーフィも含め、その場にいる人と一緒に同じ映像を観たりするという行為は、昔の人達なら当たり前の様に行っていたとしても、今の時代を生きる私にとっては滅多に行わない為、貴重な夏の思い出のひとつとなった。

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