第六話

「今から俺の剣でお前の全てを斬り倒す!!!」


 俺は奴にそう豪語した。

『ギャアァァァァァァアオオォォォォォォォォ!!!!!』

 凶悪の猛獣が吠えた。そして、

『魔剣…………デス……サイズ……召喚…………』

 奴はそう言い、地面から闇に覆われた剣が出現した。俺はアイリーンを腕から離す。

「アイリーン、お前は今すぐカリーとバルトルトを起こしてこのシェルターから抜けてくれ」

 俺は両手で剣を構えてそう言った。すると、アイリーンが心配そうな顔をした。

「バルサ様、あなた一人で大丈夫なんですか?」

「安心しろ。こう見ても俺、英雄になりたくて剣の修行したからな。だから、まず今いる敵を俺一人で倒さなきゃ意味がねえんだ」

 その直後奴が俺の剣の領域に入り込み、縦に剣を振るった。

 俺はなんとか横に剣をクロスさせ防ぐ。その途端、俺の背後に大きな衝撃が走った。

「早く!! 早くここから離れろ!!」

 俺は必死にアイリーンに叫ぶ。アイリーンはすぐ行動する。

 奴がもう一度、左に剣を振るった。それもまた俺が防ぐ。

 それに怒った奴は縦、右、左、右斜め下、左と次々に剣を振るう。だが、俺の体に一つも傷つけられない。

 そして、奴は無詠唱で黒い炎を放つ。だが、俺はその炎をいとも容易く聖剣で地面にたたき落とす。


「バルサ様!! 後は頼みました!!!」

 アイリーンの声が聞こえた。脱出の完了ができたようだ。

 俺はニヤッと笑う。だが、その声は奴にも届いていた。

ベリ……アル……・イ妨害シャウト!!」

 奴が言う隙に俺が魔法を発動した。すると入り口に大きな爆発が起き、土で完全に埋もれた。

「おいおい、お前の敵は誰だ?」

 俺が奴に問う。

『ンンガアアアアアアアアアアアア!!!!』

 奴は町中に響かせるぐらいに吠えた。

 俺は両手で剣を構える。

 すると奴が背後に突如現れ、剣を振るった。

『!!』

 俺は背面で剣を受け止めた。

「これだけか?」

 俺は奴の方に目を向け、挑発する。すると、奴は姿を消していた。

 どこだ?

 俺は神経を研ぎ澄ます。そして、気づく。

『グルララアアアアアア!!!』

 奴は地下から跳び出して無作為に剣を振るった。だが、俺は半歩後方に移動しギリギリかわす。

 奴がまた剣を今度は縦に振るう。俺はその剣を英雄の剣こいつで弾いた。

 そして、俺は奴の左胸に突き刺した。奴は口から黒いものがとび出す。

 だが同時に奴の体は溶けていった。

 俺は再び神経を研ぎ澄ます。すると、俺の視界が暗くなる。

 夜の暗さではない。これはまるで「無」だ。

 その時、左方から石を蹴った音がした。

 これは奴の足跡か? いや、これは違う!! 

 俺は途端に前方を走りだす。すると、稲妻が俺の視界をよぎる。

 間違いない!! 奴は必ず前にいる!!

「ここだ!!」

 俺は剣を斜めに大きく振るった。

『ガアアアアアアア!!!』

 奴の腹部に大きな切り口を入れた。それと同時に視界の暗さが元に戻った。

 だが、奴は懲りない。すぐさま俺を剣で斬りつける。

 俺は半身で避ける。その直後に下から上に剣を振るう。

 奴は俺の攻撃に反応し上に跳ぶ。そして、

『グルララララララ!!!』

 奴はデスサイズで大きく縦に振るった。俺は横に半ステップ動く。

 その時、俺の腕は間に合っていなかった。だが、俺の腕は斬れず奴の魔剣の刃が一瞬で溶けた。そして、

「もう、終わりだ」

 俺は奴の首を取った。俺はやっと奴らの仲間の一体を倒したのだ。だが、奴を倒した瞬間、俺の脳内にある記憶が浮かんだ。


『パパあ!!』

 これは奴の記憶だ。

『何だい?』

『あのねあのね、さっきね……』

 平凡な家庭だ。奴はこの自然豊かな広大な土地で奥さん、娘と一緒に暮らしていたようだ。だが……

『お、おい!! ジェリー!! リン!!』

 奴が家に入った時、何者かによって奥さんと娘を同時に失った。奴はそうとう嘆いた。

 そして数日後ある宗教団体が奴を訪問した。それは自分の大切なものを壊したものを憎む暴力宗教だった。そして、そこを束ねるものの名が「魔王」だと言う。

 それから奴は幾度も犯罪を犯した。そしてその度に魔王の恩恵をもらった。

 だがある日、王宮にやっと捕らえられた。

 ここからはアイリーンが言ったこととおんなじだ。

 そうして奴は凶悪の猛獣ティラノになったのだ。


 俺は確かに奴らの仲間を倒した。

 でも、なんだろ? この感触。俺の心は何故か苦しかった。

「なんだよ……。こんなの……何も嬉しくないじゃないか!!!」

 奴も元は人間。今思うと俺は奴があんな事を言ったことであいつらに操られていたことがわかった。

 とにかく戻ろう。あいつらが待ってる。

 俺はあいつらがいるところに向かった。

 だが、ここでが止まった。このことはすぐにわかった。

 崩れた天井から、時々落ちる瓦礫が宙に浮いていたのだ。

「あら? もう倒しちゃったのかな?」

 誰かがここにいる。俺は聞こえたほうに体を向けた。

 そこにいたのは黒く染まった誰か。

「お前は誰だ?」

 俺は奴に問う。

「私? さあ? 誰だろうね?」

「とぼけるんじゃねえ!! 俺は誰だって聞いたんだ!!!!」

「いいじゃない? そんなこと」

 誰かは俺の顎を触る。俺はその手をはたいた。

「それじゃあお前はいったい何者だ??」

「さあ?? でも、いつかはあなたと出会えるかもね」

「は?」

 俺は奴に苛ついた。

「あなた、その口調、似合わないよ」

「お前にそんなことを言われたくねえ」

「そ、ならそれでもいいけど。あ、もう時間だ!!」

「おい!! どこ行く「じゃあね!! バルサ君!!!」

 誰かはどこかへ消えた。それと同時に宙に浮いていた瓦礫が落ちていった。

 なぜ俺の名前を知っていたかはわからない。それより俺はあの最後に言った言葉に耳覚えがあった。

 そして、俺はボソッとある少女の名前を言った。

「……ルシ……フェル?」

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